10.エピローグ:不可解な引っ掛かりは真実?
千織部長の推理を聞いた後、ボクはよく分からない胸のわだかまりを抱えたまま帰宅した。
家に帰るまでの間、宗馬との話をしていたと思うけどほぼ聞き流していたのは申し訳ない。
「ただいま」
今はボクしかいないのに、つい口に出してしまう。
(お母さんたちは……あぁ。仕事長引きそうなんだ。じゃあ仕方ないか)
一度帰ってきてたようで、書き置きを残していた。別に
フッと笑ってMATEを開いて家族グループで一言二言返してから晩ご飯やらお風呂を済ませて部屋に行く。
「ふぅー……どーしよっかなぁ」
千織部長の推理を聞いてひとつ思いついた推理。
いや、推理ですらない妄想に過ぎないもの。
それに、ボク自身が否定したかったもの。
椅子の背もたれに背中を深く預けて頭から消えないこの思考をどうするべきが天井を仰ぐ。
その時、スマホスタンドに置いていたスマホが通知で光る。
いくらダークモードにしつつも眩しく、目を細めながら通知を見ると宗馬からだった。
ボクの反応や態度がやっぱり気になったらしい。何かあるんじゃないかと気にかけてくれてる旨をMATEで伝えてきた。
「心配かけて、ごめん。っと。って返信はや」
1分もしないうちに返信が来た。おそらくボクのトークをずっと開いていたなこいつ。まったく。
「もしもーし」
『おう。聞こえてるぞ』
「ん。いやー心配かけたみたいでごめん宗馬」
部屋に響くボクよりも低い宗馬の声。
けれど聴き心地が良く、すんなりと耳に入ってくる。
『そんで? あの後なんかあったのか?』
「んーん。そういうわけじゃないんだ。ただその……」
『なんだよそのセンブリ茶飲んだような口振り』
「微妙に分かりずらい喩えやめてくれる……?」
なんだよその喩え。絶妙に分かんないって。
センブリ茶飲んだことないんだから味なんて知らないしさボク。
『ははっ、わりぃわりぃ』
「悪いと思ってなさそうな声で謝られてもなぁ……まぁいいや。話戻すけどさ」
『あぁ』
ボクがあの後から考えてしまったことを宗馬に伝える。伝え終わった数秒後、軽い息遣いが電話口から聞こえる。
『……お前はよ、どうしたいんだ?』
「どうもこうもないよ。1番その説を否定したいよボクは」
椅子の上で両膝を抱えながら独り言ちるように言う。宗馬は『だよなぁ』と返してくれる。
『俺はお前とは違って視えるわけでもねぇし、感じるわけでもない。だからお前の苦しみを分かってやれなくて悪いと思ってるよ』
「分かってるよ。でもボクは宗馬には助かってる。でもさ……」
『なんだ?』
両膝の上に長い前髪をくしゃりと崩しながら頬をつける。
「トイレの
『あぁそうだな。俺には視えなかったが、そいつと話してるお前は……まるで昔のお前を見ているような感じだったな』
あーうん。そういえばそうだった。昔からの付き合いだから、今のボクが形成される前のボクを知っているんだった。
電話口から聞こえる彼の笑い声に釣られてボクも微笑む。
「まぁ……何が言いたいかと言うとさ、……きっともう潮時なのかもなぁって」
『って言うとなんだ?』
「…………いや、なんでもない。うん。大丈夫だよ」
『…………?』
自分から言ってて何言ってんだと内心でツッコミを入れる。
「あ、宗馬。今日もお願いできる?」
『あぁ、それくらい良いぞ。てか、約束だしな』
「なはは。律儀だよね宗馬も宗馬で。んしょっと」
スマホを片手にベッドに寝転がって枕元の充電コードを挿入口に挿し込む。フォンと充電音がしたのを確認して枕に頭を預ける。
『……お前はさ、いつ頃部長たちに明かすつもりなんだ?』
「そうだねぇ…………近いうちにかな」
『そこまで怪しむほどか?』
「うーん……そうじゃないんだけどさ。ただ……」
『怖い、か?』
「まぁそんな感じかな」
この体質になってからボクは人が怖くなった。
だからこうして性別隠したりしてるわけで。
まぁ、愛理先輩にはバレたけど。
宗馬の話を聞きながら愛理先輩と2人で話していた時のことを思い出す。
あの時なんでバレたんだと驚いて聞いたけど、「シスターのバイトしてると分かるんですよ」なんて言われたっけな。
『……い。おい。もう寝たのか?』
「ん……? あーごめん。考え事してた。何か話してた?」
『あぁ、起きてたか。いや、急に静かになるもんだからなんかあったかと思ってな』
「あーごめん」
考え込むのはボクの悪いクセだなぁ。
スマホを見ながらボクは微笑って眠気が来るまでほんとにくだらなくて他愛のない話をして気付けばいつものように寝落ちしていた。
翌日。三面鏡についての沙汰が各学年各クラスに共有された。
三面鏡は新しいのを用意。
三面鏡を割った人物はいまだに不明だが、物が古いため、そういうこともあるだろうというものだった。
結局、千織部長は自分の推理を人に教えることはなかったんだなと担任の話を聞きながら思った。
つまりは結局のところ、犯人はわからず、真相も闇の中ということだ。
それで良いのかと思うけれど、たかが学校の備品ひとつに不備があったとしても学校側も日常茶飯事なのであまり気にしていないのだろう。
生徒が起こしたのだとしたら反省文ものだけど、生徒は関わっていないことが判明しているからこそなのかもしれない。
そして、そんな人間の事情を知ったトイレの薔薇さんは例のトイレで独り言ちる。
『そう。そういう事になるのね。ま、良い落とし所って感じかしらね』
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