三 パートナー探し 前編
三 パートナー探し 前編
日が暮れて、ようやくハロキテ村にたどり着いた。収納袋と格納スキルがあるから
荷物が少なくて助かった。ハロキテ村はナワニ村とよく似ていて、あまり豊かでなさそうな村だった。
ハロキテ村の村長の家に赴き、まずはご挨拶だ。
「ああ、もしや、君は新しいたまごハンターの人だね?」
村長が夜なのにドアを開けてくれた。きっと冒険者登録所からメッセージバードが飛んでいたのだろう。メッセージバードとは、白い紙の鳥のことだ。魔法紙でできていて、手紙を書くと、あて先に向かって飛んでいく。
「はい、エルと申します。よろしくお願いします」
「ずいぶん若いけど、いくつなんだい? ご両親は?」
村長ハノイと村長夫人フラウが心配そうに見つめる。
「先日の嵐で亡くなりました。私は14歳です。ちょっと早いですけれど成人しました」
若いから無理だと断られるのではないかとドキドキする。
「そうかい。何かあったら相談しておくれ。薬草なら買取るが、大きな買取は隣町の冒険者登録所のほうでやっておくれ。見ての通り、この村は小さい。村人に必要な薬草しか買い取れないんだ。君の家は村の外れにある。もうすぐ冬だから、薪は積んでおいたよ」
フラウは、「歓迎の印」とほほ笑んで、甘いクッキーとパンを持たせてくれた。エルは心づかいが嬉しかった。夜は山の麓にある家だから、冷えるに違いない。
朝になったら、一冬が越せるくらいの薪の量か、後で確かめなくてはと思う。
暗い道を歩いて新しい家にたどり着く。村長ハノイのいうとおり、薪が家の裏手に積んであった。ありがたかった。今夜使う分を両手に抱えて家の中に入る。
小さい丸太づくりの家だ。父さんと母さんと過ごした家に似ていた。広めの庭もあった。家の周りは暗くよく見えなかったが、一人で暮らすには十分広い家だろう。
家の中はきれいに整えられていた。時々掃除していてくれたのだろう、大きなゴミやねずみはいなかった。
寝室にはベッドもちゃんとあった。
格納スキルを展開し、掃除用具や食料、リネン類を取り出す。収納袋には、街で買った食べ物が入っているが、夕飯の前に今日とりあえず過ごすところだけさっと掃除をしないとね。
エルはリビングの掃き掃除のあと、雑巾がけをする。それから、ベッドにシーツを敷いていたら、眠ることができる準備をする。
「もう疲れた」
エルはなんだか力が抜けた。
朝から緊張していたみたいで、すべてが終わった今、疲労がどっと押し寄せてきた。
もう動けない。動きたくない。
着ていた服を脱いで下着になり、布団にくるまる。
おなかが空いたな。でも、ちょっとだけ、ちょっとだけ休もう。寒いような気がするが、ストーブをつけるのも面倒だ。もうダメ。
瞼が重くなって、目をつぶる。気が付いたら鳥の声と日差しで目が覚めた。
朝の空気はやっぱり冷えていた。ぶるっと背筋がした。布団は被ってはいたが、上掛け布団か、もう少し厚めの布団がいるかもしれない。
「寒い寒い」
床にそっと足を下す。床板があまりにも冷たくて目が覚めた。
がらんとした家は、父さんと母さんの姿も気配もない。今までの家とは違う新しい家だ。
エルは一人になってしまったと改めて感じた。
リビングをぼんやりと見つめていたら、お腹が鳴った。
生きていかないと。食べないと。
お腹を両手で押さえる。
そういえば、昨日の夜は食べずに寝てしまった。通りでお腹がすくはず。
さあ、キッチンを掃除をして、ご飯にしよう。それから、パートナーを探しに行かないと。
たまごハンターにはパートナーが必要なのである。
人間が魔獣たちと渡り歩くには、味方がいないと辛いのだ。父さんのパートナーはドラゴンで母さんのパートナーは山神の大狼だった。種卵採集家になるには、魔獣か動物をパートナーにする必要がある。パートナーは相棒が困ったときに必ず助けに来てくれる。
「あなたが生まれた時にお祝いにきてくれたんだけど、赤ちゃんすぎて、覚えてないわよね」
ずっと昔、パートナー契約について訊ねると、母さんが笑ってエルの頭を撫でた。
「たしか私たちの子どもだからって、加護を与えるって言っていたけどな。エルはドラゴンのドラゴと大狼のオオミの加護つきだ。すごいな」
父さんが小さな私を軽々と抱っこした。
私のパートナーは、どんな子だろう。父さんのようにドラゴンもいい。強いものね。母さんみたいに大狼も素敵。山のことは何でも知っているもの。毛並みを撫でてあげたい。どんな子と契約できるかな。
エルはワクワクした。
朝日が窓から差し込んできた。家の中も外もがよく見える。水は水道が設置されているし、使いやすそうな調理器具も揃っていた。
井戸でなくてよかったとエルはホッとした。外に汲みに行くのは、真冬は大変だからだ。
母さんが作っておいてくれた冬用の食料を食糧庫の棚に並べ、父さんが作ってくれた毛皮の敷物を暖炉の前に敷く。
テーブルには前の家で使っていたテーブルクロスを広げた。母さんと一緒に刺繍して作ったテーブルクロスだ。父さんと母さんと食事をしていた光景が目に浮かぶ。
父さん、母さんは死んでしまったのだろうか。死亡届は出ていないっていうけれど。万が一生きていたら、私が引っ越したことを職業案内所で聞けるだろう。だから、大丈夫。やれることはすべてやった。
エルは父さんと母さんのことから意識を切り離すように首を振る。
きのう町で買っておいた果物とフラウからもらったパンをかじり、山に入る身支度をした。
町に行くときはふくらはぎ丈のスカートだが、山に入るときは探索用に足首がきゅっとすぼまったズボンを履く。冬がそこまできているし、山は冷えるので、マフラーに手袋、帽子も必要だ。
格納スキルがあるので手ぶらでもいいが、念のため収納袋を腰に付けた。格納スキルとはよく山の民が持っているスキルで、何でも入れることができる亜空間のことだ。原理はよくわからないが時間が止まっているらしく、温かいモノは温かいまま、冷たいモノは冷たいまま保存することができる。ただ、便利なスキルのため、悪い奴につかまると、無理やり働かせるケースがあるので、気を付けるようにと父さんと母さんに言われている。
収納袋をベルトに通して、落とさないようにする。靴は多少泥だらけだが大丈夫だろう。お洒落が必要な場所はいかない。
よし、パートナーを探しに行こう。たまごハンターの最初の仕事だ。
枯葉が地面を埋め尽くしていた。歩くたびにカサっと音がした。天気はどんより曇り空。この辺りの冬はほとんど晴れる日はない。時折晴れ間が出ればいい方だった。
マイミア山脈のチヒキイ山は寒かった。
エルはドングリを拾いながら歩く。渋抜きすれば食べることができるし、炒っておやつにしてもいい。困ってから食べ物の調達をするのでは、遅いのだ。
一人で山道を黙々と歩く。
雲の切れ間から太陽の顔が見えた。明るくなった木々の向こうを見ると、山頂はすでに雪が積もっていた。
「今朝は寒かったものね」
今は晴れているが、山の天気は変わりやすい。早めに家に帰ったほうがいいかも。
東の遠くの空に分厚い黒い雲を見つける。雪になったら面倒だ。
エルは外套の襟を立てて、しっかりボタンを締めた。
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