第14話 番外編 国王の憂鬱 -1/3-
四月十五日。
国王プロノア・ゼ・キルト・ストラヴェルは、謁見の間――玉座の上で、深い深い溜息を吐いた。
国王は紫の瞳を持ち、即位前からほぼ変わらず、金髪を短いおかっぱにしている。
うなじは短くさっぱりと。これは先代国王の真似だ。
国王プロノアの顔立ちは精悍で、少々老け顔だが、そこそこ美形、整っていると良く言われる。身長は百七十五セリチ。趣味は無し。
青い詰め襟服と青いマントを着込み、左手の中指には国王の証である指輪を、薬指には結婚指輪を二つはめている。
国王はまだ若く、今年で四十五歳になる。
先代国王ナイルド・ゼ・キルト・ストラヴェルは良政を敷き、民に慕われた名君だったが、六十歳で崩御した。
先代国王は元々、心臓に持病があり、先代王妃である聖母マティルダが治療をしていたのだがマティルダはもっと早く、先代国王が五十三歳の時に亡くなっている。
先代国王は先代王妃の死後、七年で体に無理が来て、執務中に倒れてそのまま帰らぬ人となった。
その後、プロノアは二十四歳の若さで即位し、それから二十一年。地道に国王を続けている。
――幸いプロノアは健康そのものだ。
正直、政治は未だにさっぱりだが……先代国王が優秀な臣下を残してくれたのでなんとかなっている。
謁見の間は横十メルト、縦十二メルト程度のやや長方形、と言った形の部屋で、最奥に玉座があって、国王はそこに座している。
大理石の床には青い絨毯が敷かれていて、入り口までの道を作っている。入り口は重厚な木の扉。絨毯の両縁は金の装飾で縁取られ、入り口までの壁には白い柱が二本あり、柱と柱の間には青いカーテンが掛かっている。
一見、何も無いように見えるが、カーテンの向こうには隠し部屋がある。
背後の壁には国章が吊されていて、権威を象徴している。ちなみに王冠は来客が無ければ外して、左横にある、専用の台に置いている。かぶったままだと首が凝るのだ。
ここは普段使いの『謁見の間』で、儀式用の玉座は別にあって、そちらはこの五倍の広さがある。儀式用の玉座は左右に近衛兵がずらりと並べる『見せる』為の玉座だが、普段はこちらを使い、近衛兵は置いていない。……聞かれると不味い事が多いのだ。
儀式用の玉座は数段高くなっているが、こちらには段差が無い。この部屋は主に、臣下や身内、親しい客と話す部屋だった。
「宰相、メノムよ」
国王は傍らのメノム宰相に話しかけた。メノムは国王の後ろに控えて、背後に置かれた王冠を守っている。
「……はい」
宰相、クリス・ラ・メノムは若干、三十五歳。
黒髪長髪、長身の美青年で、四角いフレームの銀縁眼鏡をかけていて瞳は灰色。
鋭い目つきの通り、細かい性格をしている。
メノムは今日も、真っ直ぐな長い黒髪を後ろで一つにきっちり結び、黒い詰め襟の貴族服を着込んでいた。
ストラヴェルでは、即位に際して国王が、『自分の宰相』を選ぶ決まりになっていて、国王が替わると宰相も変わる仕組みになっている。
では元いた宰相はどうなるのかというと、引退――ではなく『副宰相』と言う地位が与えられ、そのまま国政の重鎮となる。
今の『副宰相』は二人いて、『レオンク・ラ・ウルフェン宰相補佐官』と『マルコ・ル・ローイ宰相副補佐官』はどちらも先代国王の宰相だった。
現在、レオンクは内政を、マルコは外交を担当している。
国王が呼ぶときには気軽に名前で呼ぶか、マルコを『補佐官』レオンクを『副補佐官』等と呼ぶこと多いのだが、貴族同士ではそうは行かないので、姓名で呼び合っているようだ。
副宰相は、宰相経験者でなければならない、とこれまた謎の決まりがあるので、副宰相の方が実は地位が高い。
――つまり若き宰相メノムが勤める『宰相』というのは副宰相になるまでのつなぎだ。
国王が長生きしてしまえば、一生宰相のまま、と言う事もあるが、先代国王のように若くして亡くなれば、一線を退いたという体で副宰相になれる。
そうすればしめた物で、絶大な権力を振るう事ができる――のだが、残念ながら、レオンク補佐官もマルコ副補佐官も至極真っ当な仕事人で、国王を良く支えてくれる。むしろ優秀すぎてやる事が無いくらいだ。
そのほか、貴族の評議員達もいて……皆、憎たらしいほど優秀だ。
この国は今、おかしいほどに良い人材が集まっている。
長年の人材育成の結果か、はたまた先代国王の人徳か。
現国王プロノアは前世でかなりの徳を積んだらしい。そうでなければ王子に生まれるはずも無い。ちなみに一人っ子だったが、健康で丈夫だけが取り柄なので、病気に罹ったことは無い。
幼い頃、雪で足を滑らせて、真冬の川に落ちた事があるのだが、その時も風邪は引かなかった。
ストラヴェル王国は、今の所、平和だ。
