第3話


「おや、君は....?」


 槻本の方を振り返ったその男性は、不思議なものを見る目をしていた。


「あの、あなたは....こ、この写真の方で間違いないですか?」


 「自分の敷地へ勝手に入って来たどこぞの馬の骨と解らぬ男」が今の自分の立ち位置であることに気が付いた槻本は、慌てて男に近付き蒼樹からの写真を見せた。


「うん?......ああ、そうだよ。これは間違いなく私だ」


 写真そのままの男は槻本の心境を知ってか知らずか笑顔で答えた。


「突然の訪問申し訳ありません。僕は警視庁怪事件対策本部から来ました槻本透と申します」


 まだ自分が「初対面なのに自分の写真を持っている不審者」である可能性が残っていたため、槻本は警察手帳を見せながら頭を下げた。


「警察?私は何か悪いことをしてしまったかな?」


 目の前の男は深緑色の右目と桔梗色の左目を僅かに伏せた。


「いえいえそんな。悪いことしていたらもっと大勢で来ますから」


 僕のようなへなちょこ一人で来ませんから、を上手く言い換え、槻本は本題に入った。


「実は今、東京都内で超常的な事件が頻発しておりまして。警察としても見過ごせずに対策チームが結成されたのですが。えーと....」


 そこでようやく男の名前をまだ聞いていないことに気が付いた。


「ああ、私は天国あまくに璃絇りくだ」


 男の方もすっかり忘れていたらしく、申し訳ない、忘れていたよ、と付け足した。


「えー、それで、天国さんに協力していただきたいと思いまして、こちらに参らせていただいた次第です。」


 ところで協力者に会いに行け、と言っておきながら名前も詳しい場所も伝えない上司という者はいかがなものだろうか。後からそれとなく伝えておこうと槻本は心に決めた。


「成程。私にできることがあるのなら協力しましょう」


 今までに出会った人間の中で1、2を争うほど話が分かる天国に、槻本は少なからず感動した。普通は何か文句の一言言われるものである。この時点で天国に対する評価がかなり上がったと言っても過言ではなかった。


「ご協力感謝いたします! それでは詳しいお話を致したいのですが........」


 槻本がどこか座れる場所は無いかと視線を天国から外した。



「うわあ!? さっきのスケスケな動物?!」


 知らないうちに先程まで石碑の傍にいた透明な動物に囲まれていた。小さいものはウサギから、大きい物は恐らくヒグマまで、少し離れた枝に止まっている鳥もいた。


「おや、この子たちの事が見えるのかな?」


 天国は驚いた、と言わんばかりに槻本を見た。よく見ると彼の足元にも小動物が数匹座っている。


「え、これって、見えるとまずい物なんですか....?」


 槻本は僕死ぬのかな? と透明であることを除けば可愛らしい動物を死神のように扱いかけたが、天国がいいや、と笑った。


「まずいというか....見ての通り彼らは生きていない。いわば幽霊なんだよ。だから、見える人が少ないから少し驚いたんだ。そもそもここに来る人間がなかなかいないからね」

「あ、そ、そうなんですね.....よかったー」


 幽霊など微塵も信じていない自分が幽霊が視えるとは何たる皮肉だろうか。透明な動物、もとい動物の幽霊たちは、大丈夫、この人は怖くないからね、という天国の言葉で槻本の肩なり足なり頭なりに思い思いに登りだした。


「警戒されてたのか....というか、天国さんはなんで視えるんですか?」


 リスを頭の上に乗せながら槻本はふと感じた疑問を口に出した。彼は幽霊が視える前提で話していたが、そもそもなぜ普通に幽霊が視えるのだろうか。それにオッドアイと言うのも珍しい。



「ああ、それはね、私は霊媒師......霊やら付喪神を祓う仕事をしているからだ」

「れい、ばい、し......」


 今日史上最も非現実的な言葉を聞いたかもしれないと、槻本はつい天国から距離を取りたくなった。

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