第四章08 闇の代表取締役ノア(残り十八時間)
この日もロズリーヌはいつも通り朝四時に起床し、支度を終え、朝食を楽しみながら一日の予定の確認をした。
そろそろ屋敷を出る時間が近付いてきて、さて、と目の前に並んでいる二人を眺める。
「今日の貴方たちは……」
ロズリーヌのマゼンダの瞳が煌めいた。マルティーニとピエールの胸の前に黄金の砂時計が現われる。二人の命の砂の量には差があるけれど、十分な量の砂がさらさらと少しずつ落ちてゆくのだった。闇の代表取締役ノアなる人物から手紙を受け取ってから行っている、せめてもの予防線である。
「問題はないみたいだな。それじゃぁ、今日も張り切っていくぞ」
ロズリーヌがパンッと手を叩く。
そこへ扉を叩く音がして、侍女が入室の許可を求めて来た。ロズリーヌが入るように言うと、侍女は朝の挨拶をして、ピエールから銀のワゴンを引き継いだ。
「……」
徐にロズリーヌは瞳に【導き】の光を閃かせ、侍女の寿命を読んだ。
「!」
黄金の懐中時計が侍女の胸の前に出現した。懐中時計に残された時間はあと十八時間。
ロズリーヌは部屋を出ようとしていたマルティーニとピエールを呼び止めた。
「使用人たちを数人ここへ集めてくれ。十人くらいでいい!」
二人は切迫したロズリーヌの様子から何かを感じ取り、早急に侍従を集めて戻って来た。ロズリーヌは再び【導き】の力を使って彼らの寿命を見る。すると料理係も庭師も御者も皆、胸の前に懐中時計をぶら下げて、刻々と命の時間を減らしているのだった。もちろん時間はあと十八時間だ。
「……下がっていい」
額を押さえるロズリーヌを後目に、使用人たちは何だったのだろうという顔をして下がっていった。残ったマルティーニとピエールだけは、心配そうな表情をしている。
「貴方たちの生命力が強いのも考えものだな。――どうやら今夜、この屋敷は何者かに襲撃されるようだ」
「え!?」
マルティーニは驚いた声を出し、ピエールは顎を静かにさすった。
「ノアですか!?」
「おそらく。懐中時計が差していた時間は残り十八時間だ」
スカートの下から懐中時計を取り出したマルティーニは、真剣な表情で文字盤を読んだ。
「ちょうど零時に差し掛かる頃ですね。どうしますか?」
マルティーニの問いかけに、ロズリーヌは待っていましたと言わんばかりの表情で宣言する。
「返り討ちにしてやろう。ノアという人物が直接姿を現そうものなら、捕まえて宝石ドロボウの件を問い質すのだ。ピエール。特製の晩餐を用意してくれ。マルティーニは飾りつけを頼む。お客様をおもてなししよう」
屋敷を襲撃されるというのに、ロズリーヌは悠然とした態度で笑っている。
マルティーニとピエールは一つ頷いて、二人同時に「「仰せのままに」」と頭を下げた。
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