――だからと言って悩みが無いとも言えず……。問題は幾つもある。
が、皆が優秀なので国王はいるだけで十分なのだ。良ければ頷きあまりに悪ければ首を振る。その程度のお飾りだ。
「はぁ。私はこのところ、悪夢に魘されている……分かるか、理由が?」
国王は更にわざとらしく溜息を吐き、メノムに言った。
「……王女殿下の事でしょうか?」
「そうだ」
国王は頷いた。
メノムは察しの良い男だが、これはまあ、察せずとも分かるだろう。
今から三ヶ月程前。第一王女アルスティアがいきなり『精霊騎士になりたい』と言い出した。
そして騎士課程に入ると……。
勿論、大喧嘩になり、そのまま喧嘩別れだ。
その場には、クロスティア騎士団団長にして軍務筆頭補佐官のリズメドル・ギスアド、通称『リズ隊長』もいたのだが……リズはあの性格だ。おかげで、話が余計にこじれてしまった。と言うかアルスティアがリズがいる時を狙って入ってきたのだ。
そもそも国王は『どうせ無理だからいいだろう』くらいに、ほんの少しだけ思っていたのだ。
……ところが売り言葉に買い言葉。リズメドルの奇妙な提案を王女は受け入れ、何だかおかしなことになっている。
第一王女アルスティアは今は亡き第二王妃レイラの、唯一の子供で、気の強いところがあるが可愛い娘だ。
……アルスは国王に似て丈夫で健康そのものだが……溜息も出よう物だ。
「はぁ。騎士団で揉まれて、もう少し丸くなってくれれば良いのだが……あるいはしとやかに」
国王は呟いた。アルスはとにかく落ち着きが無い。元気いっぱい、常に走り回っているような――今思えばあれは体力作りだったのだろうが――跳ねっ返りの王女なのだ。
しかし顔は……故レイラ妃の美しさを余すところなく受け継いで、ものすごく可愛い。信じられない程可愛い。国王ですら、会う度に二度見するほど可愛い。昔も今も超絶美少女で、いずれは絶世の美女になること間違い無しだ。
レイラ妃はとても大人しい女性だったが、国王も第一王妃ロザリナも目を丸くするほどの美女だった。あの母にしてあの娘有りと言ったところか。
ちなみに第一王妃ロザリナも金髪、緑目の超美女だ。彼女は子だくさんのセラ国から嫁いできて、今も夫婦円満だ。
プロノアはレイラは側室になるには大人しすぎるのでは無いか、どこぞの男と結婚した方が幸せでは無いか、と言ったのだが……女二人は国王そっちのけであっと言う間に仲良くなり……王妃同士の仲は重要なので、まあそれならいいかと第二王妃に迎えた。
プロノアは、国王というのは女性についてはかなり得な仕事である。と思っている。
その代わりに面倒な執務がある。そう思えば何とか我慢できた。
アルスはずば抜けて美しいし、評判も良いので、求婚はひっきりなしなのだが……正直言って賢すぎるので、どこの王子とも釣り合わない(と国王は思っている)。
あと、まだ手放す気は無い。手放したくない。絶対に嫁にはやりたくない。死んでも嫌だ。
それはさておき、良い婿を探す、あるいは嫁ぎ先を考えるのは国王の責務なので、早い内から選んでおこうとヒュリス国のアドニス王子を招いてみた。
ヒュリスの国王とは幼い頃からの親友なので『なぁ、お前んの所の、第一王子のアドニス君、アルスの婿候補にしてるから、ちょっと留学とかどう?』くらいの感じで打診すると、あちらも『え、アルスちゃん!? あの超可愛い王女様!? いいよいいよ勿論行かせる! ついでに精霊騎士になれたら箔も付くしいいよね! 三年くらいそっちに送るわ。あ、駄目なら一年で無かった事にしといて』と返してきて、めでたく婚約成立――すればいいのだが、まあ、一応、お相手のアドニス王子と、アルス自身の希望もあるので一旦保留となっている。
二人とも王族だし、好みとか、相性とか、そんな事は言っていられないのだが、アルスはアルスだ。嫌な相手なら、絶対に嫁がないだろう。
もし嫌いな相手に嫁いだとしたら……想像するだけで恐ろしい。きっと相手は、会う度に物を投げつけられるだろう。小石や宝石なら良いが、下手したら大きな石や刃物を投げつけかねないのだ。嫁ぐ前に逃げ出し、そのまま戻って来ない可能性もある。
あの頑固なところは誰に似たのか……全く分からない。レイラ妃だと思う事にする。
プロノアは事前にアドニス王子と面会したが、とても素晴らしい若者だった。
学者肌というのだろうか。優しそうだし、実際そうだと聞いている。容貌も親に似て美少年。眼鏡も良く似合うし。勉学はヒュリスの学者が舌を巻くほどで、剣技は既に国王より強いとか。
試しにプロノアの息子――第一王子タスクラデアと戦わせたのだが、なんと三本のうち一本取ったので、これには驚いた。
タスクラデア王子はとても弱そうに見えるが、その実かなり強く、近衛騎士団長アレン・ル・フォーガスと互角に戦う程なので、アドニス王子は自身の力で精霊騎士になれるだろう。
