第6話 繁華街交番の辻ヒールくん
「昨日の子、今日一日はここで預かることになったから。いいわね、カナ」
「了解です。平日だから、一人にしておくわけにもいかないですもんねー。――よろしくね、ユズヤくん!」
後輩婦警さんの名前は、高羽カナさんと言うらしい。
ぼくはお辞儀をして、交番の隅っこで座って待たせてもらうことになった。
「さ、今日も張り切って仕事しましょうか」
言葉とは裏腹に、淡々とした態度であきらさんが言う。
慌てることは、がんばることとは違うもんね。
交番には色々な人が来る。
財布を落とした女の人。
今は携帯でキャッシュレス決済ができるから、現金の貸し出しは必要ないけど。
それでもカード類をなくして焦りで疲れ切ってる。
そうとう探したんだろうな。お疲れ様です。
『ライトヒール』。
旅行先で道に迷って、道を聞きに来た女性。
連れの人とはぐれて、見も知らぬ土地で不安なんだろうね。
すごく疲れ切って、泣きそうな様子だった。大丈夫だよ。
『ライトヒール』。
流行病か何かで急に発熱して、友だちに肩を貸されて助けを求めに来た人。
救急車を呼ぶかどうかで慌ててる。容態も辛そうだ。
元気になって。
病気や状態異常を治す『ライトキュア』。
みんなみんな、不思議そうな顔をしながらも、元気になって交番を去っていった。
みんな、がんばって暮らしてる。
それだけやれば、後輩婦警さんの目にも留まる。
「……ユズヤくーん? お姉さんに隠れて、何をやってるのかなー?」
カナさんは疑惑満々の視線で、ぼくに尋ねてくる。
ぼくは気まずくなりながら、ごまかした。
「き、気のせいじゃないですか?」
「んなわけあるかー! この仕事やってると、どいつもこいつも死にそうな顔して、不安な顔で帰ってくのよ! なんで、明らかに病気の子まで、元気満々で晴れ晴れと帰ってくのよ!?」
そうは言われても。
やはり魔法は効きますねえ。チートだよ、本当。
「先輩! ユズヤくん、おかしいですよ!? やっぱり何か隠してるでしょう!?」
矛先があきらさんに向いた。
日報を書き終えたあきらさんは、黙ってぼくのところに歩み寄り、そして……
ごん、とゲンコツを落とした。
「ユズヤくん!? 隠す気ある!? なんでそんなに大っぴらに使うわけ!? 知られたら大事になるかも知れない、って話はしたでしょ!?」
「い、いや、皆さん、辛そうだったから……ごめんなさい……」
確かに大っぴらに言えることではないんだけど。
でも、辛そうな人も目にしてるのも嫌だ。
前世の配信時代だってそうだった。
日々の暮らしで疲れ切った人、辛くて苦しい思いをして生きてる人たちが、いっぱいコメントしてくれた。
そういう人たちが、ぼくの配信を見て『楽しい』『もっとやって欲しい』って救われてくれて、少額でもスパチャをしてくれるコメントは、本当に嬉しいものだったんだよ。
配信やってて良かった。役に立てて良かった。
一人で暮らしても一人じゃないんだよ。生きてて、良かったよ、って。
「辛そうな人は、放っておけないです……」
「……それはね? わたしたち警察官もそうだから、気持ちはわかるわよ? でもね……」
あきらさんは言いよどむ。
そうだよね。
ぼくに特別なことができるとしたって、世界中の人を相手にできるわけじゃない。
それを目当てに、ぼくに近づいてくる良くない人も多いだろうと思う。
手が回らないことも、利用しようとする人も、多いんだろう。
でも、そんな些細なことでも、できることをすれば、世の中に良いことが増えるかもしれない。
みんなの気分が良くなれば、ほんの少し、世の中が優しくなるかも知れない。
少しくらいは、期待したいんだ。
ぼくも、配信をしてて、救われた人たち『に』救われた側だから。
「てことはやっぱり、ユズヤくん、何かやってますね!? 何なんです!? すごい興味あるんですけど!」
カナさんが興奮している。
仕方なく、あきらさんはぼくのことを話し始めた。
魔法・アイテム。ゲームの中にあるファンタジーなものそのままを、ぼくが自由に使えること。
そのことを聞いたカナさんは、めっちゃ目を輝かせていた。
「言っとくけど、勤務中だから。これ個人情報の守秘義務に該当するからね、高羽?」
「ちぇー。うそうそ、わかってますよー、四王寺先輩!」
警察官は、業務中に得た個人情報について、他人に口外できない。
それを守秘義務というのだけど、カナさんもそれは重々承知している。
それでもファンタジーなことには興味があるらしく、その目は輝き続けていた。
ゲーム、好きなのかな?
「でも、夢がありますよねえ! そんな万能な『魔法使い』がこの世にいるとか!」
「下手したら新興宗教が起きるわよ? 宗教法人でも立ち上げて、ユズヤくんが使い潰されたり、変わって欲しいとでも思ってるわけ?」
そんな滅相な! とカナさんは否定する。
言っちゃえば『現代の奇跡』なわけで、新興宗教なんて、やり方一つで簡単に立ち上げられるだろう。
でもカルト宗教は、人を食い物にするものも多い。
ぼくはそんなものに関わる気はない。
「そんな気は全然ないですけどぉ……やっぱり、人にできないことが色々できたら、って妄想はしちゃいますよね? 何ができるかな、とか」
「それはわかるわよ。――で、そうやって、人は宗教を興して道を踏み外していくのよ。自分の力でもないのに、他人の力で、自分が何かできるつもりになって」
あきらさんは辛辣だ。
そこまで言われては、カナさんもしょんぼりと諦めるしかない。
ぼくを利用しようとする人、というのは、決して悪意だけじゃないんだろう。
大きな力は他人に夢を見せる。
そうやって、意図せずに、よかれと思って。
他人は、ぼくを利用しようとするのだろう。
「させないわよ。独占というつもりもない。――でもね、ユズヤくんの人生は、ユズヤくんのものよ。ユズヤくんの意志をないがしろにしないでちょうだい」
「はーい。わかりましたぁ…………」
すっかりしょげかえるカナさん。
ごめんよ。面倒なもの見せちゃって。
「ぼくにできるのは……目に付く人を、少しだけ癒やせるくらい、ですかね……」
「それでもいいよ! それで助かる人も多いと思う!」
、とカナさんは言った。
「でも、見返りはないよ? 見返りは、他人からのものだから。他人に接さなくちゃいけない。そうなれば、きみのできることに、自分を見失う人も出てくるよ」
「それはわかっています。気づかれなくても、できることをしたいんです」
そーなのかー。
と、カナさんはぼくの頭に手を置いた。
「じゃあ、おねーさんたちが、きみに見返りをあげよう! 大事にされなさい!」
「あ、ありがとうございます……?」
上機嫌なカナさん。
対照的に、なぜかあきらさんは不服そうな顔をしている。
でも、そう言ってくれるのはありがたい。
ぼくは、ぼくにできることをしよう。
おっと、また交番に来た人がいる。
『ライトヒール』。
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