第8話

「...ごめんね。考え込んじゃって。」

「大丈夫..?」

「うん、ありがとう。」


一瞬、嫌な事が脳内で蘇ってしまった。

 家族に遠回しにされてたり、親戚も自分の事を“異常”と言い心配する。


周りから普通の姿を求められるのは苦痛だ。だからノースの紹介を受けて施設に逃げて過ごした。

 周りと違う事を認知したく無かったのに。


「プエラさん。」

「あ、何?」


「...き、今日はここで休んだら..?」

「隹がそう言うなんて珍しい。私も同じ意見です。」


 気遣われてるのか。そんなに酷い顔をして居たのか。



ありがたい話だが、明日も今まで通り学校に行く必要がある。

 助けてくれたお礼に、店で買ったら当たったジュースをあげて、「次は食糧も持って来るから。」と言い残した。


 陸に上がれない新人類に助けを乞っても出来ないだろうし、歳下の子から受けた恩を仇で返し見捨てるなんて下衆な事は流石に出来ない話だ。


「じゃあ行って来る。また会おうね。」

「はい、お気をつけて。」



「...」

どぽんと潜り込むと、一瞬視界にノイズが走ったが、すぐに元通りになり下に降りる。

 時間は二時間程経って居るらしく、スマホの充電は半分近くまで減って居た。


「(早く帰らないと。)」



 部屋に帰って来た自分はずるずると壁に重心をかけながら座り込む。呼吸が荒く心臓の音がやけにうるさい。


「...整理しよう。」

先程までの光景が夢みたいで、忘れる前にノートに書き起こす。



現在得てる情報は


「自身は新人類と旧人類、どちらにも適応してる。」...これを水体化とでも言おう。

「隔てがあってお互い干渉できない。」

 あと「山の上にはユエと隹と名乗る旧人類の生き残りが居た。」事。


 この2人を現状どうする事もできない。目指したいのは生活を容易にする為の「適応」だろうか。

何故こんな事が起きたのかも解明しない限り原因がわからなくて解決出来ないだろう。


「はぁ....絶対高校生が扱うテーマじゃ無いって...世界的なことじゃん...」


ノートを閉じてベッドに倒れ込む。

 諦めと苦しさが半分こ。このまま逃避行で寝てしまいたいが、どうせ寝れない。


 打開策と言うには安直だが、やっぱり大人の力を借りるべきか。

 そんな考えが頭を過った。...ただし、信じるかどうかは運次第と言う事になるが。言ってしまえば無謀だ。


「(こんな夢みたいな話を一緒に考えてくれるぐらい自分の事を信頼してて、尚且つ誰にも話さないって約束してくれる人...)」

 ノースとルベルと。後は...先輩とか。少ないが本当に信頼できる面子を選りすぐろう。



「おーい、夕ご飯食べるよ〜。」


「....今行くー。」


色々あるけど、濃い一日を終わらせよう。2人には食べた後にでも相談してみよっかな。


 髪を一つに結びながら階段を下り、食事する所まで少しの距離を早めに歩く。匂いからして今晩は魚だろうと予想。

 匂いが人体の中枢を揺さぶって食を取り込もうとする感覚が意外に好きだったりするのだ。






「...?....」

あれ、気のせいか。

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