第23話「発酵と反抗」

八日目、深夜。

誰もが眠りについた頃。

アキは、便器の裏にしゃがみ込んでいた。



薄く開けた土の蓋。

その下に隠されていたのは──発酵中のうんこ袋だった。



「まだ……泡立ちが弱い……」

「温度が足りない。密閉が甘い」

「次は、布と乾燥材……」



アキの目的はひとつ。

うんこから発生するメタンガスを濃縮・爆破させる。



「……爆発に必要な濃度は、空気中で5%」

「この空間なら、密室になるのは管理端末室……」



彼女は、校舎の見取り図をメモに走り描きする。



「ケイタ……

あんたが託した命、使うよ。

この場所を“終わらせる”ために」



そのとき──微かな物音。


アキは即座に袋を土中に戻し、

“排泄のふり”をしてしゃがみ直した。



足音は通り過ぎた。

おそらく見回り。

もしくは、監視者・中居くんの気配。



「まだ早い……今は牙を隠す……」

「だけど──発酵は進んでる。確実に」



その夜、アキは3つの袋を地中に埋めた。

温度を保つため、衣類の切れ端で巻いてある。


小さなガスが、ゆっくりと溜まっていく。

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