100回フラれた俺に、ある日突然100人斬りのビッチが話しかけてきた

月野 観空

第1話 ギャルに話しかけられた日

 誰でもいいから付き合いたい。

 誰でもいいから付き合いたい!


「誰でもいいから、付き合いたいんじゃぁぁぁぁぁぁぁx!」


 放課後の校舎裏。むせび泣くような声が響き渡っていた。


 声の主は、茂手内もてない杉男すぎお。彼は現在、都合100回目の失恋を迎えたばかりであった。

 つい五分ほど前に、彼は学校の先輩(テニス部の三年生・綾乃先輩。泣きぼくろのエロい和風美人)に告白してフラれたばかりであった。彼がテニス部の女子にフラれるのはこれで五人目であった。ちなみに惚れたきっかけは、朝学校へ来る途中、曲がり角でぶつかって運命を感じたから、というものであった。バカと勘違いの極みであった。


 しかし本気で杉男は運命を感じていたのである。

 そのため、思い立ったが吉日、とばかりに本日、行動を起こしたのであるが、肝心の綾乃先輩はというと。


「あ、あのー……誰彼構わず告白する人ってどうなのかな?」


 と、普通にちょっとキモがられてフラれてしまったのである。


「くそぅ、くそぉぉ……俺はただ、運命を感じて告白しただけなのに……なんで誰も俺と付き合ってくれないんだ……!」


 これまでずっとそうだった。

 女の子を好きになって告白しても、なぜだか絶対にフラれてしまう。これだけ人を好きになっても報われないなんて、この世は地獄か、と杉男は思った。


「はぁ……俺はただ、女の子と付き合ってイチャラブセックスして結婚して子ども作ってウハウハしたいだけなのに……! あと美女の海に飛び込んで隅から隅までおっぱいで埋め尽くされたい……彼女が、ほしいぃ……」


 一途なのか浮気性なのかよく分からない欲望を口にしながら、杉男がデカいため息を漏らす。

 それから彼は、


「……俺、このまま一生彼女できないのかな」


 と、ぽつりと呟いた。


  ***


「………………」


 傷心の杉男は気づいていなかった。


「なにあれ、やっばぁ……(笑)」


 そんな杉男を窓から見下ろしながら、ニヤリと含み笑いを漏らす女がいたことに。


  ***


 翌日。


 失恋の痛みを未だに引きずりつつも、杉男は普通に登校していた。

 そのまま、教師の話もろくに聞かずに、ぼんやりと授業の時間をやり過ごす。


 頭の中は、昨日のことでいっぱいだった。昨夜、傷ついた心を癒すために先輩とよく似た女優を探して何度か発電機を回したが、むしろ虚しさは募るばかり。心はしくしく泣いていて、空は晴れ渡っているのに気分の方は土砂降りだ。


 失恋のあとはいつもこうである。本当は学校に来たくもなかったが、杉男はサボりや提出物の未提出が多いタイプの、あまり良くない学生だ。出席日数もいい加減ヤバめで、仕方なく今日は登校してきたというわけである。


(ああ、鬱だ……鬱だ……なんで俺はこんなにモテないんだ……一度でいいから女にモテてみてぇ……そしてセックスしてぇ……誰か俺の運命の相手になってくれぇ……)


 そんなことを考えながら、面白くもない数学の授業を聞き流す。

 赤点はもはや常連なので、授業内容が分からなくても問題はない。(いや、実際は問題しかないが)


 そしてそのまま、彼は怠惰に一日の学生生活を終え、家に帰ろうと教室を出たその時である。


「ねぇそこの男子ー。この後ちょっと顔貸してくんない?」


 女子のそんな声が耳に入ってきた。


 とはいえ、女子の方から話しかけられる覚えはない。

 声自体に聞き覚えもなかったので、スルーしてそのまま杉男が帰ろうとしたところ。


「ちょ、ちょ、ちょー。話しかけてんのに無視すんなっての」


 そんなことを言いながら、声の主がガッ、と杉男の肩を掴んで引き留めてくる。


「……? え、俺?」


 杉男はそう呟きつつ、振り返った。


 そしたらそこには気の強そうな美少女がいた。顔はいいけどいかにも遊んでいそうな感じで、派手な見た目は陽キャというよりギャルオーラを放っている。とりあえず限界まで色抜いてみました、みたいな髪がやたら眩しい。それと日サロで焼いてそうな肌が黒々しい。(ケツ軽そうな女だな)と、反射的に杉男は思った。


 その女子が、間違いなく杉男の肩を掴んで、そしてこちらを真っ直ぐ見つめてくる。

 そして口を開いた。


「そ、そ。君。ちょっと今から顔貸してよ」

「えー……」


 現在進行形で傷心中の杉男である。憧れにして運命の相手の綾乃先輩とは似ても似つかぬギャルにそう言われても、気が乗らないというのが正直なところであった。


 そんな杉男の反応を知ってか知らずか、


「てか、今日暑っつー」


 と言いながら、第二ボタンまで外した制服の胸元をギャルがクイっと指先で引っ張る。


「顔貸します」

「ん、よろしい」


 気づけば杉男はそう返しており、ギャルはにんまり笑うのであった。

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