第30話 何千年でも何万年でも
謎が解けてきた様な気がする。
俺はそう考えながらノートを見る。
そして横に居る美玖に向く。
美玖は「...お爺ちゃん...タイムスリップしていたんだね」と言う。
「それも戦時中に自害してタイムスリップ...だな」
「うん。だね」
「お前は知らなかったのか」
「何も知らなかった。私は鈍感だね」
「知る由もなかったんだから仕方がないんじゃないか」
「...でも助かったのに昔を考えないといけないっていうの辛いね」
「そうだな」
そして俺は預かったノートをめくってみる。
そこには事細かく謎が書かれていた。
タイムスリップの理論とか...次元の計算とかされている。
その数値の可能性をたたき出していたりとか。
俺はその数値を見ながら居ると「ねえ」と美玖が聞いてきた。
「何だ?美玖」
「...過去の事。後悔してる?」
「過去の事っていうのは俺が死んだ時の?」
「そう。死ななければ良かったとか」
「死んで良かったって思う。俺はな」
そうしなければ何も分からなかったし変わらなかっただろう。
何一つ変わらなかったと思うし。
思いながら俺は桜並木を見る。
歩きながら風を感じた。
すると美玖が俺を見てきた。
「でも私ね。例えば何千年経っても何万年過去に帰っても英二を愛してるよ。今度は死なないし死なせないよ。絶対にね」
「美玖...」
「私、貴方が大好きだから。お爺ちゃんみたいな悲劇は起こさないから」
「...ありがとうな。美玖」
「当たり前の話だから感謝される必要はないよ」
そう美玖は言いながら寄り添って来る。
俺はその事に美玖の頭を撫でる。
それから歩く中で「でも」と言う美玖。
そして考える仕草をする。
俺は「?」を浮かべて美玖を見た。
美玖は「なんで奴は...山口はこの場所に来ているのか分からなかったね」と眉を顰める。
「ああ。成程な。確かに分からなかったな...」
「私は奴がなんらかの事情を知っているって思うけど...奴が自ら話す訳がないしね」
「確かにな。どうしようもないな。こればかりは」
「うん。だけど凄い腹立つから絶対に許さないよ。山口だけは」
美玖はそう怒りを見せながら眉を顰める。
俺はその顔を見ながら「美玖。帰りに露店を見て回らないか」と言う。
すると美玖は「?」を浮かべた。
俺は「デートしよう。今が破綻しても大丈夫な様にさ」と美玖に対して口角を上げる。
「じゃありんご飴食べたいな。確か神社の入り口辺りだったよね?」
「そうだったな。北口だった」
「うん。じゃあ行こ!」
美玖は嬉しそうに駆け出して行く。
俺は苦笑しながらその背中をゆっくり追う。
それから俺達は神社の入り口までやって来た。
人で賑わっている。
その様子を見てから美玖と顔を見合わせた。
☆
りんご飴。
金魚すくい。
射的。
夏祭りの様な感じになっていた。
浴衣でも着たいものだが。
流石にまだ暑くないしな...。
「英二。色々あるね!」
「確かにな。これじゃ夏祭りだな」
「そうだね。あはは」
「美玖。お前ならどんな浴衣着る?」
「私?私だったら英二が喜びそうな浴衣かな。英二はどんな浴衣が好き?」
「お前にはなんでも似合いそうだからな」
そう言うと美玖は「ありがと」と言う。
それから頬を朱に染めながら先程獲れた金魚を見る美玖。
赤い特徴的な金魚。
美玖はその金魚を見てから「私達の子供だね」と言う。
なにを言ってんだ。
「おいコラ。なにを言ってんだ」
「だっていつかは...ね?」
「いつかはそうかもだが」
「私は子供欲しいよ?」
「そういうのはまだ早いの。全くな」
「えへ」
美玖はゆっくり俺を見る。
それから「英二。私を決めたのはありがたいけど聞いても良い?なんで私に決めたの?」と聞いてくる。
俺はベンチを見やる。
そして「座らないか」と言った。
「うん」
「なんで俺がお前を大切に思ったかといえば...理由は簡単なんだ。純粋にお前からのしつこいアピールに落ちた。ただそれだけだ」
「そうなんだね」
「純粋な想いだ。お前に対して」
「選ばれたからには私も本気出さないとね。英二に対して猛アタックするのは止めないしね♪」
「それは純粋な想いじゃないぞお前」
「言った様に容赦はしないよ。あはは」
「全くな。お前は」
美玖は俺の腕を組んで来て恋人結びをする。
俺はその姿に苦笑しながら美玖と歩いていると「そこの兄ちゃん!」と声がした。
振り返るとそこにはグラサンのオッチャンが焼きそばを作って居た。
俺達にニヤニヤしながら居る。
「わけーのに見せつけてくれるじゃねーか」
グラサンのオッチャンはニヤニヤしながらビニール袋に出来たての焼きそばをパックに詰めて入れる。
それからオッチャンは俺達に焼きそばを渡してきた。
「これを持って行きな!」
「え!?す、すいません。お金は...」
「こっちが無理やり渡すのに金なんか要るか?アッハッハ!箸は一本しか渡さないからな」
「え!?」
「恋人同士なんだろ?」
「ま、まあ...」
「だったら回し食いしな!アッハッハ」
ノリの良いオッチャンに圧巻されながら俺は苦笑いで美玖を見る。
美玖はニコニコしながら話を聞いていた。
まるで妻の様だった。
それから俺達はオッチャンに挨拶してから焼きそばを食う為にまたベンチを探した。
熱々でまるで俺らの様な焼きそばだった。
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