第5話「ダベッ?の使者」

「これ……かりんとうじゃねえ……」

「でも……甘い……匂いはする……」


「いや、うんこの甘さかもしれん……」

「これ、俺ら試されてるよな……?」


午後4時半。

袋の中にある“かりんとう”を前に、誰もが限界に近づいていた。


最初は確かに甘かった。

でも今は、もう判断できない。



うんこに似たかりんとう。

かりんとうに似たうんこ。

そして、どちらでもない“それ”。



地面に置かれたそれらを見て、

誰かが、ぽつりと呟いた。


「これもう、“菓子テロ”だろ……」



誰も笑わなかった。



そのときだった。


──ガララッ!!


体育館の鉄扉が、勝手に開いた。


逆光の中、ひとりの男が現れる。



細身のスーツ。茶髪。アイドルのような輪郭。

どこか見覚えのある笑顔。


ゆっくりと歩いてくるその男は、両手を広げながら叫んだ。


「青春ってのは、爆発から始まるんダベッ?」



一瞬、誰も反応できなかった。


「え……?」

「……今、なんて?」

「誰?誰……?」


男はさらに近づきながら言う。


「お疲れさま~!青春排泄キャンプへようこそダベッ?

みんなえらいねぇ、ここまでよく来たダベッ?」

「今日はね、ルールの補足説明をしに来たんダベッ?」



「……おい」

「ちょっと待て……」

「えっ……あれ、中居くんじゃね?」



誰かが口に出した瞬間、全員が凍りついた。


そうだ。あの顔、あの声、あの身のこなし。

どう見ても、“テレビで見たことあるあの人”だった。


でも――

何かが、決定的に違った。


目の奥が死んでいる。

語尾が全部「ダベッ?」。

そして何より――異様に楽しそうだった。



「えー、では改めて説明するダベッ?」


中居くんは胸元から紙を取り出し、読み始める。


「本日配布されたかりんとうには、

本物・偽物・それ以外がランダムに含まれてるダベッ?」


「どれを食っても正解だが、嘔吐したら爆発するダベッ?」


「判断基準は個人の感覚に委ねられるダベッ?」

「信じるも、噛むも、出すのも、自己責任ダベッ?」



「ふざけんなよ!!」


誰かが叫んだ。


「そんなもん……食えるかよ……!!」



中居くんはニコニコしながら一言だけ。


「じゃあ……食わなきゃいいダベッ?」



沈黙が落ちる。



そして、誰も気づかなかった。

次に配られる袋が、すでに足元に置かれていたことに。


中身は、明らかに先ほどより“柔らかく”なっていた。

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