ストラヴェルの三公爵、ノム・ルネ・ラ・エアリ公爵(二十三歳)も、スタン・ブライア・ル・リノ公爵(五十二歳)も、メロウ・ラ・クーマー・モンティス公爵(四十八歳・女性)も『彼は間違いなく名君になるだろう、王女殿下のお相手にふさわしい』と太鼓判を押している。
プロノアの好感度は百点満点中、九十五点――残りの五点は娘可愛さだ。
唯一の欠点はヒュリス国王から聞いた『思慮深いが、年の割に落ち着きすぎていて積極性に欠ける』という点か。
だが積極性などこれからいくらでも、精霊騎士課程でも身に付くだろう。
アルスは元気いっぱいなので、あれくらい優しげで落ち着いた男性がふさわしい。性格が真逆なので、おしどり夫婦になるかもしれない。
アルスも彼なら文句は無いだろう。
ヒュリス国なら隣だし、あそこは王子が多いのでいっそ婿に来てもらっても、嫁いだ後しょっちゅう行き来してもらっても構わない。精霊騎士課程が終わったら即結婚でもいいくらいだ。
――と、プロノアは勝手に楽しい未来を思い描いていた。
アルスにも出立前『お前の第一婿候補だからな! しっかり仲良くしろ!』とよくよく言い含めたのだが……アルスは精霊騎士課程に入れる喜びではしゃぎ、返事はとても良かったが、あまり聞いていなかった気もする。
アルスの様子は、毎月二回、リーオ副隊長に報告をしてもらっているのだが(なぜかプロノアはリーオにだけは頭が上がらない。元教師だというからそのせいかもしれない。雰囲気、と言うやつだ。月二回というのも何だか、申し訳無く感じる原因だ)……今の所、二人の間に『恋愛っぽさ』は無いと言う。だがまだ二、三ヶ月、とりあえず仲は良さそう、相性は悪くないとの事なので、このまま『友達』で卒業して、その後、婚約、結婚となっても問題は無いだろう。
それはいい。それはいいのだが……。
「はぁ……部屋割りはなんとかならんのか? 仕方無いとは言え……男と同室など……どんな苦労をしているか……」
プロノアは何百回目か分からない溜息を吐いた。
「リーオ副隊長の報告では、とても楽しそう。とのことでしたので、心配はないかと」
プロノアの言葉に、メノムが答えた。
「しかし、どうせならアドニス王子と相部屋にすれば良かった物を!」
「いえそれは、さすがに無理だと、陛下ご自身が仰いました」
メノムがいちいち言ってくる。確かにそう言ったのはプロノアだ。
婚約前の王子と王女が一緒の部屋では、さすがに外聞が悪すぎる。アドニス王子は将来、別の女性を迎える可能性もあるのだ。
と言うか、男と同室も本来ならあり得ないのだが……。
リズは一応『真面目で無害そうなのを選ぶ』と言っていた。
――選ばれた男共に興味はない。
……ただ、本当に真面目かは何度も確認した。
さすがに、名前と経歴くらいは教えてくれたが、毒にも薬にもならないしょうもない二人だ。
シオウ・ル・レガン――ストラヴェル王国南部、レガン領のラオラ地区出身。
魔霊の事件以来、行方不明だった領主の息子。領地再建を放り出して精霊騎士を目指す。あるいは魔霊に対抗するつもりなのか。何にせよ荒唐無稽。跡継ぎが不在なせいで、レガンは大荒れだ。
プラグ・カルタ――西端カルタ領、カルタ伯爵本家の養子。五男。元は教会にいた捨て子。養子に入った後もほとんど人前には出ず、情報はあまりないと言う。
カルタ家の使用人が付けたあだ名は『馬小屋の王子様』。
クロスティア騎士団でも調べられたのはこれくらいだという。
これはどう考えても嫌味だろう。生い立ちを揶揄する物に違い無い。
プラグ・カルタには、アメル・ドーゼという双子の妹がいてこちらはカルタでかなり有名。とても優秀な巫女で、弱冠十四歳にして既に二つ名があり『聖眼のアメル』『熊殺しのアメル』『井戸掘りのアメル』『八つ裂きのアメル』などと呼ばれ尊敬されている。
……二つ名どころか五つ名だ。
彼女は先日、浄化の祝詞『エル=エミド』を考えた。凄すぎて恐ろしい。
と言うか妹の方が情報が多いとはどういうことだ……おそらく出来の悪い兄なのだろう。
ちなみに成績については、国王でも開示は不可能、と言う事で何も知らされていない。
あと、これは微妙に納得がいかないのだが、髪の色、目の色、身長、美醜などの外見的特徴も記載が無く、勝手に調べるなとリーオからきつく言われている。
国王は粘ったが、リーオは全く聞かなかった。あれほど真面目な男も珍しい。
曰く――彼等もれっきとした候補生。夢や目標があって訓練に励んでいる。
二人はアルスと同室になった経緯は知らされていない。もともと選ばれていた、とは露知らず。その場で決まったと思っている。
アルスも二人もお互いに納得して上手くやっているので、国王が娘可愛さに、部屋割りや候補生生活、成績に干渉すると困るのだという。
……気に入らなければ成績を操作して採用から外し、部屋割りも変えようと思っていた国王は一瞬たじろいだ。
そもそも国王が王女とよく話し合い、喧嘩をしなければ、こんな事にはならなかった、然るべき待遇で王女として過ごせたはずだ。とはっきり言われてちょっと落ち込んだ。
と言う訳で、リーオの報告書には、アルスが今、何を学んでいるとか、今週も頑張っているとか、穏やかな様子が書かれている。物の見事に、男子の事は省かれて。
男子はおろか……女子の親しい友人の名さえ載っていない。友人の親族を贔屓しては駄目だから、と言う理由らしい。
アルスは誰と仲がいいとか、同室の二人はどういう少年で、どういう性格か、そういうことが知りたいのに、痒いところに手が届かず――国王は地団駄を踏んでいる。
クロスティア騎士団在籍のノム・ルネ・ラ・エアリ公爵曰く『あの二人なら、大丈夫でしょうたぶん。無害ですたぶん』との事だった。『たぶんとは何だ!』とプロノアは激怒した。
ちなみにリズメドルは『さぁ、リーオに言うなって言われてるしィ』と口笛を吹き出す。全く腹が立つ。
「はぁ……」
「陛下、それで、本日の面会予定ですが」
――メノムが仰々しく、手元の予定表をめくる。
「ああ、今日は誰が来る?」
プロノアは答えた。
プロノアは午前のうちに臣下との面会を済ませ、午後は賓客への対応、何も無ければ適当に過ごす、という決まりを作っている。たまに予想外の事が起きるが、概ね上手く行っている。
「まず、タスクラデア王子殿下、収穫祭の準備について。次に、ミアルカ王女殿下、朝のご挨拶。次、エアリ公爵、アラン近衛騎士団長、マルコ副宰相、ザザマリオ財務大臣――騎士団のセラ国派遣と領土騎士派遣に伴う見積もりについて。横領の件について、精霊動物の捜索について等、以上です」
「ふむ。では王子を呼べ」
国王の言葉で、扉が開き、第一王子タスクラデアと――第二王女ミアルカが手を繋いで、一緒に入って来た。
タスクラデア王子は、癖の無い、淡い金髪を長く伸ばし、毛先を緩い三つ編みにした美青年で、年は二十歳。瞳は国王と同じ紫色で、『泣きボクロ』が左右にある。
ともすれば女性に見える容貌で、常に微笑み、優しげなので『癒やし系王子』と評判だ。
性格も見た目通りに、温厚で優しく慈悲深い。我が国自慢の王子だ。
母親は第一王妃ロザリナ。王子は『予言の力』と高い霊力を持っているので今は大祭司をしている。
喧嘩なんてできませんと言う顔をしているが、こう見えて文武両道で、剣を扱う時は俊敏に動く。
――国王は、王子が優秀なので、あと数年で引退してもいいのではないかと思っている。しかし、王妃に止められている。せめてあと十年は頑張ってください、だそうだ。
それはそれとして、若き新国王というのも見てみたい。まあ国王も若いのだが。
タスクラデア王子が国王を見て、穏やかに微笑んだ。
「おはようございます、陛下」
王子の肌は白く、金髪は誰より輝き、すみれの瞳は美しく、睫毛は長く、健康そのもので、見ているだけでほっとする。
「ああ、おはよう。お前は今日も穏やかだな」
国王はとても癒やされた。我が子ながら謎の癒やしがある。
王子は誰に似たのか、線の細さに似合わず、昔から丈夫で風邪など引いたことがない。
「おはようございます、お父様」
兄とつないでいた手を離し、膝を折って、きちんとした挨拶をしたのは、まだ十歳の王女、ミアルカだ。ピンクのドレスが愛らしい。こちらも真っ直ぐな金髪で、瞳は濃い緑色。
ぱっちりとした大きな目が可愛らしい。ミアルカ王女も王子と同じく、第一王妃ロザリナの娘だ。つまりこの二人はアルスとは腹違いの兄妹になる。
可愛い盛りの娘に、国王は相好を崩した。
「おお、ミアルカ。おはよう。今朝も可愛いな。こっちへおいで、お膝にお座り」
ミアルカが口を尖らせた。
「お父様、もう、ミアルカはおひざを卒業しました」
「そんな事を言わず、ほれほれ」
「……」
ミアルカは渋々、と言った様子で近づいて、渋々座った。
「ははは。可愛いなぁミアルカ。で、王子は何の用だった? 祭りの準備か?」
王子が微笑んで頷いた。
「はい、九月の収穫祭なのですが、今年は豊作なので、振る舞い品は例年通り、少なめで。ただ当日、雨が降りそうなので、一日早めて、九月二十七日に変更できないかと思いました。二十九日でもいいのですが、そちらだと地面が濡れていますから……」
「おお、そうか。なら二十七日で良いだろう。報せは任せる」
国王は頷いた。
振る舞い品というのは小麦粉で、祭りで民に配るのだが、豊作の場合は手の平に一包み程度で、逆に凶作の場合は多く出すことになっている。他にも葡萄酒やビードといった酒類も配られる。
