男女比1:10の世界で追放ものだと勘違いして、ハーレムを作っちゃった男

大田 明

シア・クローウェル

第1話 勘違いする転生者

「エルク・シュレイド――紋章、無し!」


 大きな教会の中で、女性司祭にエルクはそう宣言される。

 その宣言と共に、エルクは前世過去のことを思い出した。


(俺はエルク・シュレイド。そして前世の記憶も今、思い出した。

 俺は異世界転生したんだ。前世のこともエルクのことも理解している。

 厳格な父と優しい母、そして双子の弟であるラウド。四人家族で、何不自由なく生活をしている)

 

 エルクの年齢は5歳。

 5歳になると教会にて『紋章の儀』を受けるのが決まりとなっている。

 大勢の人が集まる教会の講壇で、司祭が紋章を調べてくれるのだ。

 紋章とは生まれた時に神様から与えられるギフト

 火を操ったり、傷を癒したり、紋章の効力は人それぞれだが……エルクには、その力を与えられることが無かった。


 その事実に、エルクには同情の視線が向けられている。

 多くの目にエルクは愕然としていた。

 紋章無しの意味を理解していたからだ。


(ここは能力至上主義のような世界で、紋章が無いとなれば無能に等しい。紋章無しの無能が、生き延びることはできるのか?)


 ゴクリと息を飲むエルク。

 そんな彼の隣に、エルクと同じ顔をした幼い少年が立つ。

 青髪で、まだ若いが整っているのが分かる顔立ち。

 彼はエルクの双子の弟、ラウド。

 次の紋章の儀は、ラウドの番であった。


 司祭の前にある大きな水晶に手を乗せるラウド。

 光る水晶に浮かび上がる文字を、女性司祭は読み上げる。


「ラウド・シュレイド――『王者の紋章』!」


 おおっ! と驚きの声が上がる。

 王者の紋章とは100年に一人が得らるという貴重な能力。

 これを持つ者は、世界の頂点に立てるとまで言われている。


 このことに喜びを爆発させたのは、父親のレオ。

 まだ青年という歳の頃で、しかしすでに厳格な佇まい。

 髪を短く切りそろえ、厳しい目つきの持ち主。

 息子の王者の紋章に手を叩いていた。


「よくやった、ラウド。王者の紋章を手に入れるとは」

「ありがとう、お父さん」


 父親の声に、無邪気に返事をするラウド。

 だがその様子を見ていたエルクは、戦慄を覚えていた。


(この流れはまさか……)


 エルクは固唾をのみ込む。

 さきほどまで笑っていた父親の目が鋭いものに変化し、エルクを捉える。

 エルクはビクッと身を震わせ、その視線から目をそらせないでいた。


(間違いない、これは……追放の流れだ。無能の自分。優れた兄弟。

 そして冷たい父親……どう考えてもこれは追放されるやつじゃん!

 ヤベェエエエエエエエエエ‼ 俺の異世界生活、追放ものかよ)


「…………」

「…………」


 何も言わないレオ。

 エルクは冷や汗をかきながら、父親の視線に耐えていた。

 怯えるエルクに対し、レオは心の中でこう考える。


(エルクが紋章無し? この場合どうやって声をかければいいんだ?

 可哀想。この子にとって辛い人生になるだろう。

 可愛いエルクのこれからのことを考えると泣きそうなんだけど。

 えー、ちょっと神様、紋章無しは無いでしょ)


 外見とは対照的に、内面はエルクのことを心配しているレオ。

 不器用にもその気持ちを息子に伝えることができず、唖然として固まってしまっていた。

 

「ねえエルク。僕の能力、王者の紋章なんだって」

「そ、そうなんだ……良かったな」

「うん。100年に1度現れる伝説の紋章。この力があったら……」


 ラウドは優しい笑みでエルクを見る。

 だがエルクはその笑みを、自分を見下しているものと捉えてしまっていた。


(この力があればエルクを助けてあげることができる。エルクには力が無かったみたいだけど、将来は僕が守ってあげよう)


 心からの笑顔。

 しかしエルクは優しい弟の気持ちを知る由も無く、さらに大量の冷や汗をかく。


(俺を見下している……俺を家から追い出すつもりだな!? 無能の俺と家族でいるのが恥ずかしいと。

 伝説の紋章を手に入れた自分だけがいればいいから、お前は出て行けと言いたいのだろう?

 間違いない。これは完全に追放ものだ。ラウドも父親も、俺を追放するつもりなんだ)

 

 エルクはここで決心する。


(いつ追い出されてもいいように力を付けようと。それはそう遠くない未来に訪れるはず。その時までに力を蓄え、追放に備えておくんだ)

 

 エルクが考えるそんな未来は訪れることはないのだが、しかし彼は真剣そのものであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 そこそこ大きな家。

 エルクたちが暮らしている家屋だ。

 四人掛けのテーブルに、清潔なキッチン。

 絵画などの類は無い、質素な空間。

 

「エルク、紋章無しなんて気にしてはダメよ。紋章が無くても、男子ならそれだけで価値があるのだから」


 キッチンでそう言うのはエルクの母親であるケイト。

 ウェーブのかかった茶髪。

 細い体に豊満な胸。

 彼女の柔らかいエメラルドの瞳が、エルクを優しく見ている。


「ありがとう、母さん。そう言ってくれるのは母さんだけだ」

「え、お父さんも同じように考えているはずよ、ねえ」

「…………」


(そうだよー)


 そう言いたいレオであったが、恥ずかしくて言えない。

 ケイトと二人では素直になれるのに、他の人の前では口少なくなってしまう。

 例え愛する子供の前だとしても、素直に対応することができない。


(やはり父親であるレオは俺を追放しようとしている……あの冷たい目を見れば分かる。

 しかし今すぐ追放するつもりはないみたいだな。子供である俺を追い出すなんて、世間体を気にしているのだろう)


 レオは世間体など気にしていない。

 子供のためなら、世界を敵に回してもいいと考えている。

 自分が生きている限り、エルクを守っていこう。

 彼の残念なことろは、その思いを子供に伝えることができないところだ。


「ちょっとあなた。何か言ってあげなさいよ」

「いいんだ……それより俺、これから剣術の練習をしてくるよ」

「剣術? そんなのこれまでやったこと無かったでしょ。突然どうしたの?」

「力を付けたいんだ。紋章が無いから、せめて自分の実力を高めておきたい」

「気にすることないのに」


(えー、そんなに気にしてるの? ここは可愛いエルクを慰めてやらないと)


 レオはエルクに何か言葉をかけようと思案する。

 だが適切な言葉が思いつかない。

 しかし何か言わなくてはと考え、咄嗟にこんな言葉が出た。


「精々頑張るがいい」

「……頑張るよ」


(足掻いたところで追放は免れない。そんなことをしても無駄だと言いたいのだろう。

 冷たい目を見たら分かるよ。だからこそ俺は努力する。

 力が無いからこそ力をつけ、一人でも生きていけるように強くなるんだ)


「エルク、これ見てよ」


 拳を握り締め、そんな決意を抱くエルク。

 そんな彼に、ラウドがのんきな声をかける。


「何――」


 ベチャッ。


 エルクの顔に何がぶつかる。


 ラウドは母親とケーキを作り、エルクを慰めようとしていた。

 子供ながら菓子作りが趣味で得意なラウド。

 だが作った大きなケーキを持つには、5歳の体では小さすぎた。


 体勢を崩し、エルクの顔にケーキをぶつけてしまう。

 ラウドは青い顔で、その光景を眺めて頭を下げる。


「ご、ごめんエルク。僕、エルクを励ましたかったんだけど……」


 ラウドの謝罪の言葉。

 だがエルクの耳にはそれが届いていなかった。


(いきなりいびりを始めてきやがった……有能が無能をこけおろす。追放もののお決まりだ。

 こうやって俺の精神を疲弊させていくつもりなんだな。

 辛い……こんな環境で俺は生きていかないといけないのか)


 ラウドが頭を下げていたが、顔についたクリームの所為でそれを視界に収めることは無かった。

 エルクは寒気を覚えながら、これからの生活に不安を覚え始める。

 全ては彼の勘違いなのだが、こうしてエルクの物語は幕を開けるのであった。

 多くの女性を伴侶とし、世界最大のハーレムを作る物語が……

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