第7話 それってズルじゃない?

「それじゃあ、早速行こうか」


「うん、って、やっぱりこっちに行くの?」


 ルイスが示した先は、バスが向かっていた方向。つまり、霧が広まってきた方向だ。


「そう、やっぱり根本の近い部分に何かがある可能性が高いからね」


「そりゃ、そうだけど……でも、あっちにはモンスターもいるんでしょ? 私は戦えないよ?」


「大丈夫。視覚強化Sがあれば、モンスターと戦うことくらい簡単だよ」


「えっ? 視覚強化Sで?」


 さっきの話で単に目が良くなるだけじゃないってのはわかったんだけど、でも、戦闘に応用が効くような能力なのかな?


「大丈夫、大丈夫。あ、早速ウルフだ。ちょうどいいから試してみようか」


「えっ!? いきなり!?」


 もうちょっと、こう、心の準備とかないの!?

 まごまごしていると、ウルフがこちらを向いた。


「ぐぅううううう」


「ひっ!」


「ぐぉ!」


 唸りながらこっちに向かって走ってきた。

 やばい! 逃げなきゃ!

 本能が逃げろって叫んでる。


「大丈夫、ちゃんと相手を見て」


 パニックになった心なのに、ルイスの声がスッと入ってきた。


「……ぁ」


 あれ? なんか……

 こっちへ向かってきているウルフの動きがなんだか遅く……


「ぐぉ!?」


 私に向かって飛びかかってきていたウルフを身体を横にすることで避けることができた。


「えっ? 何、今の?」


 攻撃が避けられたことに、戸惑うウルフ。しかし、私の方がそれ以上に戸惑っているよ。


「言ったでしょ? 視覚強化Sの効果は、視力を上げることだけじゃないって。視覚に関わる全てを強化することができるんだよ。つまり、あなたの動体視力だって物凄く上がっているんだよ」


「動体視力……」


 あれだよね? 物が動くのがはっきり見えるとかそういうやつ。


「そうそう、それが物凄く上がったおかげで、相手の動きだってスローモーションになる。まるで達人みたいなことができるってわけ」


「ほへぇ……」


 なにそれチートじゃない? いや、まぎれもなくチートだよね?


「それに、ほら、ちゃんと相手を見たら、相手が何してくるかとかもわかるでしょ?」


「ほんとだ……相手の動きがわかる……」


 初撃を避けられたことで私のことを警戒しつつも、隙を見て飛びかかろうとしいて……あ、今!


「……避けれた」


 また身体を横にすることでウルフが横を通り過ぎていった。


「そんな感じ。ね、戦闘にも応用できるでしょ?」


「確かに……敵の攻撃が避けられる」


 攻撃してこようとしているタイミングとかもわかるから、今の私でも簡単に避けることができた。


「……でもさ」


「うん? 何?」


「確かに避けられるけど、これ、攻撃にはできないよ?」


「あー……」


 事実、ウルフはまだピンピンしているし、こちらに攻撃を仕掛けてくる気満々だ。


「そのうち、体力がなくなって避けられなくなって終わりじゃない?」


「確かに……ウルフの体力って結構高いし……」


「それに、あんな感じで一匹じゃなくて、2匹、3匹に囲まれたらどうするの?」


「視界に映ってない攻撃は避けれないからねぇ……」


 奥の方から、ウルフがこちらに向かってきているのが見える。

 うん、つまり、これはどういうことかと言うと……


「ピンチ?」


「うん、やばそう」


「逃げる?」


「逃げたほうがいいね」


「はい! 逃げます!」


 私は即座にダッシュ!


「ウルフの足は早いから、建物内に逃げ込んだ方がいいよ!」


「わかった!」


 道を走り出す前に、近くの建物に飛び込んだ。

 振り返り、すぐさま、扉を閉めた。


「ぐぁ!」


 ゴッっと扉に何かがぶつかる音がした。

 当然、ウルフだろう。


「……あれ? ルイス?」


 周りを見回してみたけど、ルイスがいない。

 ひょっとしてさっきのぶつかる音ルイスだった!?

