第7話 螺旋曲線

「解体師、こいつらを採用する。事務に伝言を頼む」

 2つのまん丸の赤が所長をじっと見つめる。

「この間、箒使いと罠師くん採用しましたよね???」

「事務がそれでも足りないから採用を検討したんじゃないのか?」

「いや、あれは、所長が採用を先延ばしにしまくったから、事務ちゃんが忘れて新しいリスト作っただけで…」

 解体師からすれば、そもそも何故3ヶ月も空くのか疑問でしかない。所長は仕事がとにかく効率が悪く遅い。それでも何とかなっているのは、本当に必要な書類や仕事は、全部事務がこなしているためだ。どちらが所長か分かったものではない。

「…まぁいい、もう採用の気分なんだ」

「気分て、所長がそれでいいんですかね?力で成り上がったレベル5の元サーバーはこれだから…」

「たった1年でレベル5になった規格外に言われたくないな。それに、第1や第2は処理班がもっと多い。ちょうどいいじゃないか」

 追い出すように手を払って解体師を追いやる。愚痴を言いながらも今日も所長に良いように使われる解体師。

「それは、単純に仕事量の差が…懐かしいですねもうここに来て3年ですか」

 納得いかない。追い出された解体師は扉の前で深呼吸してから、一階上に登る。第1、第2のことを少し思い出す。第1と第2はもまた個性的な処理班が居たが、第3と比較して仕事量が倍以上あった。そのための人数であって、仕事量に対する人員の比率が偏っている。

「はぁ、星の金で運営してるからって、どうしてどこの所長も運営下手くそなんだ…脳筋しかいないからか」

 事務室の前に立って扉の前で1人疑問を投げかけ、自己完結する。解体師の知る所長は3人とも、バカみたいに強いだけのイカれた人間だ。

 事務に軽く挨拶し、新人が採用されたことを告げる。

「もう捌ける量になってるのに、どうしてこの時期に新人を採用したんでしょう?この間新人採用しましたよね?」

「事務ちゃんが仕事に忙殺されてるのは知ってるよ。この原因は3ヶ月前に提出した新人リストが箒使いと罠師くん達のことだと思ってるでしょ」

「?…はい、あの二人をリストに入れた記憶があります」

「その記憶は3ヶ月前じゃなくて、更に3ヶ月前。6ヶ月前の記憶だよ」

「…え?もしかして、私、その事忘れて別のリスト作って、所長に提出してたってことですか?」

「ご明答」

 顔がしわくちゃになる事務。自分のミスで大変な事態になったと、頭を抱えて天井を仰ぐ

「うわぁ…仕事ないよぉ」

「もういっそ事務補佐としてこき使えば?」

 解体師の提案。事務は一瞬で真顔になり、解体師の顔をじっと見つめて尋ねる。目に感情が無い。

「使えますかね?」

 冗談なんて一切ない。効率厨極まれり。ほとんど一人で陰ながら、掃除屋を支えてきた女は目が違う。

「使えるようにすれば良いんだよ」

 どうせ自分と同じ様に仕事がないなら、普段から使って育てれば良い話だ。と提案する。

「マニュアル作りますか」

「むしろなかったんだ?いや、なかったね。そうだわ」

 ずっとワンオペで回していた彼女の事務処理能力は非常に高い。依頼が増えてきた今でこそ、タスクが溢れることはある。しかし、それ以前は確かにずっと一人で処理しきっていた。

 だから、マニュアルが必要なかった。育てる必要が無いなら必要がない。必然である。ちなみに、解体師は元から基本的なことが手際が良かった。ふと、事務が何かに気付いて手が止まる。

「と言うか、単純に事務員をもう一人雇えば良いのでは???」

「事務ちゃん、気付くの遅いね?まぁ、今までが異常だったわけだけど」




 もう居るのが当たり前と化している学生。今日も解体師の横で勉強をする。何も言わない所長。2カ月が経とうと言う最近は、嫉妬もしなくなった清掃員。今日もぬいぐるみを抱く。サンドバッグ用のぬいぐるみが抱かれているため、たまに間違えて清掃員を殴るようになった収集家。もうこれが第3の日常となっている。

