2-1 優香の温もりと銭湯の湯気


彼女は着替えが終わった俺を銭湯に連れていくと言い出した。

「これ以上迷惑は掛けられない」と言ったが、優香は『気にしない!、いくよ』の一言で銭湯へ。

最初は怖くて動けなかったが彼女の説得力に根負けし、今歩いている。

俺は内心すごく警戒していた。

また裏切られるのでは無いかと言う恐怖が頭を支配していった。

もらった胃薬が効いてるのか、それともサンドイッチのおかげかはわからないが、胃の具合はマシになっていた。

地面を濡らしていた雨はいつの間にか止んで太陽の光が雲の隙間から射していた。

濡れたアスファルトから立ち上る独特な湿度感が鼻を抜けていく。

「あの…」

俺は思わず優香に声をかけた。

『何ですか?』と優香は俺を見る。

「どうして見ず知らずの人間にここまで?」と俺が問うと、

『私看護師やってるの、だから貴方の事を見た時から放おっておけなくて…』と言う。

彼女の声は高めで特徴的だが嫌な感じはしない。

声だけ聞けばアニメに出てきそうな感じが癒される。

改めて彼女を見ると丸メガネにジーンズ、そして青いラインが入ったボーダーシャツで少しぽっちゃりとした感じだ。

愛らしい彼女の癒し効果を更に引き立てている。

『さ、着いたよ』

歩いて5分くらいだろうか、ノスタルジックと言う言葉がピッタリな銭湯に来た。

よくある真ん中に番台があって左右の入り口が男女別になっているやつだ。

彼女は新人時代によく来ていた場所だと言う。

稀に初心に帰りたい時に来る事もあるみたいだ。

入り口の前に来ると桶の当たる音や人の笑い声が聴こえてくる。

その中の暖かさとは裏腹に、俺は茜に裏切られた悔しさと虚しさで小刻みに震えていた。

「俺、やっぱり迷惑掛けられないです…」

彼女にそういうが彼女は

『私が誘ったの、お金も出すし何なら少しの間なら面倒を見られるから、気にせず行ってきて』と言う。

俺は思わず彼女に名前を訊いていた。

『私の名前は中村優香、よろしくね!』

俺を癒していた手が再び差し出される。

俺はその手を握り返した。

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