第15話「今日の依頼は平和なはずが」
ギルドの朝は相変わらずの喧騒だったが、俺たちはその中でも比較的静かな方だった。
「今日は軽めの依頼にしておきましょうか。虫は……もうこりごりですし」
ユアンが小声でつぶやく。完全にトラウマになっているようだ。
「虫は出ないって聞いてるわ。今回は“街外れの遺跡跡での調査兼採集”。主殿、遺跡よ! 文明よ!」
リュミエルが無駄にテンション高く説明している。
セリアはすでに剣の手入れを終え、やる気満々だ。
「おお、では暴れてよいのだな! この銀剣にて依頼達成まっしぐらだ!」
「いや、今回はあんまり暴れる必要は……って、もう聞いてねぇな」
そんなやりとりをしていると、背後から妙に芝居がかった声が聞こえた。
「よう、お前らが噂の新顔パーティか?」
振り返ると、赤いマントに羽根付き帽子、剣と杖を両腰に構えたいかにも“痛い系”の冒険者が仁王立ちしていた。
「俺様の名はゼクス・ヴァレンティーノ。リグリッドの頂点にして、孤高の伝説級だ」
「はぁ……それはすごいですね」
俺は敬語で返す。セリアが剣の柄に手をかけたが、軽く制止した。
「この依頼、オレ様も受けたからな。どうせ同じ場所行くなら、一緒に行ってやるよ」
勝手についてくるなよ……とは思ったが、断ってもついてきそうだし、戦力的に足を引っ張るほどでもなさそうだったので黙っておくことにした。
遺跡は、街から少し離れた丘の上にあった。石造りの廃墟はすでに崩れており、風雨にさらされて半ば埋もれている。
「主殿、なんか……地面が変じゃないか?」
セリアの指摘と同時に、俺のセンサーにも反応があった。
「魔力の集中……地下に何かあるな。イリス?」
『解析中。構造の不安定化を検出。危険です』
その瞬間、地面が崩れた。
「うわっ——!」
俺、セリア、ユアンの三人が落ちた。
「カイ! ユアン! ……って、私も落ちるーっ!?」
落下先は浅い地下空間。どうやら古い祠のような構造だった。
「いてて……って、なにあれ」
地面の奥から這い出してくる影は、濃密な魔力をまとった黒い泥のようだった。泡立つように脈動し、歪に変形しながら不気味な光を放っている。
「魔力の暴走体……!? 主殿、どうしますか!」
「倒すしかねぇな。ユアン、後方支援頼む!」
「は、はいっ!」
セリアが即座に踏み込み、銀剣を振り抜く。風を裂く軌跡とともに、斬撃がスライムの表層を引き裂いた。だが、黒い粘液は弾力を持って刃を呑み込み、斬られたはずの箇所が即座に再生する。
「くっ、弾力が……!」
「セリア、切り裂くより焼き切る方が早い。弱点をスキャン中……!」
俺はヘルム越しにHUDを展開。敵の魔力波形を解析し、赤くハイライトされた核らしき光点を特定する。
「見えた。中央にコア反応、プラズマナイフでいく!」
腰から抜き放ったナイフの刃が、青白く燃え上がる。空気を焼く熱と微細なプラズマの閃光が軌道を描き、俺は一気にスライムの中心に切り込んだ。
刃が敵体に突き刺さる瞬間、蒸発音とともに紫電が奔る。粘液が爆ぜ、暴走体が苦悶するようにのたうち回る。
「まだよ! 燃えなさいっ!」
上からリュミエルの魔法が炸裂する――はずだった。
「助けてやるぞーッ! 俺様に任せろ!」
ゼクスが全力で飛び降り、真下にいたカイたちの戦場へ着地――その直後、タイミング悪く魔法が直撃。
「ギャアアアアアア!!」
地鳴りとともに爆風が地下空間を吹き荒らす。瓦礫が飛び散り、魔力スライムが吹き飛ぶ。
「う、うおっ!? 巻き込むなっての……!」
「な、なんで今来るのよアイツ……!」
だが結果的に、暴走体は爆散。残された黒い魔力の塊も、紫煙をあげて消えていった。
最終的には全員無事に脱出し、魔力スライムは消滅。
ゼクスはすすけた顔で言った。
「……次は勝つからな……!」
そしてよろよろと去っていった。
「主殿、あれは本当に伝説級なのか?」
「伝説ってのは、もっと静かで強いもんだと思うぞ……」
『ちなみにこの遺跡、旧文明の構造と一致します。封印型祭壇の可能性あり』
イリスの言葉に、俺はふと空を見上げた。
「……やっぱり、偶然じゃなさそうだな」
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