 どうしよう。でも、開けるわけにはいかないし……


「ふぅ、危機一髪だったね」


 困っていると、ルイスが扉をスッとすり抜けて入ってきた。


「えぇぇえええ!」


「うわっ、何!?」


「いや、今! 扉をすり抜けて!」


「うん? ああ、言ったでしょ、開発者だって。制限はあるけど、そのくらいはできるよ」


 当たり前のように言うルイス。

 ああ、この子、本当に普通の存在じゃないんだな。喋っているし今更ではあるけど。なんか、今凄い実感した。



「それで……どうしよ、この状況?」


 外にはウルフがいつ扉を破って入ってきてもおかしくない。

 ちなみに、入ってきたのは洋食屋さんみたいなところ。軽く見た感じだと誰もいなかった。多分、もう避難しているんだと思う。

 まぁ、そりゃそうだよね。モンスターが出るところをわざわざ散策する一般人とかいないか。


「うん、流石にその包丁じゃ無理があるからね。危ないから置こうか」


 キッチンから拝借していた包丁はただの護身用です。


「イオナに近接は無理だろうから、戦うなら遠距離攻撃かなぁ」


「遠距離……銃とか?」


「持ってるの?」


「持ってない……」


「だよね」


 確かに、銃でもあったら倒せそうではあるけど、流石にこのダンジョン島でも銃刀法違反で捕まってしまう。


「こうなったらスキルを取るしかないね」


「スキル? ユニークスキルじゃなくて?」


「うん、スキルには色々と種類があってね、あなたの視覚強化Sみたいなユニークスキルの他に、みんなが覚えられる共通スキルがあるんだよ」


「あ、なんか聞いたことがある。それで武器が使えるようになったりするんだよね」


「そうそう、そういうやつ。その他に覚醒スキルなんてのもあったりするんだけど、それは今はいいや」


 覚醒……なんか強そうでちょっと気になる。


「ひとまず共通スキルを取ろうか、本当は学校の授業で取得方法を習うことになっているんだけど、緊急事態だし私が教えてあげるよ」


 先取りってやつか。緊急事態だもんね。うん、ルールなんか守ってられないよ。


「それじゃあ、まずはメニューを開いて。あ、メニューはわかるよね?」


「うん、適正検査の時に教わった」


 メニューと口にするだけで眼の前に透明なウィンドウが現れる。


「そこにスキルってやつがあるでしょ? そう、それそれ。で、タブを移動したら取得可能スキル一覧ってやつがあるから、そこから選ぶ感じだよ」


「タブで移動……あ、こうか、あ、なんかいっぱい出てきた」


 火魔法、水魔法、回復魔法、剣術、弓術、体術……その他にもいっぱい出てる。


「うーん、見た感じだと基礎系のやつが多そうかな。でも、種類はかなり多めだね」


「あ、これって人によって違うの?」


「うん、適正次第で変わるようになっているよ。適正がないやつはそもそもそこのリストに乗ってない」


「私、オールCだったから……」


「系統の低いスキルだったら全部乗ってるかな。ただし、高度なスキルは出てないって感じだね」


「あー、そういうこと……」


 適正ってそういう意味があったんだ。


「で、今必要なのは攻撃系のスキルだよね。そうなると、なんかの魔法系がいいかな?」


 攻撃魔法って言うと、やっぱり火魔法?


