十崎くんは男の娘?!

@Boboo

第1話

1


朝の光がカーテンの隙間から差し込み、十崎拓也は目をこすって目覚まし時計を止めた。六時三十分、普段より三十分早い――今日は土曜日だが、彼には「特別な予定」があった。


そっとベッドから起き上がり、隣の部屋で寝ている弟を起こさないように気をつけた。両親と兄の部屋は二階で、この時間はまだみんな眠っているはずだ。拓也はクローゼットの一番下の引き出しを開け、布で包まれた箱を慎重に取り出した。箱を開けると、中にはきれいにたたまれた女装の服が入っていた。淡いピンクのワンピース、白いレースのソックス、そしてお揃いの髪飾り。


「今日も頑張ろう、さくらちゃん」拓也は鏡に映った自分に小声で言った。これは彼が変身する前の習慣だった。


一時間後、鏡に映る少年の姿はすっかり変わっていた。なめらかなウィッグは肩まで届き、精巧なメイクが男性の特徴を隠し、ワンピースが細いウエストラインを強調している――誰が見ても可愛い女子高生だとしか思えないだろう。拓也は鏡の前でいくつかの笑顔とポーズを練習し、完璧だと確認すると、着替えた男子用の服をカバンに詰め、そっと家を出た。


「行ってきます!」拓也はわざと甲高い声で叫んだ。女の子のような声だ。


「こんなに早く?」台所から母親の声がした。「朝ごはんまだ――」


「いいよ、友達と約束してるから!」拓也は急いで遮り、母親が続ける前にドアを閉めた。


心臓が高鳴り、毎回こうして家を出るのは秘密作戦のようだ。拓也は深く息を吸い、肩のカバンの位置を直して駅に向かった。


2


「月影」カフェは街の外れの目立たない路地にあり、外見はごく普通だが、あるコミュニティでは有名な男の娘テーマカフェだった。風鈴のついたガラスドアを開けると、温かいコーヒーの香りが漂ってきた。


「さくらちゃん!今日も可愛いね~」バーの奥から佐藤店長が顔を出した。40代の女性で、店の「女の子」たちを母親のように優しく見守っていた。


「おはようございます、佐藤ママ」拓也――今は「さくら」だ――は甘い声で返事をした。声のトーンは自然に高くなっていた。


更衣室にはすでに二人の「女の子」が着替えていた。美咲と莉香、拓也がここで出会った親友で、彼の正体を知る数少ない人物だ。


「わあ、さくらちゃん今日のドレス可愛い!」美咲が近寄り、拓也のドレスのレース部分を軽くなでた。「新しいの?」


「うん、先週ネットで見つけて、やっと着る機会ができた」拓也はくるりと回り、ドレスの裾が軽やかに広がった。


莉香はアイラインを引きながら、振り向きもせずに言った。「今日は常連さんが隅の席を予約してるらしいよ。あの毎回『プリンセスドリンク』を注文するメガネ君だって」


「あー、こっそり写真撮ってるやつ?」美咲は口を尖らせた。「店長さん、撮影禁止って言ってたのに」


拓也はエプロンを結びながら言った。「注意すればいいよ。ただこの店が好きなだけかも」


三人は顔を見合わせて笑い、準備を始めた。


3


カフェの午前中の客足は少なく、拓也は暇を見て食器を拭きながら、学校のことを考えていた。来週月曜日は中間試験で、数学のいくつかのポイントがまだ理解できていない。健太に教えてもらわないと…


「さくらちゃん、3番テーブルのお客様がストロベリーパフェを注文されました」佐藤店長の声で現実に引き戻された。


「はい、すぐお持ちします!」拓也は表情を整え、最も可愛らしい笑顔を作ってキッチンに向かった。


3番テーブルには若い女性が座っており、拓也が持ってきたデザートを見ると目を輝かせた。「あなたがさくらさんですね?友達にぜひ会ってみてって勧められて。本当に可愛い!」


拓也は軽くお辞儀をした。「お褒めに預かり光栄です。当店自慢のストロベリーパフェでございます。どうぞお召し上がりください」


「一緒に写真撮ってもいいですか?」客は期待に満ちた声で尋ねた。


「もちろんです」拓也は慣れた様子で写真用のポーズを取った。これも仕事の一部だった。


客は帰り際にこっそりメモを渡した。そこには電話番号と「プライベートで会いたい」と書かれていた。拓也は苦笑いしながらメモをゴミ箱に捨てた――こんなことは週に何度かあった。


