第7話:道行く者の真相

 片付けを翌日とされた会場。歓迎ノ儀のときの熱気はすでにぬるくなり、そのままにされている青白い提灯ちょうちんから煌々蛾フウフウパの羽ばたきやはねがあちこちをかする音が聞こえるほどに静かだ。祭事がなければただの広場なのだろう。周辺に家屋はなく、辺りを見回せば草木が鬱蒼うっそうと生い茂っているだけだ。

「こっちです」

 手持ち提灯を持ったセカニが案内したのは、示されなければ入り口を見つけることさえ困難で、身体からだを縦にして進んでも葉や枝が容赦なく肌をかすっていく狭い道。

 しばらく歩き、秦名の背丈と並ぶほどの高い雑草が茂る斜面をセカニに手を引かれてけながら上ると、視界がぱっと開けた。

 そこはちょっとした丘のてっぺんらしく、空をさえぎるものはない。口角を上げてにやにやとしているように見える細い月もはっきりと見える。

「たとえ、あなたがどんな人生の道を歩むとしても構わない。それでも、知っていてほしいの。生きていたほう・・・・・・・の人のことを。だから――」

 セカニが視線を落とした先を秦名は見た。

 草原の土の色とは異なる、平たくて大きい白い石。

 秦名は石の表面につたなく刻まれた一文を読んで、胸の奥をぎゅっとつかまれたような痛みを感じた。

 彼女、セカニ・メッセイはどんな思いで、こんなところまでこの石を運び、文を刻んだのだろうか。どんな思いで、歓迎ノ儀に参加していたのだろうか。どんな思いで、秦名仁義という転生者と接していたのだろうか。

「語らせてほしいの。私の、似ても似つかない、双子の兄のことを」

 秦名は目でその碑文ひぶんをもう一度読んだ。


 優しき兄、アラキド・メッセイ、転生者のかてとなりて眠る。

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