「はい。承りました」
「ミアルカは何か報告はあるか?」
「んー、特にないです。でも今日はお母様が、一緒に出かけようって」
「おお、そうか。王子は暇か?」
「僕はすみませんが、礼拝が。夕方なら行けるのですが」
王子が首を振った。王子は礼拝があるので、大抵、午後は出かけられない。出かける時はいつも夕方からだった。
「ふむ。ミアルカはどこへ行く?」
国王はミアルカに尋ねた。
「リノ公爵夫人に会いに行きます。あと、ポコラちゃんにも!」
ポコラちゃんというのはリノ公爵家で飼っている小型犬だ。
耳が大きくて、華奢で白くて毛はふわふわで、つぶらな黒い瞳がとても可愛い。
「ああ、それなら僕はご遠慮します」
王子が言った。リノ公爵邸は首都に二軒あるが、夫人と犬のポコラがいる家は第二城壁の中にあって、近いので、王子が礼拝をしている間に訪問は終わるだろう。
「そうだな。そう言えば、別邸には息子がいたな。また行ってみるか?」
「ええ、その時はその時で」
タスクラデアが微笑んだ。
するとミアルカが頰を膨らませた。
「お兄様ったら、そう言って、いつも出かけないんだもん、もう。お姉様はつきあって下さったのに」
ミアルカの言葉に、タスクラデアは苦笑した。
「ごめんね、しばらく忙しいから……」
と言って宥めているが、王子は当日になってふわふわと『僕も行きましょうか』と言い出すことがある。気分屋なのもあるが王子の『力』が関係しているのだろう。
「よし、じゃあ今日はここまで。また後で」
国王は話を切り上げた。どうせ昼食でまた会えるのだ。
「はぁい」
ミアルカは膝から降りて王子の元へ戻った。再び手を繋ぐ。ミアルカはアルスがいた時は、アルスにべったりだったのだが、アルスがいなくいってしまったので寂しいのだろう。
とても素直で可愛い娘だった。
「――次、入れ」
朝の家族団欒は終わり、国王の仕事に戻る。
ノム・ルネ・ラ・エアリ公爵、アレン・ル・フォーガス近衛騎士団長、マルコ副宰相、ザザマリオ・ル・エン財務大臣の四名がまとめて入って来た。
ノム・ルネ・ラ・エアリ公爵は弱冠二十三歳の、赤髪緑目の派手な美青年だ。評議員にもなっているが、クロスティア騎士団との兼任なので、評議会には良く叔父が出ている。
やたら美形で、今日はクロスティア騎士団の隊服を身に着けている。この斬新な隊服はリズが城の衣装室と相談してデザインした。
アレン・ル・フォーガス近衛騎士団長は茶色の巻き毛を短く刈り込んだ、青年……で、目は兎のような赤色。
見た目は若く、せいぜい二十代後半だが、実際は五十二歳になる。
貴族出身で地位は侯爵だが、近衛団長と呼ばれる方が多い。
アレンは、当然だが今日も近衛騎士団の団服を身につけている。
近衛騎士団の団服は青に金色の縁取り、赤いマントという少し派手目のデザインだが、五年前に変更が入り、前より大分お洒落になっている。こちらもリズが考え、かなり好評だ。
ちなみにクロスティア騎士団、近衛騎士団の隊士服はそのまま騎士の正装なので、そのまま国王の前に出でも問題ない。
アレンの年齢について――ストラヴェルには稀に、見た目と年齢が一致しない人間がいる。
たいていは王族の流れを汲んでいるが、偶然や先祖返りと言う事もある。
王族に縁のある家……つまり、名家同士で結婚すると良く『精霊の血が濃い』者が生まれる。
しかし、短命だったり、病弱だったり、成長しなかったり、成長が遅かったりとどう出るか分からないので、あまり推奨はされない。
アレンは偶々、こうなってしまったのだという。王族の血はかなり前に入ったと聞いている。
短命と言えば、ものすごく強い代わりに、二十歳程度しか生きられない『人間と精霊の混血』の『孫の代』が有名だが……血が濃い場合の短命はもっと極端で、十歳までに死んでしまったり、もっと早く、生まれて直ぐ死んだり、赤ん坊の時に死んでしまったりする。
結婚前に分かればいいのだが、血の濃さというのはぱっと出てしまうことがある。
アレンには兄や姉がいたが、皆、赤ん坊のうちに亡くなり、育ったのはアレンだけだったという。
ストラヴェルで妾が推奨され、庶子にも相続権があるのは、この死亡率の高さのせいだ。
初代聖女は子だくさんで、王族には傍系が多くあって、貴族同士の結婚では何がどう出るか予測ができないのだ。
トリル侯爵家のように、遊びまくっても子供ができない、と言う程、力が強い例は稀だが(そもそもあれは例外か)、貴族の本妻との間に子供ができない、できても育たない、妾とはすぐ子供ができた、という例は良くある。
ストラヴェルでは妾の子供は歓迎されるが、本妻に子があった場合、他国と同様に差別される場合がある。
