第9話 心痛
☆
胸が少し痛い。
どうしたら良いのか分からないなこれ。
そう考えながら俺は部屋で勉強しているとスマホが震えた。
中を見ると美玖から電話がかかってきていた。
俺はスマホを開く。
「美玖?」
「うん。英二。...あの。声が聞きたくなった」
「何だよそれ...恥ずかしいな」
「えへへ。英二が好きだから仕方がない」
仕方がないじゃないぞ。
全くな。
そう考えながら俺はスマホをスピーカーにしてから話を聞く。
「お前大胆になってきたな」
「大胆って?」
「俺の事を好きになって大胆になったなって」
「いつか君を他の女の子に取られちゃうって考えたら大胆にもなるよね?普通」
そう言いながら彼女は穏やかな口調になる。
「私は英二が好き」と言ってから「英二。私ね。英二に出逢えて良かった」とゲロ甘な事を言ってくる。
「お前」
「...そうだ。英二」
「ああ」
「ふと思ったんだけど英二を好きな子って他に居るのかな」
「...そうだな」
反応が難しいな。
すると美玖は「そうなんだね」と笑顔になった。
それから「まあでも負けないよ。どんな子でも私は負けない」と言う。
俺はその言葉に「どうしてお前はそんなに自信があるんだ?」と聞く。
すると「5年以上の貴方との付き合いなんだよ?私、英二の得意分野とか苦手分野。全部知ってるんだから」と胸を張る様に答える。
「...貴方と一緒に死ぬのが理想かな。年を重ねて貴方と一緒に死ぬのがね。老衰で一緒に死にたいなって」
「...」
元嫁はそんな事を一言も言わなかった。
いつしか形だけの愛になった。
だけど美玖は違う様だ。
美玖は。
いや。
雪乃も俺を心底愛している様だ。
「...美玖。俺を好きな人は...」
「大体は分かる。雪乃ちゃんかな」
「美玖...」
「違うかな?雪乃ちゃんは義妹ちゃんだから血は繋がってない。恋が出来る筈だしなにより雪乃ちゃんは君にべったりだし」
「その通りだ。間違いないよ」
「...うんうん。成程ね。じゃあ雪乃ちゃんには負けられないね」
そう話しながら美玖は笑顔になる感じで言葉を発する。
俺は少しだけ目を丸くしながら「そうか」と柔和な感じで答えた。
美玖は「さて。そうなると」と言う。
それから「デートしたいな」と言葉を発した。
「いきなりだな。美玖」
「私はいつでもいきなりだよね?性格的に。それに雪乃ちゃんには負けられないよ。絶対に」
美玖はそう言ってから一呼吸置いて「ねえ。英二。明日は学校お休みだよね。忙しくなければデートしない?」と話してくる。
その言葉に俺は「!」となった。
「私は負けたくないんだ。雪乃ちゃんには」
「...分かった。考える。取り敢えず考えてからデートしようか」
そして俺は「ありがとう」と美玖から聞いた。
美玖は最後に「英二。明日、楽しみにしてる」と言ってきた。
俺はその言葉に「だな」と返事をした。
それから通話を終了してから一呼吸置いてお茶を飲みに行こうと思いドアを開ける。
「?...雪乃?」
ドアの目の前に雪乃が居た。
何かドアノブを掴もうとした感じがその姿からは見受けられる。
雪乃は少し戸惑った様な感じで「お兄...」と言ってから俺を見上げる。
「その。盗み聞きするつもりは無かったんだけど。...お兄忙しい筈...」
「いやその。...部活がもしあるなら今回も休んだりすれば良いが...どうしたんだ?」
「もし明日忙しくなかったら私とデートしてほしい」
「...」
「分かってる。明日は美玖さんとデートするんだよね」
「...知ってるのか」
すると雪乃はじわっと涙を浮かべた。
それから「ワガママだって分かる。でもその。私を選んでほしい」と言ってくる。
俺はその言葉に目線を逸らす。
「雪乃。気持ちは分からんでもない。だが...デートはそうだけどデート以前にアイツは幼馴染だから。だからそれは出来ない時もあるんだ。人付き合いは大切にしないと」
「お兄...」
「...分かってくれるか?」
落胆する雪乃。
だけどゆっくり顔を上げて苦笑いを浮かべる。
「だね」と言いながらだ。
俺はその姿に彼女の右肩を掴む。
それから「雪乃。また必ずお前に付き合うから」と言いつつ雪乃の涙を拭った。
そして雪乃の頭を撫でる。
「お兄。ありがとう」
「ごめんな。お前に付き合えなくて」
「大丈夫。...あ。そうだ。お兄」
それから雪乃は赤面しながら背伸びして俺の耳元に近付いて来る。
な、なんだ。
そう考えながら俺は雪乃を見る。
すると雪乃は耳元で囁く様に言ってきた。
「もし何もなくて帰って来たら私、気持ち良い事をしたげる」
まさかの言葉に俺は赤面し雪乃に鮮やかにチョップした。
それから「痛い!」と言って頭を抱える雪乃。
俺は「お前な。子供にはまだ早い」と言いながら雪乃を見た。
「どこでそういうの覚えたんだよ。全く」
「でも私はマジだよ」
「私はマジでも絶対にやりません。全くお前は」
それから俺はそのままお茶を飲みに向かう。
雪乃は「お兄の根性無し」と頬を膨らませていたが俺はそれは無視してリビングに向かった。
雪乃のヤツ。
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