「ふと思ったんですが、解体師さんたちの依頼ってどうなってるんですか?」

「まぁ、依頼難易度に応じてと、成功率とかで処理プランを選ぶ感じかな」

 今日もタブレットと向き合い、唐突に疑問を投げかける。携帯端末でゲームをしていた解体師は手を止めた。

「一番安い人って誰なんですか?」

「断然、収集家、ペテン師のゲームレイターだね。清掃料がほとんどかからない分安い。成功率も高くて掃除屋全体でも1,2を争う有料プランだよ」

 自分達のコンビが褒められていることに対して、口角が上がっているのを清掃員だけが知っている。

「お二人のコンビ名初めて聞きました。収集家さんは分かりますが、レイター?ってなんですか?」

「遅刻魔だからね」

「そうなんですね。遅れてる者。だからレイター」

 解体師はペテン師を何とも言えない表情で紹介する。それを聞いて、今にも人を殺せそうな鋭い蒼の眼光を、清掃員だけが知っている。

「次に安いのは二人の大罪、こっちもほとんど清掃料がかからない」

「怠惰屋さんと暴食家さんですね!」

 ノーリアクション。

「ブレイクキャリーは成功率が極めて高く、トラップブルームも罠師くんが優秀だから安い。」

「実は皆、あまり変わりがない?」

 学生の言葉を聞いて固まる。ゆっくりと振り返ろうと首がキリキリと動く。阿修羅が誕生していることを、清掃員だけが知っている。カタカタと震えてゲーム画面をジッ見つめる。

「サブプランがあるんだよ。ゲームレイターは集団処理プランがあるし、ブレイクキャリーは調査から請け負うプラン、二人の大罪は処理メインじゃない潜入プランがある」

「そんな違いもあるんですね。やっぱり皆さん一芸だけじゃないんですね。集団を相手にできるって、やっぱり収集家さん達は優秀ということでしょうか」

「勿論」

 満面の笑みでディスプレイに向き直る収集家。変わり身の早さに、綺麗な赤い丸が二つ彼女を見つめる。感情の乱高下が激しすぎる。

「ちなみに、解体師さんは?」

「俺は一番高いよぉ?ブレイクキャリーの3倍。成功率100%。スートが相手でも受けちゃう必殺プラン」

 誰が見ても腹のたちそうなドヤ顔を披露しながら、Vサイン。思わず学生も目を細める。

「その殆どは清掃料にかかる金だがな」

 黙って聞いていた所長が、解体師の自慢気な様子にバケツ一杯分の水を差す。つまり、解体師はもう少し安く抑えられるはずだ。

「解体師さんはスケールが違いますね。散らかし屋ですね」

「物騒な散らかし屋が居たもんね」

 収集家が学生の言葉を聞いて、呆れた。子どもがおもちゃを散らかすのとは全然違う。命を散らかす。己の血すらも。

「言うほど散らかしてないよ。血以外」

「その血が一番問題なんですけど?!」

 悪びれない解体師に食い気味にキレる清掃員。宙を舞うぬいぐるみ。今日も執務室は平和だった。



 13区ゴーストタウン。短い茶髪ツリ目、大きな胸、ショートパンツ姿の白い女。長い黒髪細目、大きな胸、ローブ姿の黒い女。2人の女が廃高速道路の上で何かを待っている。廃高速道路は足元が割れており、平らではない。白い女は炎の紐を渦状に巻き、椅子になり座っている。黒い女は瓦礫の上に座っている。

「遅いわねぇ」

「おせぇな」

 呼び出されてから結構な時間が経ったようで、二人とも待ちくたびれてしまっていた。二人で1時間後には忘れてそうな話で盛り上がったり、会話が途切れてお互い携帯端末で時間を潰したりしていた。

「おせぇと言えば、貯金なくなるかと思ったわ」

「ホントだよねぇ。贅沢してないのに生きてるだけで貯金が減るんだもん」

 お互い、コンビを組む話をしたのは3カ月以上前だが、お互いのことはあまりよく知らない。

「あんた、レベル4だろ?そんな使うのかよ」

「えぇ、14区料理が主食だからぁ」

 黒い女ののんびりと間延びした話し方がずっと気になっている。が、それよりも気になることが聞こえた。

「天上人みたいな食生活送ってんなぁ?!14区の『料理』ってあれだろ、失われた歴史に存在してたっていう、赤とか緑とか色一杯ある洒落た食べ物!」

 この世界において料理はお金持ちの嗜みである。

「『料理』を知ったらぁ、普通の食事には戻れないのぉ」

「味なんてほとんど変わらないからなぁ。パンか麺、米の3択、栄養満点、選べる食べ方。これは表も裏も変わんねぇ」

 この世界は、食に選択肢がない。味で選ぶのではなく、どういう食べ物を選ぶかしかない。栄養満点のコッペパン、栄養満点の麺類、栄養満点の米。味はどれもほとんど変わらない。その3種類の中でも色んな商品が存在するが、味に違いはほとんどない。