アレンは本妻の子供なので『できれば騎士にはならないで、すぐに家を継いで欲しい』と言われたらしい。それでも当人は真面目だったので、貴族の義務として近衛に入ったそうだ。その後、フォーガス家は庶子にも恵まれ……そちらはアレンほど強くなかったので家に残り結婚し……結果、アレンはまだ独身でいる。
結婚する気はともかく、無事に育つ保障が無いので、子供を作る気は無いと語っていた。
初代聖女ティアス・メディアルは――癒やしの力を持った『人間』の女性、と言われているが王室には一応、別の由来が伝わっている。
それによれば……ティアスは『何かの精霊』だったと言われている。
この国にも、近隣諸国にも、精霊大戦前後の記録は全くと言って良いほど無く、あっても曖昧で、明確な記録があるのは三百年程前からだ。
それとは別に、王室にはティアスが遺した『遺言』が残っていて、王族は代々それを守っている。……初代聖女、ティアス直筆と言われる文章で、癖のある筆跡はセラ国の手紙とも合致する。王室は、曖昧な歴史書より、まだ遺言の方が信憑性があると思っている。
後の二人――マルコ・ル・ローイ副宰相は赤毛の恰幅の良い中年男性で、四十五歳――そう言えば国王と同い年だ。かつて東海岸中央にある、ラニ・ラニィ領の領主だったが、とても優れた人物で、人柄と内政手腕を買われて先代国王の宰相となり、今は副宰相だ。
ザザマリオ財務大臣は黒髪巻き毛の、恰幅の良い中年男性で、口ひげを蓄えている。
先代国王から財務に関わっていて現在は六十歳。
マルコ、ザザマリオの二人はシャツに黒いベスト、黒いズボン、黒い上着、という良くある貴族服を着ているが、二人とも暑がりですぐ上着を脱ぎたがる。
「で、何の用だったか? 四人も揃って。順に話せ」
国王は尋ねた。
用件は概ね分かっているが、報告を聞くのが国王の仕事だ。
マルコ副宰相が一歩前に出て話し始めた。
「はい。では私から。セラ国への補給の件ですが、一年後を想定して備蓄と、領土騎士からの募集を進めていましたが、二年後になるかもしれないとの事で、予算と計画を二つ出す事にしました――そして出した物がこちらになります」
マルコは恭しく書類を差し出し、メノムが受け取る。書類や物品の受け渡しは、こうしてメノムが請け負っている。受け取った書類は王冠とは逆、右側にある机に置かれる。
「ん。わかった。次は誰だ」
「わたくしにございます」
進み出たのはザザマリオ財務大臣だ。
「コマッタ男爵の横領につきまして裁可をお願いいたします」
「ああ、読むまでも無いが――今読もう、しばし待て。メノム」
「は」
報告書自体は分厚いが、国王が読む一枚目は簡潔に分かりやすく、と言ってあるので、最初の一枚に概要がまとめられている。
今回の報告書は二冊ある。
国王はそれぞれの一枚目に目を通して、少し考えた。
「ブラックマン伯爵はこれでいいが、コマッタ男爵については少し刑が重い気がする。爵位は残して、見張り付きで、領地の管理を続けさせろ。後は提案の通り、家畜と畑を増やして、上手い事やってくれ。この、息子と娘は、ふむ……五歳と三歳か……可愛そうだが、親から離して、隣のサルザット……いや駄目だな、うーむ。タルクロンに預けるか」
「仰せのままに。では、アイテル平原のアレール川を治水工事して、沼地を使える様に致します。息子と娘もそのように取りはからいます」
ザザマリオが頭を下げた。
「うむ。次。まとめて報告」
国王はアレン近衛騎士団長に言った。クロスティア騎士団と近衛は、性質は違うが、クロスティア騎士団は小規模だから、ほとんど同一組織のようなものだ。
違いと言えば、クロスティア騎士団は捜査をしないと言うことか。
プレート犯罪者捕縛のために『とにかく強い』が集まったのがクロスティア騎士団なのだ。
犯罪者を見つけても捕まえられないのでは意味がない。
アレン近衛騎士団長が進み出る。先に書類を渡された。
「南国への巫女の人身売買と紅玉鳥の密輸について証拠と道筋が押さえられましたので逮捕の許可をお願いいたします。処分と経緯はこちらに。なお、北への流出は今の所、確認出来ませんでしたが、西国は調査中です。該当案件はありませんでしたが、調査は継続の予定です。セラ国で発見された、謎の精霊動物については、まだ噂程度の情報しかありません。ヒュリス、フロストでは確認されていないようです。南国は調査中ですが空振りの可能性が高そうです。ディアティル帝国につきましても、どうやら違っているようで……セラ国の報告では皇帝とその周辺には見当たらないとか。セラ国も北方全土を調べた訳ではなく、確証も無いので言い切れません。今後は北から更に東へと調査団を派遣したいのですが、調査の必要性について陛下のご意見を伺いたいのです」
――今から五年前、初めて『鳥』以外の精霊動物(フィーノ)が確認された。
