第20話 時代に合っていない魔法

 ブランさんとの鍛錬は苛烈を極めた。

 あの人、普段は温厚そうな雰囲気をしているのに戦闘となるとまるで容赦がない。

 エクレールとの対戦が決まったことにも拍車をかけているのだろう。


 僕もシュウも、組み手をする度にボロ雑巾のようになっていた。

 身体強化魔法〝堅牢剛体〟を使わなくてあの強さなのだ。こっちは基礎強化魔法を使っているのに、まるで歯が立たなかった。


「うへー……疲れた」

「時間粒子じゃ疲労感までは回復させられないからな」


 ギルドでの一日が終わり、僕達は寮の共有スペースにあるテーブルに突っ伏していた。

 治癒魔法代わりに時間を巻き戻して怪我などは治療していたが、体力や魔力は元に戻すことはできない。

 そのせいで、僕とシュウは今までに感じたことのない疲労感に身体を蝕まれている。

 普段使わない身体強化魔法まで駆使したお陰で、反動が凄まじいことになっている。


「どんなに疲れていても、時間は無駄に出来ない。シュウ、魔導書を見せてくれ」

「ごめん、まだ新しい魔導書は書けてないんだ」


 テーブルから顔を上げたシュウは申し訳なさそうに眉尻を下げる。


「新しいのじゃない。ピーカラホイ☆の方だ」

「えっ、でも、あれは……」


 ブランさんに酷評されたこともあり、シュウは乗り気じゃなかった。

 当然と言えば当然だ。


「あの評価はあくまでも経験豊富な魔法使いの真っ当な意見だ。真っ当な魔法使いじゃない僕が見れば新しい発見があるかもしれないだろ」


 これは表向きの理由である。

 本音を言えば、シュウの魔法の本質について立てた仮説が正しいか、それを証明したくてたまらないのだ。


「僕を信じてくれないか」

「わかった。カナタ君がそこまで言うなら預けるよ」


 覚悟を決めた表情でシュウは僕にピーカラホイ☆の魔導書を差し出してくる。使い物にならないと言われても、常に携帯していたあたり、シュウもこの魔法を捨てることはできなかったのだろう。


 魔導書を受け取ると、僕は事前に用意していたメモ用紙と羽ペンを取り出す。

 そして、時間粒子・加速を利用した速読で何度も読み込んで気になった点をメモ用紙にまとめていく。


「シュウ、ピーカラホイ☆の発動条件と魔法の構成要素が噛み合わないんだが、ここって適当にそれっぽい魔法理論コピペして埋めたのか?」

「……はい、そうです」


 明らかに目を逸らしながらシュウは小声で返答する。

 本来、複数の魔法理論を組み合わせる場合は、互いに矛盾が生じないような形で構築していく必要がある。

 ピーカラホイ☆はその構成を無視しているため、矛盾だらけだったのだ。


「別に怒っているわけじゃない。事実確認がしたかったんだ」


 これはブランさんが形無しと評価したのも納得できる。

 数学でいえば、答えがわかっているのに途中式がわからない。


 だから、知ってる公式を適当に入れて誤魔化した。

 シュウの書いた魔導書はそういった〝誤魔化し〟が散見された。


「ここの魔法理論は精霊魔法じゃなくて付与魔法。こっちは蘇生魔法じゃなくて強化魔法っと……」


 メモ帳に修正すべき項目を記載していけば、シュウの魔法の全容が正しく見えてくる。

 これでも僕は膨大な量の魔導書を読み込んでいる。

 未来で新しく提唱された理論では、既存の魔法理論が間違っていたなんてこともザラだった。

 そういった未来の知識を合わせることで、ようやくこのチンプンカンプンな魔導書は読み解くことができるのだ。


「シュウ、はっきり言おう。ピーカラホイ☆はこの時代に合っていない魔法だ」

「時代に、合ってない」


 その言葉が相当ショックだったようで、シュウは呆然と呟く。

 しまった、言葉選びを間違えた。


「待て待て! それは悪い意味じゃない。時代を先取りしすぎてるって意味だ」

「ほえ?」


 シュウは目を瞬かせ、首をこてんと傾げる。


「具体的に言うと二十年後くらいに評価される魔法ってとこか」

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