「11区の複製体技術で食糧を賄ってるからものねぇ。14区にある料理街は良いわよぉ?見た目が違えばちゃんと味も違うのよ」

「食いたいような、食いたくないような。食ったら戻れねぇもんな…」

 白い女が深くため息をついて、葛藤する。興味がないわけではない。彼女が知る限り、14区の表の人間が、ストレスリセットの代わりに『料理』を選ぶ娯楽として成立するものだ。気になって彼女の口の端からヨダレが垂れる。

ジュルリ

「お待たせしました。情報隠蔽の防壁を張りながら運ぶのにてこずりまして」

「なぁ、あれがうちらの試験相手か?」

「そうみたいねぇ」

「…デカすぎんだろ」

 近付くまで気付けなかった。廃高速道路の上を5mの巨大メカが地面を揺らしながら近付いてくる。それは、メカの上で立つ男の仕業で間違いない。口調から敵ではない事は分かる。話に聞いていた試験担当なのは想像に難くない。しかし、巨大メカの相手をさせられるとは聞いていなかった。

「なぁ、情報隠蔽防壁って、あんなの隠せるもんか?」

「空間ハッキングかしらぁ。珍しい技術を使うのねぇ。できるものなのかしらぁ?」

「だから、ちゃんと言いましたよ。ここに連れてくるのには手こずりました。と」

 不敵に笑う白衣の男。赤い瞳が細くなる。

「なぁ、規約、覚えてるか?」

「この場合、あなたか言ぃたいのはぁ。機密の露見リスクと処罰よねぇ」

「あれを平然と持ってくるあれは普通じゃねぇ。うちの環に居たよ、そんな奴」

「そうねぇ、私たちの想像の遥か上を行くツワモノォ」

 二人は臨戦態勢になる。お互い武器という武器はない。

「手段は問いません。彼を殺してください」

ゴインッ

 巨大メカの上に立つ白衣の男が高らかに開始を宣言する。彼はメカの上から消え、メカが巨体に似つかわしくない速度の拳を振り下ろす。メカの赤い目が不気味に輝く。

「手はず通りにねぇ」

「おもしれぇ!うちと力比べしようってのか!」

 白い女の炎は赤く燃え上がる。拳は彼女よりも大きい。それでも両手で受け止め、押し返す。左手で抑え、右拳を強く握り込み。振り上げた。

ガターン

「次があるわよぉ」

 メカの拳は勢いよく振り上げられ、バランスを崩して尻もちをつく。起き上がろうとしながら、メカの目が一際強く光る。赤い光線が黒を貫こうと伸びる。

「あめぇあめぇ!その程度じゃぬるくてうちに届かねぇ!」

 白が飛び込む。両手で作った炎が光線を受け止め、白の炎が激しく燃え上がる。

 光線を打ち終えたメカは起き上がる。が、黒い女の左目が開いていた。左手の人さし指と中指の隙間から、メカを睨む。

「ほら、あんたの番じゃねぇのか?」

「東京23区掃除屋処理班、見習い。汚れ、みぃつけた」

【トマレ】

 この世とは思えない声が周囲に響く。重たい空気が波紋のように世界に浸透したような気がした。メカは起き上がろうとする途中のまま、動きを静止させる。その重心は明らかに中心にない。本来であれば前のめりに倒れる体勢。だが、まるで縫いつけられた様にその場から動けない。時間に取り残されたような違和感。