「私のおすすめとしては、無属性魔法だよ」


「えぇ? 無属性魔法?」


 なんか弱そう……


「うん、確かにちょっと地味だけど、でも、色々と便利な点がいっぱいあるんだよ。使いやすいし」


「無属性魔法が? どんなことができるの?」


「例えば、無属性魔法スキルを取ると、レベル1では、マジックアローが使えるようになるんだよ。魔力を矢にして飛ばす魔法」


「矢にして飛ばす? でも、私、弓とか使ったことないよ?」


「そこは大丈夫。だってイオナには視覚強化Sがあるんだから、狙いをつけるなんて簡単だよ」


「そんなことまでできるんだ!」


「そうそう、狙いが正確にできるんだったら弓術ってめちゃくちゃ強いんだよね。遠くから狙えるし、攻撃力も高いし」


「なんか確かにいいように思えてきたかも。あれ? でも、弓術じゃ駄目なの?」


「あー、うん、別にそっちでもいいんだけど、イオナ。考えてみて、今、弓矢持ってる?」


「……持ってないです」


 武器がないから駄目か……そりゃ、魔法じゃないと駄目だよね。


「さらに、無属性魔法にはとある特徴があるんだよ」


「特徴?」


「うん、それはね、属性を混ぜることができるんだよ」


「えっと? 無属性なのに、属性を混ぜる? どういうこと?」


 それって無属性じゃなくない?


「簡単に言えば、無属性魔法のマジックアローに、火属性魔法を足すことができるの。そうなるとどうなると思う?」


「えっと、火の矢になる?」


「正解! 火属性がついたマジックアローが発射されるんだよ、そういう感じであらゆる属性魔法を混ぜることができるってのが無属性魔法のルールになってるんだよ」


「へぇ、そうなんだ」


「さらに言えば、属性魔法の方と同時に使うことになるから、アビリティレベルも上がりやすい」


「アビリティってのは?」


「さっき言ったマジックアローとかがそれだね。スキルのレベルが上っていくと、アビリティが開放されていくようになっているんだよ。で、アビリティを使って熟練度を上げていくと、スキルポイントが手に入る」


「スキルポイント……あ、ここに書いてあるやつ?」


 なんか、話が難しくなってきたけど、頑張ってついていかなきゃ。


「そう、今は最初の状態だから5ポイントだね。このスキルポイントは、スキルを覚えるのに2ポイント、スキルのレベルを上げるのに1ポイントが必要だからかなり重要なものなんだよ」


「なるほど? つまり私は今5ポイントあるから、2つのスキルが覚えられるってこと?」


「そういうこと」


 なるほど……つまり、さっきの話は。


「それでさっき言った、火の矢を使うと、2つのアビリティを同時に使用することになるから、アビリティの熟練度も上がりやすいってことで大丈夫?」


「そういうこと! よく頑張ったね」


 うん、本当に学校の授業みたいだった。明日まで覚えてられるかもわからないよ。


「まぁ、とりあえず、無属性魔法を取ってみるのがおすすめってことだよ」


「なるほどね」


 ルイスがそこまで言うなら……無属性魔法かぁ、信じてみよう。


「取るよ、無属性魔法!」


「よし、弓使い仲間!」


 いや、別にマジックアローだけじゃないんだけど……というか、ルイスは弓使いなの?


「あ、なんか取得できたっぽい、それでどうやって……」


 使うの? と聞こうとした時だった。

 バリンと大きな音が鳴った。


「ひぇ! 何!?」


「窓からウルフだよ! ちょうどいいから、マジックアローを使ってみて、アビリティの名前を言えば使えるから」


「うん、えっと、マジックアロー!」


 言葉に出した瞬間、右手に弓、左手に矢が現れた。


「わっ、これ本当に弓みたい!」


「それで、ウルフを狙って、視覚強化で見れば、弱点が赤く光っているはずだから!」


「じゃ、弱点!? えっと、あ、なんか見えた!」


 ウルフの喉あたりに赤い光が見える。


「ソレを狙って放つ!」


「放った!」


 引き絞って放たれた魔法の弓はウルフに向かって一直線に飛んでいき、ウルフの喉に突き刺さった。


「ぐっ!?」

 攻撃を受けたウルフは短い悲鳴を上げて、もがくようにして倒れた。

 そのまま、ウルフは動かなくなり、光となって消えていった。


「たお……した?」


「うん、おめでとう! やっぱり私の目に狂いはなかったね!」

 初めて倒したモンスター、そこに実感はまだないけれど、確かに視覚強化は戦闘にも使えるってことがわかった。


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