2.気になるアイツはウチの先生-雪貴-


本日のLIVE終了。


機材の全てを

車に詰め込んで

LIVEハウスを後にする。



LIVE終了後。


今もちらちらと残る

ファンたちの隣を

白のワゴンは

ゆっくりとすり抜けていく。



LIVEハウス前で出待ちする

ファンたちを眺める。

 



運転手は憲(のり)。



俺、

宮向井 雪貴(みやむかい ゆきたか)。


バンド、

Ansyalのギター兼ピアノ。


神前悧羅学院悧羅校特進コース在学中。



今日は、

ツアー3日目。



バンドやってる

許可を貰ってない俺は

学校の授業を病気早退で

抜け出してLIVE。





後、残り三回。


どうやって

抜け出すかな。




そんなことを考えながら

窓から外をボーっと眺めた。






「憲、今日……少し走っただろ」


「悪いっ。


 最近……走り気味なんだよな」


「もう少し、次は俺が近づくよ」




今日の演奏、確かに

ドラムの憲さんが

少し早かった気がする。


託実さんと憲さんは、

お互いに今後のことを会話しながら

時間が過ぎていく。




今日のLIVEのミーティングをしながら

移動する車内。



途中、お腹がすいた胃袋を

お気に入りのラーメン屋で

ツルツルっと満たし

解散した頃には深夜1時近く。




駐車場でメンバーと別れて、

一人自宅マンションへと

歩いていく。




俺は帰宅途中、

今日のLIVEのことを

思い出してた。





そう……。


今日も来たんだ。





うちのクラスの担任。

音楽教師。





……緋崎唯香……。




学校の男子たちは

親しみを込めて、

唯ちゃんと呼ぶ。




ステージから

彼女を見つける度に

気になった。



だから……共学とは

名ばかりで

男子校みたいな感覚。



いつも一緒にいる、

百花って女友達と

姿を見せる唯ちゃん。




もう何年も

AnsyalのLIVEに

姿を見せてくれる

熱烈なファンの一人だった。




出会ったときは、

唯ちゃんも学生。





唯ちゃんが

先生となって、

俺の前に現れたのは

今年の4月。




始業式。



異動教師の紹介の時に、

見慣れた顔を

見つけて絶句した。





それと同時に、

何時、ばれやしないか

ひやひやした。




今も、「ひやひや」は

おさまることはないけど

今のところ唯ちゃんが、

Takaと俺が同一人物だと

気が付いた形跡は

感じられない。






緋崎唯香。


ファンクラブ番号、2番。


住所…………。




唯ちゃんの

ID情報は……

すでに……

スラスラっと何も考えずに出てくる。





何やってんだろうな。




唯ちゃんも、

大勢のファンの

一人のはずなんだけどな。




最初、出逢った時から

何回か会って

握手会とか、

ファンミーティングとか

ファンクラブイベントとか。



Ansyal絡みで

会ってるうちに

気になるようになって

貰ったファンレターから

ファンクラブの登録情報を調べた。




流石の俺も

この行動力は

ヤバイんじゃないかって

思ったけど……後のまつり。



やってしまったものは

仕方がない。




今日も身長低いくせに、

ドセンKEEPして

柵にしがみ付いて

踏ん張りながら

俺の名前……必死に叫んで。





唯ちゃんが、

潰されそうになるたびに

ステージ駆け下りて

支えてやりたくなるけど

それは……Takaのキャラじゃない。


俺が出る幕じゃない。




そんなのは……

十夜さんがやるだろ。



今日も何度か、

柵にしがみついて

あっちの国に行きかける

唯ちゃんに十夜さんは、

声かけてたみたいだったしな。



まっ、とうの本人は……

十夜さんに気が付かずに、

必死に柵にしがみついてた。




……そこまでして

……ドセンに居たいかよ……。




そう思う俺と……

そんな唯ちゃんを……

愛しいと思う俺と……。



心の中が

……ぐっちゃになって……。




LIVEが終わって……

握手会&写真撮影。






ステージの上から

フロアーを見渡すと

ちゃっかり、

唯ちゃん……みっけ。




親友の百花ちゃんと

今回も……ばっちり、

当選通知のメールを持って並んでる。




まっ、

当選してるのは確かだよ。


俺がいつも

……頼んでるから。



まっ、

ここは……

裏事情でオフレコだけどね。





自分の番が近づく度に

唯ちゃんは……

緊張するのか、

いっつも足が縺れてさ。




今日も……。



ステージに

一歩上がったとたんに

ひっくり返りそうになってる。



俺が一番傍にいたら

俺が支えてやれたのに……。



今日は籤で、

俺が一番最後に決まった。




唯ちゃんの王子様を

最初の祈に奪われ。



祈を半分睨み付けながら

もくもくと……

自分の仕事をこなしていく。




唯ちゃんまで……

後、二人。




唯ちゃんの姿が、

一人、また一人と近づく度に……

俺も緊張。






唯ちゃんに

……逢いたい……。




だけど……

唯ちゃんは、

俺が通う学校の先生で……

おまけに担任。




バイト禁止、

指導部の許可なしでの

芸能活動禁止の学校で……、

届け出を出さずに……

してる俺としては

気になる相手は天敵なわけで。




毎回、ハラハラ。




次……唯ちゃん。




緊張したのか……まったく……

近づいてこない。





……仕方ないな。


 手……貸してあげるよ……。





『唯ちゃん、ほらっ』





心の中で唱えて……

無言で手を差し伸べる。






恐る恐る……

手を取る唯ちゃん。



唯ちゃんが

俺の手に触れたとたんに……

俺は……グイっと

唯ちゃんを一気に引き寄せる。




唯ちゃんの体が……

一気に……なされるままに動いて

俺の腕の中に……

唯ちゃんがすっぽりとはまる。






『おぉ……、唯ちゃん……』






ちょっぴり幸せな時間に浸って……

思わず……

唯ちゃんを独り占めしたくなる……。




唯ちゃんのその唇を目指して……

ゆっくりと顔を近づける俺。




唯ちゃんも……反射的に……

目を瞑る……。





その時……俺の中のシグナルが

理性に歯止めをかける。




『唯ちゃんは……担任。

 ばれちゃマズイ相手だよ』



「何してるの?」


俺は……

いつものTakaの調子で……

ちょっとそっけなく……

声を降らせる。




戸惑ったような唯ちゃん。

少し……恥ずかしそうに

顔を赤めて……。



「写真。

どうする?」

「……ふっ、普通で……」




いつもと……

変わり映えのない……

写真が完成。





唯ちゃんは……ステージを

がっくし、

肩を落として……退場。





俺は……

その後、他のファンの相手を

Takaとして

イメージを崩すことなく

やり終え今に至る。






自宅近くのコンビニで、

軽く飲み物を購入して

マンションへと帰宅。





学校の宿題を

早々にこなして入浴。




1日の疲れを落として

5時前。



就寝。





睡眠時間は2時間。




7時には起床して……


準備して

……7時半には……登校。






ベッドサイド。




唯ちゃんとの

歴代の2ショット写真が

並ぶ。







……お休み、

   唯……







大きな欠伸をして……

俺は……

ウォーターベッドに

身を沈めた。


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