ディアティル帝国に兵士として潜入していたセラ国の密偵が、駐屯地で偶然発見したのだ。
それは『真っ黒な狼』だったと言うが、聖母も、セラ国も把握していなかった。
黒狼の体躯は、普通の狼より二回りは大きく、地面から背中までで一メルトはあり、青い炎を纏っていたという。
黒狼は夕刻、山でもない、人里から程近い場所――に現れて……切り立った崖を軽々と登っていった……らしい。
明らかに普通の狼では無く、もしや精霊動物(フィーノ)ではないかと言われた。
その場にはディアティル帝国の兵士もいたが全員驚いていて、黒狼について知っている者はいなかったという。
精霊動物は自然繁殖しない。つがいができれば卵はできるが、巫女が霊力を注がなければ卵はかえらないのだ。だがそもそも、狼は卵生では無い。子供がどう生まれてどう育つのかも、本当に精霊動物だったのかも分からない。
「ふむ……よく分からんな。どの辺りでやっていそうなのだ? 『精霊』や『妖精』である可能性はどうなった? 魔物や魔神の可能性は?」
精霊動物では無く、ただの精霊や妖精の可能性もある。
ただ、そんな物は今まで無かった。
精霊も妖精も、耳やしっぽ、角や羽など、一部に動物の特徴を持つ者はいるが、基本はどれも『人型』なのだ。擬態能力や、動物への変身能力をもつ精霊はほとんどいないと聞いている。
あとは……あるとしたら『魔物』や『魔神』である可能性だが、そもそも魔物自体、伝説上の存在だ。形はまるきり狼で、魔物らしさは無かったという。
となると残るは魔神だが……『たぶん違う』と言うのがリズの言葉だ。
「それも調査中です。目撃情報はそれだけなので……五年調べましたが、結局、何も分かっていません。調査を継続すべきか、どの程度まで捜索範囲を広げるべきか悩んでいます。規模についても陛下の指針に従います」
国王は考えた。確かにこれは国王次第だ。
「うーん。北はともかく、東か……東端のアーゼ帝国、ミアーゼ帝国辺りは、何も分からんからな……いい機会かもしれん」
西フロレスタ大陸は広大なので、ストラヴェル王国は、ストラヴェル、ヒュリス、セラ国を中央と呼び、後は南、西、北、東……とざっくり地域を呼び分けている。
端へ行く程、国交もなく、そもそも名前くらいしか分からない国もある。
北はかつての近衛騎士が暮らしていて、まだ情報が入ってくるのだが、東の端、小島がある辺りはかろうじて国名が伝わっている程度だ。
東の端には、アーゼ帝国、ミアーゼ帝国、という二つの帝国があって、常に争っているらしいが、それも良くわからない。
地図にしても、先代国王が作った……もう三十年以上前の物なのだ。
三十年あれば、どちらが勝ったか、何らかの結果が出ているかもしれない。
「そうだな。この際だから調査しよう。ついでに地図も引き直そう。精霊動物はいるとしたら東だな」
国王は言った。
「それはなぜ……?」
アレンの言葉に、国王は首を傾げた。
「はぁ? 狼と言えば北だろう? 南では暑くて死んでしまうぞ。しかし黒では雪の中で目立つ。となると東だろう。東で生まれて、持ち主の命で偵察か散歩に来ていたのではないか?」
国王は当たり前の事を言った。
「あ……た、確かに……?」
アレンは首を傾げた。
「規模については――双方、リズと検討しろ。あれはそういう事に関しては、異常に勘が働く」
「はい。かしりこまり――」
そこで勢いよく扉が開いた。
「よう、国王いるかー!!」
元気よく入って来たのは、クロスティア騎士団の総隊長、リズメドル・ギスアドだ。
彼女はこうやっていつも、いきなり入ってくるが、今日は満面の笑みを浮かべている。
「……何の用だ?」
「吉報だ! 聞いて喜べ! 飛び跳ねろ! ルルミリー=エルタが見つかった!」
「――何!?」
リズは大股で歩み寄り、国王の目の前で両手を広げて飛び跳ねた。
「それがよ、いたんだよ! クレナ湖に! いやいたんだな! 昨日、なんと候補生の一人が見つけて、持ち主になってる! いやスゲー! 大発見だ!」
国王は思わず身を乗り出した。
「なんだと!? 本当か!?」
『ルルミリー=エルタ』は、初代国王ビアス・ヴァシュカがクレナ湖に招いたと言う伝説の精霊だ。
初代国王ビアス・ヴァシュカについてはティアス・メディアル以上に情報が少なく、夫婦円満だった事くらいしか分からない。国王なのに影が薄く、架空の人物では無いか? と言われるほどだ。
あまりに影が薄すぎて、数多くいる自称ビアスの末裔も……まとめて王族と言われてはいるが……血筋の証明ができていない。怪しい家が幾つもあるのだが、王族とされている以上は相応に扱う必要があるので、頭を悩ませていた。
しかし、ルルミリーがいたとなると。当時の話を聞けるかもしれない……!