 世界が蒼く光る。蒼く、深い深い蒼。世界を蒼く染め上げるのは白い女。彼女が生み出す炎は赤から蒼に変色していた。熱を帯びる。周囲が、空気が焼けて音が加速する。

「ちょっと憧れてたんだよなぁ!!!!こう言うの!東京23区掃除屋ぁ!処理班!見習い!じゃぁ、遠慮なく、焼き尽くすぜぇ!」

 右拳から放たれた蒼い炎はメカに命中すると巨大メカの頭部を派手に弾け飛ばす。放たれた炎の玉は、彼女の体格の何倍もの大きさを持っていた。

 頭部がなくともメカは動く。胸部が開くとそこからミサイルが無差別な方向に飛び散る。このままでは、周囲が無差別破壊されるのは一目瞭然だった。

「こういう処理もうちらの仕事なんだろうな」

 白の蒼い炎が蛇のように伸びる。目を細め、深く息を吐き。集中する。ミサイルを全て視界に捉えてから、銃を撃つように指を構える。先端が割け、飛んでいくミサイルを的確に撃ち抜き、巨大な花火が咲く。断続的に撃たれるミサイルは即座に捉え、中空で花が咲き続ける。

 ミサイルが撃ち終わる。まだ何かを仕掛けようと震える。しかし

【ツブレロ】

 中指と薬指の間から見つめる冷たい青。呪いの言葉は現実に還る。頭部のない抵抗力を失ったそれは、みるみるうちに音を立てながらぺしゃんこになっていく。最終的に平べったい巨大なコインになる。

「5区の魔法、焼却屋。20区の再現、呪術師。この前からコツコツ集めていた、5人の処理予定の人間で作った16区の機械でしたが、簡単でしたかね」

 二人のすぐ後ろで拍手をする白衣の男。一見和やかに笑っている彼だが、二人は背筋を凍らせた。音を立てるまで存在に気付かなかった。そればかりか、一瞬感じた殺気で二人ともバラバラに解体された。気付くよりも先に死んだ。拍手の音で現実に連れ戻された。

「はっ?!はっ、生きてる!?」

【シネ】

 白は詰まった息を吐き出し、生を実感する。黒は右手をかざし、親指と人さし指の間に男を捉える。響く呪い。ふらつく白衣。しかし、その赤い2つの目が見開き、口の両端が吊り上がる。上体をわずかに反らせて制止する。

「素晴らしい技術ですね。心臓を止められて死にかけました。この強度は生半可な死ではないですね」

 彼は何もしていない。ただ口から赤よりも赤い血が垂れただけ、親指で軽く拭う。彼の余裕は揺らぐことすらしない。

「あれ、今回の試験官じゃねぇのか?」

「殺気に反応してうっかり奥の手を出しちゃったわ」

 白と黒が慌てた様子で落ち着きを取り戻そうとする。未だ不審。

「あんた、こいつの死の再現を何もせず超えたろ」

「昔見た札の死を再現してるのに、どうやって超えた」

 命の危険を感じる二人はまだ警戒を解けない。白は疑いつつも戦闘態勢自体は解いている。黒の両目は開かれ、目の前の異常を見つめる。今の黒に普段の余裕はない。口調もいつもよりきつく、間延びしない。両手を顔の前に構え、いつでも呪いを放てる姿勢を崩さない。崩せない。目の前に居るのは彼女の知る限り、人ではない何かだからだ。

「東京23区掃除屋処理班、解体師。札の死の再現程度で死ぬほど、道理の通った人間ではないんです。申し訳ありません」

「聞いちゃいたけど、想像を絶するなマジで」

「私の奥の手をぉ、あぁも簡単に越えられるとぉ、私の立場なくなっちゃうんだけどなぁ」

 自己紹介されても、その不気味な存在に心が許せない。とはいえ、にっこり笑っていて両手を挙げる彼を警戒し続けるのもバカらしい。警戒心を解いて大きく息を吐いた。

 帰り道。

 解体師がすっかりニコニコで、さっきまでの異常が嘘のように飄々としている。ふと、黒が不満を零す。

「私、呪術師ってやぁねぇ」

「あんたあれ、美食家とかどうよ。14区の料理主食だし」

「素敵ねぇ。じゃぁ美食家って名乗るわぁ」

 それを聞いていた解体師は、少し不満そうに口を尖らせていた。

「結構印象通りな気がしたんですけどねぇ」




「ほんっとーにごめんなさい!お二人には仕事ないんです」

 手を合わせて深々と頭を下げる事務。8階の更衣室で、ラフな姿に着替えてきた白と黒。着替えても白と黒の印象は白と黒のままである。事務室に入るなり唐突な謝罪に面食らう。

