第22話 ルミナ先輩①

「え~こんバブ~、Vランド所属の花咲ベイビです。今日はいよいよ初めてのゲーム配信をやっていきたいと思います。そして本日やるゲームですが、それは配信タイトルにも書かせていただいたとおり“クリーチャーハンター”です」


 クリーチャーハンター(以下「クリハン」)とは、クリーチャーと呼ばれる巨大な怪獣を狩猟するアクションゲームである。

 プレイヤーはハンターとしてクエストを受注し、広大なフィールドを駆け回りつつ様々な武器を用いてクリーチャーを討伐もしくは捕獲する。

 そしてそうやって集めた素材で装備などを強化しては、さらに強いクリーチャーや難関クエストへと挑んで更なる高みを目指す……というのがゲームの主な概要。

 ソロはもちろんマルチでの協力プレイも可能な、日本はもちろん世界でも屈指の人気を誇る大ヒット作だ。


 でもって今回やるのは今年発売したばかりのそのクリハンの新作。

 まあと言っても発売してからやや時間が経っているので新鮮味は若干薄いのだが、俺が前々から興味があったこともあって記念すべきゲーム配信の一作目として選ばせてもらった。


「というわけで、今日はまさかの親子タッグハンターとして壮大なクリハンの世界に飛び込んでいきたいと思います。よろしくお願いします」

「わーい楽しみ~!」


 配信開始早々、例のごとく俺の隣でパチパチと嬉しそうに手を叩く母さん。

 なお今回は最初から協力プレイをするつもりで俺から部屋に招き入れており、別に侵入されたわけでないので一応そこはご心配なく。


「……え~ただですね、こうして意気揚々と開幕したわけなんですが実は問題がありまして。というのもなにぶん俺が最後に前作をプレイしたのが約2、3年前というブランクありあり。おまけにママに至っては?」

「シリーズ通して初プレイのド素人でーす」

「……はい。とまあそういう事情も相まって『こりゃあこの二人だけだとちょっとグダグダすぎて配信として成立しないのでは?』という懸念がわいてきまして……」

「うん。それで私の方で誰か手伝ってくれる人いないかな~とVランド内で声をかけたところ、本日はこの人が助っ人さんとして来てくれました。それじゃあ“ルミちゃん”どうぞ~」

「ど~も~、Vランド3期生の“星月ほしづきルミナ”でーす。今日はすでにクリハン新作既プレイのルミたんが先輩として、同期及び新人の引率係で馳せ参じました~」


【コメント】

 :おー!

 :ルミた~ん!

 :やったぜ

 :これは頼もしい!


「うふふ。ルミちゃん、今日は来てくれてありがとね」

「そりゃまあ同期のよしみだしね。配信前に『ふぇ~ルミちゃん手伝って~泣』なんて連絡来たらそりゃ来んわけにもいかんでしょ」

「えへへ~、さすがルミちゃん頼りになる」

「まーママみんにはそれ以外で普段お世話になりまくってるからね。こういうときぐらいは返さないと」


【コメント】

 :さすが同期

 :ママルミてぇてぇ


 星月ルミナ先輩――通称ルミたんは、母さんと同じVランドの3期生である。

 宇宙の星々を旅してきた「星の案内人」として、地球の文化や人間に興味を持ち始めたことでVTuberとして活動を開始。視聴者を星の世界へ案内しながら、一方で自身は地球の素晴らしさを学んでいる。

 ビジュアルは髪型が銀色のロングヘアーに紫のグラデーション、瞳は夜空のようなディープブルー。

 衣装は宇宙をモチーフにしたドレスと星屑のようなきらめくアクセサリーを装備。

 あとは旅人らしく、常に傍らには「星のコンパス」と言う名のクリスタル型の小物が浮遊している。

 まさに「海外版かぐや姫」といった印象のとびっきりの美人だ。

 なお、同期ということもあり母さんとは大の仲良し。二人とも“ママみん”、“ルミちゃん”と独自のあだ名で呼び合う間柄である。


 ……とまあこれだけ聞けばなんとなく清楚で美しいだけの常識人のようなのだが、そこは安心と信頼のVランドブランド。

 もちろんそれで終わるわけもない。


「まあそれに今日に限って言えば、期待の後輩くんとも絡んでみたかったしね~」

「期待の……なんか恐縮です」

「あはは、そんなかしこまらないでよ。どうせVランドなんて基本ろくでなしの集まりなんだから。呼び方だってリスナーと同じく気軽に“ルミたん”でいいよ」

「いやいやいや、俺からしたら大先輩ですしそんな……でもじゃあお言葉に甘えて“ルミナ先輩”と呼ばせてもらってもいいですか?」

「うん、なんでもいいよ~」

「ありがとうございます」

「んじゃルミたんは“ベイビん”って呼ぶね」

「あ、はい」


 ベイビん……初めてのあだ名だ。なんかちょっと新鮮。


「え、ちなみにウワサってどういう意味でですか? なんか俺ってウワサになってましたっけ?」

「え、そりゃもういろいろなってるよ。ネットでも社内でも」

「え~……例えばどのような?」

「好物がママの母乳」

「誤解です!!!」


【コメント】

 :www

 :ひどいウワサw

 :まあでもあながち間違ってもない


「いや間違ってるでしょ! やめてください勝手に捏造しないで!」

「え、でもたっくんってママの作ったクリームシチュー好きだよね?」

「え? まあ好きだけど……」

「ここだけのハナシ……あれ、ママの母乳入りです」

「いや入ってないだろ! それこそ捏造だろ! 急にどんな嘘ついてんの!?」

「え~ママみんって母乳出せるの? なにそれ超激アツじゃん。ルミたんも飲んでみたーい」

「うふふ、だめよルミちゃん。私の母乳はたっくん専用なんだから」

「あーそっか。それじゃあしょうがないね~」

「いやルミナ先輩もなんで出る前提で受け入れてんですか? そこは同じ3期生として同期の嘘をちゃんと正してくださいよ……」

「ん? だってママみんが出るって言ってるんだよ? なら出るでしょ」

「なんすかそのムダに厚い信頼感!? こわっ!!」


【コメント】

 :www

 :wwwwww

 :たしかにまーたんがそう言うならしゃーない

 :出るったら出る!(ドン!)

 :これぞ3期生の絆

 :早くもたっくんタジタジで草

 :こいつぁ今日も忙しくなりそうだぜ・・(主にツッコミ的な意味で)

 :オワわくわくすっぞ!



――――――――――――――――――――――――――

どうでもいいあとがきコーナー


クリハンという響きにちょっとだけ卑猥さを感じる自分が恥ずかしい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る