下手したら定説が全て覆る。それくらいの大発見だ。
国王はついに立ち上がって飛び跳ねた。
「おおおおお! それは凄い! ――まさに大発見だ!!」
その場にいた四人も目を丸くし、「おおお!」「なんと!」「凄い!」「へぇー!」と声を上げて興奮している。
ノム・ルネ・ラ・エアリ公爵や、宰相メノムでさえ喜色を浮かべている。
「だろ!! もの凄ぇよな!! あ、でも、どうやら昔の記憶はないらしいんだ。他の精霊と一緒だな……まあ、それはともかく本人なのは間違い無い! オッサンの事はちゃんと覚えてた。真冬に川から流れてきた子供を助けたってな! 派手に祝おうぜ!」
「おおおおお! やはりあの精霊がルルミリーか! 儂の命の恩人!」
国王はまだ四十五歳だが、自分の事を儂と言っている。深い意味はないが、ミアルカ王女が生まれた辺りから始めた。おかげで、リズにはたまにオッサンと呼ばれる。
「会えるのか!? プレートは持って来たのか!? 誰が見つけたのだ!」
「会えるんだけど、なんか封印がされてるみたいで、湖から出られないんだ。プレートは距離で置いて来た。あ! そうだ、なんと『雨雲の精霊』らしいぜ!」
「おおおおお! 雨雲!? これまた意外な!!」
国王は手を叩きはしゃぎながらリズの報告を聞いた。
どうやら昨日の派手な水柱と大雨は、なんとルルミリーの仕業だったらしい。
一体何事か、と思ったが、まあ敷地内だし異常気象か演習だろうと思って放置していたのだ。
「で、誰が見つけたのだ!?」
「候補生の、シオウ・ル・レガンってやつ! なんと逆指名で選ばれた」
「おおおお!! あのレガンの少年か!」
リズの言葉に国王は歓声を上げた。今年の候補生は優秀と聞いているが、本当にそうらしい。シオウ・ル・レガンについてはラオラ地区が無くなる前に、領主からの報告で名前だけは聞いていた。跡取りは彼だと。
逆指名というのは、精霊が気に入った人間を主に選ぶ事を言う。精霊に選ばれるのは優れた精霊使いの証だ。もちろん精霊との縁はそれに限らないが、それでも嬉しい。
「ルルミリーに選ばれるとは……余程の人物なのだろうな……! ――ん、そう言えば彼は、アルスと同室ではなかったか? まさか、とても優秀なのか?」
国王は一応声を潜めて言った。
「さーなー」
リズはそっぽを向いて口笛を吹いた。未だに、アルスの順位も教えてくれないのだ。
国王は地団駄を踏んだ。
「くそー! ……しかしめでたい! ルルミリーとなれば歴史的発見だ。これでビアス・ヴァシュカ様の存在が確定する――ハッ!? 何という事だ! 儂はルルミリーを見つけた王として、歴史に名を残すぞ! いやその少年も、数年後の教科書に名が載るだろう! こうしてはおられん、メノム! 今日は候補生達にご馳走を用意しろ! あと近衛と兵士、その他にもだ!」
――国王は飛びはね、部屋を走り回って喜んだ。
「はい、直ちに。兵士や城の者達には酒を、候補生には夕食に肉とデザートを追加します。候補生、六十人分の肉は王室牧場からの調達でよろしいでしょうか?」
メノムの言葉に、国王は跳ねながら返事をした。
「ああ、それでいい。内容は任せるが、前祝いだ! ああ、王子とも相談しろ。祭りの準備と、どうやって発表するか。きっと喜ぶぞ、ああ、王妃とミアルカにも伝えなくては!」
国王の言葉で、メノムが手を叩くと、メノムの腹心の部下が現れて、さっと手で合図を出した。メノムが頷く。
「既に報せを送っています」
「そうか。よし! お前達にも褒美を出そう! はははは! 菓子でいいか! それとも肉か!? そうだ祭りだが、今日、いや昨日はルルミリー発見記念日として、来年から毎年祝日、いやいっそ七日間、祝日とする! 幼い儂を救った救国の精霊だぞ! どれだけ感謝したことか! これは当然の措置だ、ああ、今すぐ行きたい、っ――まさか、会えるのか? もしや会えるのか!? 会って直接礼を述べたい! いやまて、その少年への褒美が先か! 何にする、何にする? 何を喜ぶのだろう――!?」
「めっちゃ喜んでんな……」
リズが言った。
「その少年は何が欲しいと思う? どうせ会えないのだろう? とりあえず金か? 地位か!? 一億払ってもいいぞ!」
――国王の言葉にリズは少し考え、ある提案をした。
提案を聞いた国王は手を叩いた。
「おお! それはいい考えだ! よし、メノム!」
メノムも頷き、褒美は決まった。
リズも手を叩いて喜んだ。
「よっしゃ! よーし! じゃあ今から皆で見に行こうぜ!」
「おおお!」「やった!」「なんと!」
「――あの、僕の報告は?」
ルネが言った。
「そんなの後回しだ! 新しい執務棟の設計がしっくりこないとか、正直どうでもいい!」
リズの言葉で、ルネの相談内容が分かったが、確かにどうでもいい。
「メノムよ!」
「はい。こちらに」
メノムが人数分の白マントを差し出した。今回はクロスティア騎士団と同じデザインで、フードが付いていて、顔を隠せる物だ。
ルネとリズは必要ないのだが、残りの、国王、メノム、マルコ、アレンの分はある。
「これ下はそのままで?」「前を合わせておけばいいでしょう。おや、腹が出るな……」
マルコとザザマリオが言った。
「ま、この時間は誰もいないから、テキトーでいいって」
リズが笑った。要するに国王が国王とばれなければ、後は何でもいいのだ。
「よし、では行くぞ、我々が一番乗りだ!」
国王は先頭に立った。
リズが玉座の下を蹴飛ばすと――壁に隠し階段が現れた。
そして六人は、口うるさいレオンク副宰相に見つからないように、こっそり部屋を出た。
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