イニシエナルケモノ
金田茉莉花
第1話 祭りの日の夜
いつからかは分からない、何が原因で、どうしてそうなったのかは分からない。
が、一つだけ言えることがある。
人間の時代は…終わった
人間は……この世界から一人残らず絶滅…いなくなったのである。
それから数百年、幾度の年月を経て、
かつて人間たちに支配されていたケモノ達はそれぞれの村と呼ばれるコミュニティを築き、犬族、猫族をはじめとしたさまざまな種族が暮らしていた。
◇
熱く、煮えたぎるような暑さの夏。
その夕暮れの田舎の森の中に続くコンクリートの道。
「サタァラねぇちゃん!!早く!!早く!!」
「ダメよカシュム!!そんなに早く走っちゃ!!」
二匹の雑種犬が森林の並ぶ森道の道を、四足の足を素早く駆け出し、走っていく。
今日は年に一度のお祭りの日、そして、
「なにしてるねぇちゃん!!今日はお祭りで、神殿に入れる日だよ!?急がないとお祭りが終っちゃうよ!!」
「そんなに慌てなくても、お祭りは夕方からなんだから十分間に合うわよ」
「だってぇ~」
美しい顔立ちの色白い毛の雌犬の姉、サタァラは、ちいさくて小柄な雄の子犬である紺色の毛の弟、カシュムを嗜めながらふりふりと尻を揺らしながら走る背中を追いかける。
舌を出しながらハァ!ハァ!っと息を立てながら走る二匹は、道の先に、
「ついた!!姉ちゃん!!神殿についたよぉ!!」
巨大な鉄の門が目の前に現れた、どうやらここが神殿と呼ばれる場所である。二匹は駆け出す足を速める。
門の横には看板らしきものがありところどころ文字がかすれていて読めなくなっているが、読める文字には「遺伝子研究」と書かれていた。
「おぉ!!サタァラにカシュム!!ようやく来たか!!待ってたぞ!」
門の横にある壊れた扉の前にいる一匹の黒いドーベルマンが二匹を出迎えた。
「ゴンザァ、今日も神殿の警備ご苦労様」
「おうサタァラ、村の自警団の一員として当たり前のことをしてるだけよ」
ゴンザァと呼ばれるドーベルマンは、二匹の幼馴染でサタァラとは同年代である。
「カシュムもよく来たな、迷子にならなかったんだな、えらいぞ」
「もぉ~ゴンザァ、オイラもう小さい子犬じゃないんだよ?」
ゴンザァは右前足でカシュムの頭を撫でるも、カシュムの顔は若干不服そうだ。
だが、母犬が亡くなって以来、病弱なカシュムを幼いころから面倒見てきたサタァラと、兄のように接してきたゴンザァはカシュムにとっては両親のように慕っている。
そんな二匹から子ども扱いされるのは少々癪だが、どこか心地いいカシュムである。
「それより二匹とも入れよ、もう長老もお婆婆もまってるぜ」
「ほんと!?行こうよねぇちゃん!!」
「あ、うん、それじゃあ後でねゴンザァ」
「おうよ」とゴンザァは門の警備に戻る。カシュムはぴょんぴょん跳ねながら扉をこえて門の先へと向かう。
先ほど子ども扱いされて不服そうしていたカシュムのその行動はまさに子供そのものである。
「あ、ちょっと待ちなさい!」っとサタァラはカシュムのあとを追うように駆け出す。
そんな様子をゴンザァは微笑ましそうにみつめていた。が、その刹那、
「!?」
ゴンザァの背中に怖気のような物が走った。何やら研究所の方から妙な気配を感じたのだ。
「……気のせいか?……」
◇
その夜、神殿の広場に大人達がかき集めてできた巨大な焚き火、聖火に火をつける準備を始める。
周りには犬族をはじめとした、猫族、鹿族、猿族など、多くの種族で構成されていた。
「サタァラねぇちゃん?なんでオイラ達の村はいろんな種族がいるの?」
「えっ?そっ、それは…」
「カシュム、それはワシらが他の村から追放されたはぐれものの集まりじゃからよ」
二匹の後ろから長い棒を杖のようにし、歩いていてくる一匹の年老いたチンパンジー。
「ロムレル長老」
「長老様、こんばんは」
「はい、こんばんは、この前教えた挨拶、よくできてるねぇ二匹とも」
長老と呼ばれるこのロムレルは、このはぐれものの村の中で一番賢い物、「賢者」と呼ばれている存在で村の長をしている猿族の老体。
「長老様、はぐれものって?」
「その村に溶け込めなかった、掟を破った、などなどの理由で他の村から追放された者の通称じゃよ」
「長老様も追放されたの?」
「ちょっとカシュム!?」
「ホホホ、かまわんよサタァラ、いや、ワシは根っからのはぐれものじゃった、人間の知識持つワシは周りから受け入れられなかったからのぉ」
「人間って、昔僕らケモノを支配していたっていう生き物?」
「そうじゃ、ワシらより高度な技術と知識を持ち、我々ケモノの頂点に立つ存在じゃった、それ故、他のケモノ達からは目の敵にされておったがのぉ」
ロムレルは白い髭をわしゃわしゃと弄りながら語っていこうとするも、
「こりゃロムレル、昔話なら後にしな」
もう一匹の雌の老チンパンジーに静止されてしまう、カノジョはゲヴァン、村の民からはお婆婆の愛称で慕われている。
「お婆婆様、こんばんは」
「はいこんばんは、二匹とも今日は楽しんでっておくれ、さっ、今から聖火に火がつくよ、夜につく火は綺麗なもんだよ」
ゲヴァンは腰の袋からある物を取り出す、それは二つの黒石であった。
「お婆婆様、それは?」
サタァラがゲヴァンに問いかける。
「ん?これかい?火打石って言って言う道具で、大昔の人間はこれを使って火をつけたんだよ」
ゲヴァンは火おこしの準備に取り掛かる。聖火の前に唐草を置いたのちに、ゲヴァンは火打石を打ち付け、唐草に火をつけた。
火は徐々に枝へと点火していき、火は一気に燃え盛る。昔の人間の言葉で言えば、まさにキャンプファイヤ状態である。
「さぁ、みんな!!!祭りを始めようぞ!」
ロムレルの合図と共に、村の民は飲んで、食べて、踊る、祭り事がはじまったのだ。
◇
祭り事がだいたい進んでいた頃の神殿の奥。第六研究室と描かれたその部屋では一つの大きな水槽が設置されていた。
その研究室の中では一匹の大きな犬が何本の管に繋がれていた。否、それは犬ではない
灰色が入った白い毛皮と犬よりも鋭い牙、かつて地球の日本という国で生息し、絶滅したエゾオオカミと呼ばれる生物である。
しかし、気がかりなことが一つ、頭をはじめとした体に鎧らしきものが取り付けられていた。
それはかつて人間達が開発し、使っていた機械と呼ばれる代物である。
そして、研究室の洗面台の蛇口から一滴の滴が落ちた刹那。
「!?」
水槽の中の狼は閉じていた目を大きく見開いた。
『心拍数上昇、脈拍を確認、
水槽の中の青色の液体が排水され、すべての液体が排水されたのちに水槽のハッチがプシューっと音を立てて開いた。
プランプランとぶら下がった狼に取り付けられていた管が次々と外れていき、狼の巨体は地面に打ち付けられる。
「うっ!?」
狼は朦朧とした意識の中、周りを回した。
「ここは?……どこだ?…」
いや、それ以前に、
「俺は……誰なんだ?……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます