第三十五話 学校で(オリヤン独白)
ボクはオリヤン、ギルバートの息子だ。色々あって父さんは奴隷に落とされてしまい、ボクら家族は別れなきゃいけなくなった。でも母さんもボクたち兄弟も父さんのことを信じてたんだ。そうしてとうとうまた一緒に暮らせる日がやってきた。
実は父さんの身分は今でも奴隷のままだ。だけど父さんを買った人が凄かった。王都で大流行しているエアコン木箱を作ったレン・イチジョウという人だ。この人がボクと弟のペールを学校に通わせてくれると言った。しかもイチジョウの家名を名乗っていいと言うんだ。
学校は王都にある普通院。隣には貴族院もある。入学の手続きに行った時にイチジョウ家の者なら貴族院にも通えると言われたけど、レン様は普通院で手続きをしてくれた。父さんが貴族に仕えていた関係で作法を知らないわけではなくても、貴族院なんて嫌だと思っていたからよかったよ。
「オリヤン・イチジョウです。今日からよろしくお願いします」
ボクとペールが入学することになった普通院は誰でもいつからでも入れる。ここは読み書き計算の基礎を学ぶと教えられていた。
一クラス三十人前後で、全部で二十クラスくらいある。ある程度入学の時期でクラス分けされているそうだけど、ボクとペールは別々のクラスに振り分けられた。まあペールなら一人でも大丈夫だろう。
「オリヤン君はあのイチジョウ家の方ですわよね?」
貴族院には貴族家の人しか入学出来ないけど、普通院に身分の制限はない。ボクのクラスにも貴族家の人が何人かいる。その何人かのうちの女子が三人、一限目の授業が終わったところでボクに話しかけてきた。
「はい。そうです」
「レン・イチジョウ様にお子様がいらっしゃると聞いてはおりませんが、貴方はご親戚なのかしら?」
「いえ、違います。ボクの父がレン様にお仕えしているので、イチジョウを名乗ることをお許し下さったんです」
「そうだったんですの。私はリンジー・レンデル、レンデル男爵家の三女で十三歳。こちらはケイラとレノア。二人とも我が家のメイド見習いですの」
「はあ、よろしくお願いします」
「これで私たちはオリヤン君のお友達ですわね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ! そうですわ。お友達になったのですから親睦を深めませんといけませんわね。今日の放課後、オリヤン君のお宅にお邪魔してもよろしいでしょうか」
「は?」
入学初日から来たよ。実はレン様から、イチジョウの家に取り入ろうとする者がいるかも知れないから気をつけるようにと言われていたんだ。だけどいきなりお屋敷に来たいと言われるとは思ってもみなかった。
「ごめんなさい。レン様に聞いてからでないとお招きするわけにはいきません」
「まあ、それはそうでしたわね。ではお宅に行ってその場で聞いて頂けますかしら?」
行けば断れないとでも思っているのだろうか。レン様はお優しい方だけど道理の通らないことは絶対にお許しにならない方でもあると父さんから聞いている。そして貴族の傲慢さもご存じで、だからこそこういった場合の対処方法も教えて頂いていたのだ。
「リンジー様」
「あら、そんな堅苦しい呼び方をなさらなくてもよろしいですわよ。気軽にリンジーとお呼びになって」
「いえ、ボクは平民でリンジー様は貴族家のご令嬢ですからそのようなご無礼は出来ません」
「そ、そうなの? オリヤン君も貴族のような喋り方をされるのですわね」
そりゃそうだ。嫌と言うほど父さんに言葉遣いを叩き込まれたのだから。
「うちに来てその場で聞いてほしいと言うことでしたね。でもレン様は普段王都の屋敷にはいらっしゃいません」
「そうですの? ではどちらに?」
「王都から馬車で半日かかる別のお屋敷にいらっしゃいます。ですから確認には少なくとも一日、放課後ですと今日中に許可を頂くのは無理ですね」
「では明日ならよろしいかしら?」
「リンジー様は入学早々ボクに学校を休めと?」
「お父様にお願いすれば済むことでは?」
「父さん……父には屋敷を守る仕事があります。子供の遣いを頼めるわけがありません」
「そ、それではいつならよろしいのかしら?」
しつこいなあ。
「申し訳ありません。王都の屋敷にはレン様が秘匿なさっている多くの物がございます。たとえ聞けても許可はなされないと思います」
「なんですって! オリヤン君はそれをご覧になりましたの?」
「いえ。ボクも見たことはありません」
「でしたら……」
「レン様は礼節をとても重んじる方です。リンジー様が屋敷を訪れたいなら、まずはお父上のレンデル男爵閣下よりお申し出を頂く必要があると思います。それでも許可は下りないと思いますが」
「リンジーお嬢様に対し何たる無礼な!」
「オリヤン・イチジョウ! 今すぐお嬢様に謝りなさい!」
「一つよろしいですか?」
「何かしら?」
「入学手続きの時に学校の職員の方に言われたのですが、レン様は国王陛下の覚えがめでたいそうです。万が一私が蔑まれるようなことがあれば、その貴族家はお取り潰しになるかも知れないと言われておりました」
「なっ!?」
「リンジー様、今でしたら今回のお話は聞かなかったことにします。そちらのメイド見習いの方の発言も。いかがなさいますか?」
「くっ……ケイラ、レノア、行きますわよ!」
謝罪もなしか。話は聞かなかったことにするけど学校でのことをレン様に報告するのは、学費を出して頂いているボクの義務だ。レンデル男爵家の令嬢から接触があったことだけは伝えなければならない。
帰宅して父さんに話すと、レン様は分かったとだけ返事を下さったそうだ。男爵家はおしまいなのかなと少し後味の悪い思いをしていると、父さんはボクの考えていることが分かったかのように大丈夫だと頭を撫でてくれた。
これは後で教えられることなんだけど、レンデル男爵家が発注していたエアコン木箱の納期が冬にずれ込んだそうだ。しかも遅れの原因は上位貴族からの発注があったからだということになっているらしい。
さすがはレン様、きっとボクの立場を考えて下さったのだろう。ボクはしっかりと勉強して、一日も早くレン様のお役に立てるようがんばろうと心に誓ったのだった。
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