第6話 先祖の秘密

 青様が来て、わたしは改めて周りを見渡す。千年前とは少し違うと言われたけれど、屏風びょうぶ御簾みすなどの調度品を見ると現代とは違うことがよくわかる。


「それにしても……ここって」

「俺の屋敷だ。そして、今日からはお前の家でもある。ここにいれば、基本的に安全だと思ってくれたら良い」

「家……。目茶苦茶広いですね」


 所謂、寝殿造という類いの建物だと思う。聞けば二階はないと言うし、平屋の広いお屋敷だ。しかも今いる部屋が、わたしの部屋になるとか。……畳十五畳は余裕でありそう。もう家なんですけど。


「何処に何があるかは、朝花に案内してもらってくれ。……朝花、後を頼む」

「えっ」

「はい、心得ました」


 先ほど来たばかりだというのに、青様は何処かに去ろうとする。しかも「夜鳥、行くぞ」と夜鳥くんまで連れて。

 会釈した夜鳥くんも行ってしまって、わたしはちょぅと驚いた。あれだけ強引に迎えに来たのに、やけにあっさりしていないだろうか。


「……不安、ですか?」

「えっ」

「心護様、置いて行かれてご不安なのかと」

「うっ……。うん、そうだね。もう少し、一緒にいるのかと思ったから」


 何かを期待したわけでは断じてないけれど、もう少し話をしたいと思った。現代日本に冬と桜の花を取り戻す為、わたしは何をすべきなのかとか。

 そう口にすると、朝花ちゃんは少しだけ困ったように微笑んだ。


「実は、青様は今……というか、ずっと、戦いに明け暮れておられます。あなた様の先祖、桜塚の人々と共に」

「えっ、どういうこと?」


 初耳だ。目を丸くして尋ねると、朝花ちゃんは少し待っていて下さいねと一旦席を外す。次に戻って来た時、彼女は二人分の白湯と干菓子を持って来てくれた。


「どうぞ、召し上がって下さい」

「あ、ありがとう……おいし」


 そういえば、目を覚ましてから何も口にしていなかった。怒涛過ぎて。と言うか、買い物に出かけてから何も飲み食いしていない。今更ながら、空腹を感じる。


「そういえば、牛乳と卵……」

「保管してありますよ。青様から寒い場所に置くように聞きましたので、氷室ひむろに」

「氷室があるんだ……今日か明日には使うね」


 氷室は確か、名前の通り氷を保管するための場所だったはず。そこに牛乳と卵を置かせてもらうのは、少し申し訳ない。

 おそらく、ここにはコンロはない。火力は足りないかもしれないけど、後で何か作らせてもらおう。


「……ごめんね、話が脱線しちゃった。青様が何とどうして戦っているのかとか、聞いても良い?」

「はい。心護様も無関係ではありませんから」


 そう前置きして、朝花ちゃんは教えてくれた。青様と桜塚の先祖が相対する存在について。


「青様と桜守たちは、ある存在からこの国を守るために戦っています。その戦いは、日の本に生きる他の者たちは誰も知らぬものです」

「ある存在……?」

「わたくしたちは、それを『呪桜しゅおうぬし』と呼んでいます。この国を滅ぼそうとする敵ですが、青様とは何か深い因縁があるようです」


 詳しくは存じませんが。朝花ちゃんはそう言った。何度か教えて欲しいと頼んだらしいが、青様は絶対に口を割らなかったらしい。


「一体、何者なんだろう」

「戦いの場に赴かないわたくしは、残念ながら見たことがありません。夜鳥兄上ならば、知っていると思います」

「そっか、剣の役割をしてるって言っていたもんね。機会があれば聞いてみることにする。でも、名前からして強そうだけど、桜守に出来ることなんてあるの?」


 こう言っては何だけれど、桜守はただの人だ。昔はわからないが、現代日本の桜塚家は全国の神社にネットワークを持つ他、樹木医として全国の桜の木やその他の木々を守っている。そちらの知識はあれど、戦闘に長けているという話は聞いたことがない。

 わたしの疑問に、朝花ちゃんは明快に答えてくれた。ありますよ、と。


「桜塚の方々は、桜と力を合わせるのです。桜の木の力を借りて、結界を張り、国を守っています」

「つまり、各地に桜を植えるのは、結界をより広げるため……?」

「その通りです」


 流石ですね。そう褒められたけれど、わたしは心から驚いた。桜の木が結界を創り出しているだなんて、想像出来ただろうか。しかもそれが、敵からこの国を守るためだなんて。


「じゃあ、敵は国外からということ?」

「……いえ、どうやらこの国に敵はいるらしいのです。それを外に出さぬようにする役割も、桜の結界にはあるのだとか」

「この国にいる者から人々を守るため、人知れず戦っている……。でもそれが、わたし自身や、未来で桜が咲かなくなることとどう関係があるんだろう?」

「どう、なのでしょうね……?」


 朝花ちゃんも、そのあたりのことは詳しくないみたい。彼女によれば、青様と夜鳥くんは一度出かけると数日帰って来ないとか。まずはこの屋敷のことを知ろうと思い、わたしは朝花ちゃんに案内を頼んだ。


「青様が帰って来たら、色々聞かなくちゃ。その前に朝花ちゃん、この屋敷のことを知りたいから、案内をお願いしても良い?」

「勿論です。ですが、今宵は遅いですから、お休みください。案内は明日、必ず致しますから」


 そういえば、青様と会ったのは夜。どうやらこの世界にも昼と夜はあるということで、朝まで眠ることになった。

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