寄生した少女

(……あれ?)


意識が戻った。

驚いたことに、痛みはない。

けど何か、妙に体が重い。

体温は高く、手足が。

いや、これは手足ではない。


鋭い鉤爪、分厚い鱗、尾、そして翼。


「……え?」


壁に映る巨大な影。

それはどう見ても人間のそれではなく。


巨大なドラゴン。

それが、自分だった。


(わ、わたし、火竜に……?)


混乱する頭の中に、一筋の理解が走る。

「寄生」

それは「寄り添う」でも「共に生きる」でもなかった。

殺した相手に寄生し、その肉体を奪う。

それが、リリィのスキルの正体だったのだ。


呑まれたはずの彼女は、バルガロスの意識を侵食し、乗っ取ったのだった。

目の前に広がるのは、見下ろすようなダンジョンの景色。

すべてが小さく、脆く見える。


身体中に、強大な力が漲っていた。


(……わたし、こんなに……強いんだ)


今なら、あの仲間たちを。

裏切った者たちを、容易く焼き尽くすことだってできるだろう。


けれど、リリィは動かなかった。

ただ、ゆっくりと息を吐き、灼熱の蒸気を夜空に放った。


(これから、どうしよう……)


今更彼らに復讐する意思はわかなかった。

冒険者に戻る道もない。

人間として生きることも、もうできない。


このダンジョンの奥深くで。

リリィは、火竜「リリィ・バルガロス」として、新たな生を歩み始めるしかない。


寄生の姫の冒険は、こうして始まった。

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