「聞き間違いか?今なんてったって?」

「もう、ちゃんと聞かないとダメよぉ?忘却屋ちゃん」

「焼却屋だ!」

「気に入ってくれてるみたいで何よりぃ」

ゴッ

 焼却屋が赤面しながら解体師の顔面に拳を放つ。その拳は後悔に滲んだ。ニコニコ笑いビクととしない解体師。緩く嗜める黒。

「処理班で雇ってくれるって言うから、うちはやっと安心して隠れられると思ったのに!」

「でも、契約金は発生するのよねぇ?」

「はい!もちろん!」

 慌てる焼却屋の横で黒は変わらずマイペースだ。

「契約金だけで今の生活維持できるわけないだろ?!こちとら表向き死んでるんだから!情報料がかかるんだよ!」

「そうよねぇ。情報を制限するためのお金が高いのよねぇ。」

「あんたは先ず食事代だろ!」

 裏の表と言うとややこしいが、彼女達はサーバーとしては既に死んだ身である。サーバーとしての生活を捨てて、今ここにいる。彼女たちの死を偽り続けるため、生きているという事実を隠す。とにかくそれにはお金がかかる。

 これは処理班全員同じ条件下で生きている。契約金はその情報料分程度しかない。任務をこなさなければ収支がプラスにならない。

「貯金にはまだ余裕があるし、表にも裏にも居られなくなった私たちがぁ、生きていくための命綱があるだけぇ、マシだと思わなきゃかしらぁ」

「それを言われるとよえぇな」

 仕事がないにしても、今彼女たちが生きていける手段があるのは幸いと言える。その事は焼却屋も理解できているため、大人しくなる。

「…てか星って結局なんなんだ」

「それを知ったら、帰ってこれないけど良いのかい?」

「あー…覚悟決まってからにするわ…」

 ふと、塔でも門でもない掃除屋。その先にある勢力について首をかしげる。笑顔のすき間から見える赤に怖気づいた。黒は黙っていたが解体師の赤を見つめ、彼女もまた青を覗かせる。

「私の給料を分配するので、私の仕事を手伝うって形でどうでしょうか」

 事務が申し訳無さそうに提案する。いつまでその姿勢を保つ気なのか分からないが、未だに手を合わせて頭を下げ続けている。今回は彼女のミスでもあるため、この形が最もちょうど良い提案だろう。

