そら、懐からシュッと出していきますわ。
そう言いながらも、荷馬車の隅に座る夫人の頭部の手当てした跡を見て、だいたいのことは察した様子だった。
もう何百回では効かない。この門番の父親が生まれる前よりここを行き来しているエルフの商人。形式的ながら通行証とギルドカードをチェックする。
無論、ショーの分も。
「初仕事が老舗商人の護衛とは幸先良しと言ったところだな、少年」
「兄さんも悪い冒険者をちゃんと見分けてな」
「フンッ、当然だ。⋯⋯通ってよし」
パミラの町。マグニ大陸のやや南東に位置する人口1万人の町。周辺には、ワタ村、タネ村、セキ村、チチ村、ミツ村など、1次産業が盛んな属村がある。よって良い収農品集まる為、商売町として有名であり、町の名物は賑やかな市場と金運を呼び込む大きな噴水。かつては、大陸有数の強豪マジフトチームの本拠地でもあった。
ワタ村方面からやって来ると、通過するのは西側通行門。それをくぐると、左手には2階の窓に大きく下手くそな蜂の絵が目立つ大衆向けの飲食店がある。
これを見るとワタ村の住人は特に、パミラにやって来たなぁという気持ちになるという。
「まずは夫人をお医者さんのところへ連れていかないとね」
「そうだね。しかし⋯⋯」
荷馬車を引いたまま町を練り歩くわけにもいかない。馬を連れていい区間は限られている。診療所は今いる西側の門からは少し距離がにあった。
まずは在籍している商業ギルドに向かい、馬小屋にフケ掛かっているその子を預けて来なくてはいけない。
そこでショーは提案する。
「俺がお馬を連れてギルドに向かおう。旅立ちの挨拶を兼ねてね。旦那さんは早く夫人を連れて行くといい」
「えっ、それは⋯⋯」
馬もそうだが、積んでいる荷物も夫婦にとっては大切な財産。とはいえ、この少年がいなければ今頃は⋯⋯。という思いもあるが、自分の妻の魔法を率先して水浴びに利用してお灸を据えられた記憶も蘇る。
それは旦那自身も参加していたが。
「私なら大丈夫です。ギルドに寄ってからでも。何ならこの辺りで座って休んでいますわ」
「そう言って気付いた時には倒れていたダチの親父がいた。あなたは頭を打っているんだ。すぐ診て貰わないと。旅立ちの日にエルフを死なせたなんて。同族総出で命を狙われそうだ」
ショーが馬の手綱を付け替えようとすると、エルフ夫妻は吹き出すように笑った。
「確かにそうかもな」
「間違いありませんわね」
「いや、否定して下さいよ」
2人は必要な荷物だけを持って、診療所を目指して町の中央へ。ショーは壁沿いに歩き、商業ギルドへと向かう。
普段から大人しいという印象の馬だったが、今日はちょっと違う。ただ歩いているだけだが、周りの人や物が目に入る度に気を散らしている。事ある毎に頭を高く上げようとする。
その度にショーは首を叩きながら真横で手綱を引き、なんとか落ち着かせながら早足で歩いた。
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