午後三時、拓也のシフトが終わった。更衣室で男子用の服に着替え、メイクを落とし、鏡で女装の痕跡が残っていないことを確認してから、カバンを背負って店を出た。


カフェから二ブロック離れたところで、ようやく拓也の肩の力が抜けた。携帯を取り出すと、健太からのメッセージが届いていた。【月曜英語のノート貸して、頼む!】


指が素早く画面をタップした。【OK、でも数学の宿題見せて】送信した後、拓也は何かを思いつき、追記した:【学校の近くで何か面白いところ知ってる?】


健太は即座に返信した:【駅の裏に新しいメイドカフェできたって聞いたけど、高いらしい。デートでもする気?】


拓也の心臓が一瞬止まりそうになった。【ただ聞いてみただけ。母が飲食店のクーポンくれたから】


携帯をしまい、拓也は深く息を吐いた。この二重生活はもう半年続いている。毎回アイデンティティを切り替えるのは綱渡りのようで危険だった。学校での十崎拓也は静かで内向的な優等生、そして「月影」でのさくらは元気で可愛い店員。この全く異なる二つの自分、どちらが本当の自分なのだろう?


4


月曜日の朝、拓也はいつものように教室に入った。彼の席は窓際の後ろから二番目――アニメの主人公のような位置だが、現実の彼には特別な能力などない。


「よお、拓也!」健太が後ろから首に腕を回してきた。「週末何してた?返信もくれなかったじゃないか」


拓也の体が少し硬直した。「家で勉強してた…携帯はマナーモードにしてた」


「嘘つけ!お母さんに聞いたら、朝早く出かけたって」健太は疑い深い目で彼を見つめた。「まさか本当にデートでもしたのか?」


拓也の耳が熱くなった。「ただ…図書館に行っただけ」


幸い授業のチャイムが鳴り、健太の追及を遮った。数学の授業で、拓也は集中して講義を聞こうとしたが、土曜日にカフェであったことが次々と思い浮かんだ――客から賞賛される視線、同僚との冗談、受け入れられているという感覚…


「十崎君、この問題に答えてもらえるかな」先生の声が突然響いた。


拓也は慌てて立ち上がったが、頭が真っ白だった。教室中の視線が一斉に彼に向けられ、頬が熱くなった。


「あの…すみません、問題が聞き取れませんでした…」


教室のあちこちでくすくす笑いが起こった。先生はため息をついた。「座っていいよ。集中してね」


休み時間のチャイムが鳴ると、健太が近寄ってきた。「どうしたんだ?上の空じゃないか」


「別に…ただ寝不足なだけ」拓也は無理に笑顔を作った。


「そういえば」健太は声を落とした。「駅の裏に変なカフェがあるらしいよ。店員の女の子が実は男の子だって。すごいだろ?週末行ってみない?」


拓也の血の気が一瞬で引いた。健太が言っている店は、「月影」の競合店だとわかっていた。


「そんなところ…よくないんじゃない?」拓也の声はわずかに震えていた。


「何言ってんだよ、今流行ってるんだぜ!」健太は興奮した様子で言った。「本物の女の子より可愛いらしいよ。前から気になってたんだ」


拓也は無意識に爪を掌に食い込ませた。健太があの店に行けば、いずれ自分の秘密がばれてしまう。だが断ると、かえって疑われるかもしれない…


「まあ、中間試験が終わってから考えよう」拓也は話題をそらそうとした。


健太は彼の肩を叩いた。「試験終わったら行こう!約束な!」


友人のはしゃいだ様子を見ながら、拓也の心は沈んでいった。試験終了まであと二週間――その前に何とかしなければ。


5


放課後、家に帰る道で拓也はゆっくり歩いた。夕日が彼の影を長く引き、今の複雑な心境を象徴しているようだった。健太に打ち明けるべきか?だが受け入れてもらえなかったら?学校の友達はどう思う?家族は?


携帯が振動した。「月影」の仕事用グループチャットだ。美咲がセルフィーを投稿していた:【新しいウィッグ、どう?来週のシフト出るよ、さくらちゃん土曜の午後空いてる?】


拓也は画面を見つめ、キーボードに指を乗せたまま動かなかった。この仕事を続ければリスクは高まるが、辞めれば自分らしくいられる場所を失う。


「ただいま」家のドアを開ける時、拓也の声は普段より弱々しかった。


「おかえり!」台所から母親の声がした。「今日は好きなハンバーグよ」


食卓では兄が父親と大学進学の話をしており、弟は学校であった面白いことを嬉しそうに話していた。こんな平凡で温かい日常が、拓也の一番大切なものだった。そして一番失いたくないものだった。


「拓也、顔色悪いけど大丈夫?」母親が心配そうに尋ねた。


「うん、ただちょっと疲れてるだけ」拓也は俯きながらご飯を食べ、家族の目を避けた。


部屋に戻ると、拓也は鍵をかけた。カバンの隠しポケットから小さな化粧鏡を取り出した――「さくら」の予備アイテムだ。鏡に映った自分を見つめ、小声で尋ねた。「どうすればいい?」


鏡の中の少年は答えず、ただ困惑した目で彼を見返すだけだった。

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