「やらないよりマシよねぇ」

「事務仕事したくてきたんじゃねぇ!環にいた頃と変わんねぇよ!」

 渋々受け入れる黒と、あくまでも反発し続ける焼却屋。唐突に身体を起こして焼却屋の目を見ると、真顔で何の悪意も善意もなく。

「じゃぁあなたは仕事できなさそうですし、大丈夫です」

「舐めてんのか?!」

 胸倉を掴もうと手が伸びる。解体師が事務の後ろに立ち、焼却屋の手を指と指を絡めるように掴む。その表情は依然笑顔のまま。

「っばっ!??!きゅ、急に手を握るな!」

「握手したそうだったので」

 事務は真顔だがカタカタ小刻みに震えている。言葉も出ないらしい。焼却屋は赤面して解体師を直視できない。

「チッ、しばらくはそれで我慢してやる。けどな、私たちへの仕事が振られればちゃんと寄越せよ」

 解体師がいる以上、交渉は事務が有利だと判断した焼却屋。肩を落としつつもその条件で手を打つと、事務を指差して宣言する。

「いえ、だからあなたは結構です。仕事できなさそうですし」

「こ、こいつっ!!!」

「魔法はダメよぉ」

 震える両肩を解体師に掴まれて、真っ赤になった焼却屋が、解体師に蹴りを放って事務室を転げ回っていた。





解体士

普段はそうでもないが、仕事中の彼には慈悲の一切がなく、感情が見えない。


所長

てっぺんハゲの中年男性。人の話を全然聞いてくれないが寛容。レベル5元サーバーらしい。


清掃員

赤毛の長髪で赤目の女性。解体士の血は落ちにくいので嫌い。


事務

ロングスカートの女性。真面目で仕事熱心だが、抜けてる所も多い。


壊し屋

小柄な少女。ブレイクキャリーのブレイクの方。元気いっぱいな妹キャラ。怪力天使と呼ばれたレベル4元サーバー。


運び屋

巨漢男性、ブレイクキャリーのキャリーの方。思いやりある寡黙キャラ。


収集家

右が蒼、左がエメラルドグリーンの瞳、白髮ボブ娘。ゲーム好きで口が悪い。ハッピーウィズバレットと呼ばれるレベル3元サーバー。


ペテン師

金髪青年。平然とした態度で何事もやり過ごそうとする。7区の元サーバー。死んだという噂があるが、名前は知られていないらしい。


怠惰屋

タバコを吸う茶髪の青年。不真面目なことを言うが、意外と真面目。稼いだ金のほとんどを色に費やしている。暗がりの蜘蛛からサタンと呼ばれる。


暴食家

小太りな男。いつも何かしら食べている。


箒使い

落ち着いた雰囲気を纏った年齢不詳の男。13区の武器である長柄、通称「箒」を巧みに操る。


罠師

ひ弱そうな金髪の青年。16区の機械技術を使った罠を使う戦闘スタイル。


焼却屋

短い茶髪、巨乳、ショートパンツの全体的に白の女。強気な性格で気に食わないことにはすぐにノーという。5区の魔法を操る赤と蒼の炎を操る。


美食家

長い黒髪、巨乳、ローブ姿の全体的に黒の女。おっとりとしていてマイペースな性格。14区の『料理』が主食。20区の元レベル4サーバー。彼女の記憶を特定のプロセスで再現する力を操る


東京

かつて日本と呼ばれた国は、ある時から東京23区に区切られ統治されることとなった。

1区の技術により汚染された外界を遮断する巨大ショルターに日本は閉ざされ、完全な鎖国状態となっている。

外界とのアクセスも可能だが、かなり厳重なセキュリティと浄化、洗浄を経なければ出ることも入ることもできない。

区画毎に巨大な企業「塔」が治める人口過密国。

1区は巨大ショルター技術により、実質的な東京の実権を握っている。

2区は義体、3区は肉体改造、4区は悪魔契約、5区は魔法、6区は超能力、7区は服飾、9区は空間移動、11区は複製体、12区は遊戯、13区は武器、14区は記録、15区は映像、16区は機械、17区は医療、19区は快楽、20区は再現、22区は復元

それぞれの唯一無二の技術を持った「塔」が各区画を支配し、区ごとに独自の生活基盤が設けられている。

塔の管理下では人は不幸になることはなく、衣食住と職、娯楽が約束されている。

東京の管理から外れるとその全てが奪われることとなる。

36進数8桁の番号で人間を管理している。


サーバー

面倒事の処理を担当する職業。試験に合格することで就ける。

塔が管理しているため、塔の許可の元に活動する。東京の管理から外れた人間の排斥や始末など、東京の管理システムの一部。

実力がある者はレベルが上がり、あらゆる待遇が良くなる。

サーバーになると塔のシステムとして扱われるため、塔の管理から外れ、衣食住、娯楽のすべてを失う。底辺では悲惨な人生を送ることになる。


環(たまき)

集団で活動するサーバーの総称。

自分達の規模を示すために、輪っかに人数分の四角を描いて示す。輪っかの内側に自分達を表すマークが添えられる。

基本的に何かしらのコンセプトを持った集団が多い。

大手の環は支部さえ持つ。


レベル

あらゆる強度を指す言葉1〜5までで示され、数字が大きいほど高評価。


スート

レベル5のサーバー上位52位に与えられる称号。

ハート、ダイヤ、クラブ、スペードの4つがあり、1〜10と組み合わせて呼ばれる。

11〜13のナンバーを持つスートの中でも特に異常な存在をアートと呼ぶ。

11をジャック、12をクイーン、13をキング。

トランプがモチーフになっていることから、スートの死は「札が流れる」と表現される。

逆に欠けたスートが埋まることを「札が場に並ぶ」と表現される。


区内で塔の管理が行き届かない裏を牛耳る組織の総称。

東京の正規管理から外れると、門の管理下で生きていく必要性がある。

力ある組織が管理する地域を確保し、門を主張することで門として認知されるようになる。

門毎にルールは様々だが、東京の管理から外れると普通は門の管理下以外で生きていく術はない。

特に区内でトップの門を一門と呼ぶ。

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