紅鸞囍 ―縁結びの瑞鳥は浮世で紅き糸を牽く―
白玖黎
序章 神都有霊――神都には神仙がいる
壱 縁結びの神仙と百花繚乱の庭
中空を泳ぐ金色の
四季折々の花々がいっせいに、
紅梅だか桃花だか、
しかしながら、暦の上ではすでに春を迎えているとはいえ、まだまだ朝夕には冬の寒さも執念深く顔を出し、花といっても気の早い梅や
それでもここが時ならぬ花々の園たりうるのは、この
奥から雲のようにたなびく
「最後に来たのは数十年前だっけ……」
やはり、何度訪れても慣れないものは慣れない。
つい先ほどまで
すると、
紅鸞の姿を認めると、
ある日突然、自分宛てに届いた書状によって呼びつけられた紅鸞は、先方の目的も
――とにもかくにも、めちゃくちゃ歓迎されている。
人の都に
神都の
人里に透明の
鯉は黄金の
長い尾ひれが宙をすべると、たなびく
道しるべをたどって朱塗りの三門をくぐれば、
いつ見ても
さながら
中心の庭園では互いに
天喜宮は
縁結びの龍仙
正殿の前で線香を立てる人々を横目に、紅鸞は宮観の奥へそそくさと歩を進める。
参拝者たちがみな質素な格好をしているなかで、燃えるように赤い紅鸞の衣装はかなり浮いていた。
伸び切った髪はまとめられているものの、雑に撫でつけられた癖毛が
黒目がちの目はくっきりとした
長い石の
ここにいる全員が目指す目的地はただひとつ。紅鸞は多くの参拝者が集まる御殿の最奥を
そこでは、身なりの良い女性三人がある人物を囲み、楽しそうに談笑をしていた。
「ねえ
女性のうちのひとりが両の手のひらを開き、隠していたものを見せる。
「裏庭で
「ええ、とても綺麗な
「でもこのお花、ちょっと形が
「ふふ、どうやらあなたの
「ええ、ずるーい。私もお花を摘んでくるわ! そうしたら私にも作ってくれるわよね、天公?」
「もちろんです。親愛なる美人のためならば」
彼女たちが
紅鸞は彼の周りに集う人だかりのせいでその場から動けずにいたが、黄金の鯉が人々の頭上を
その人物は鯉の姿に気づくと、片手を高く
次の瞬間、彼の手のひらのなかへ飛びこんだ鯉は一通の書状の姿に戻っていた。
ちょうど数日前に紅鸞のもとに届いたあの案内状である。
そのとき、急に目の前の人混みが割れたかと思えば、中から
目の覚めるような
やわらかな笑みを浮かべる
万年雪をまぶしたように白くきめ細かい肌や流れる川のような長髪は女性的ですらあり、
腰に下げているのは、
「美人、お待ちしていましたよ。少し見ないうちにまた一段と魅力的になって……ほら、こちらへ。もっとよくあなたの顔を見せてください」
世の女が聞けば
「あなたは何ひとつ変わってないわね。顔も、性格も、その浮ついた態度も!」
「おやおや、手厳しいですね」
「さっきのは貴族のご令嬢でしょ? あんな風に近づいてくる
「そういうところは美人も相変わらずですね。心配してくれるのは嬉しいですが、僕は参拝者のみなさんにお守りを配っていただけですよ。それに、彼女たちは清らかな心の持ち主です……ただ、ほんの少しわがままなだけで。そうだ、美人にもひとつ差し上げます、僕のとっておきの
「い、いらないってば……私だってあなたと同じ神仙なのよ」
一度は押し返したが、男は手作りの小さな
この人たらしの好色軽薄男は、人呼んで
天喜宮の主人こと縁結びの龍仙天喜であり、
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