第6話 婚約
王都で暮らし始めて1ヶ月が経った。
慣れてきたし美味しい食べ物も多い、最近では色んなところで食べ歩きするのが趣味になっていたりする。
そろそろ身分を偽って冒険者にでもなってみようかと迷っている。
「カイル様、公爵家の方が」
「公爵家……まさかな」
公爵家と聞いて1ヶ月前、あのパーティーで出会ったエミエラを思い出す。
俺に公爵家が訪ねてくるなんてほぼエミエラで間違いないだろう。
「突然の訪問、失礼します」
「エミエラ様、立ち話もなんですのでどうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
予想通り玄関の扉を開けるとエミエラが立っていた。
なんの用事なのだろうか? 前のパーティーでは何も粗相など起こしていないし……
「エスティナ」
「セスも席を外してくれ」
どうやらエミエラは二人で話しがしたいようだ。
応接室に着くなり自分のメイドを外に出してこちらへ目配せしてきた。
「エミエラ様、今日はどんなご要件で?」
「……エミエラです」
「あぁ、エミエラ、今日は何か用事か?」
「用事が無ければ遊びに来ては行けないのでしょうか……」
「そんな事は無いが、何か用事があるなら早く済ませた方が良いだろ?」
少し恥じらうような仕草やそれを誤魔化そうとする仕草がいちいち俺の心にダイレクトアタックを仕掛けてくる。
なんだ、この雰囲気、明らかに気がある態度を取られても俺は慣れてないから反応できないぞ!?
「そうですね、では早速要件を済ませましょうか……カイル様、私の婚約者になって貰いたいのです」
「え?」
「私も公爵家の令嬢ではありますが魔眼の魔女と呼ばれて忌み嫌われていますし、嫁ぎ先など今後見つかるとも思っていません」
「そんなことは無いんじゃないか?」
「いいえ、カイル様の思っている以上に王都での魔眼や闇魔法の扱いは差別的です」
「そうなのか……」
そういえば俺も父親からは学園では極力闇魔法を使わないようにと言われた覚えがある。
別に俺の周りの騎士は気にしていなかったからあまり実感は湧かないが差別というのは確かにあるらしい。
「私はカイル様に少なくない好意を抱いております、私を差別の目で見ず綺麗だと褒めてくださる殿方など生まれて今まで居ませんでした」
「それは、俺たちまだ12年しか生きてないし仕方ないんじゃ」
「10年待って1度ですわ、次があるかも分からないのにあなたを逃すほど私に心の余裕はありません、あなたに嫁ぐためならどんな手だって使う覚悟を持ってここに来てます」
エミエラは席から立つと俺の横に来て目を覆ったの布を取り外した。
左目には眼帯が着けられており顕になった束縛の魔眼が俺を拘束する。
「本気です、好きでも無い相手に行き遅れで嫁ぐくらいなら今好きな相手に嫁ぎます」
覚悟の決まった瞳はあの夜見た時より輝いて見える。
俺も別にこんな可愛い子が嫁に来てくれるなんて異世界最高と叫びたいがその前に1つやらないといけない事がある。
「3ヶ月、俺に時間をくれ」
「時間を? 3ヶ月で何か変わるのですか?」
「あぁ、変えてみせる、エミエラ、君が魔眼を制御できるようにしてみせるよ」
「魔眼を制御?」
「あぁ、いくつか王都の図書館や家にあった本を読んで過去の魔眼使いについて調べたんだ」
「そ、それは歴史的な人物で私みたいな人間には」
「やる前に諦めるのとやって諦めるのは違う、それに無理だったら問答無用で俺は君に一生を捧げると誓う」
こんなキザなセリフ前世の俺には似合わないのだが今の俺は転生貴族のイケメン坊ちゃんなのだ。
それにこんな覚悟の決まった子を何も無しに突き返すというのは嫌だった。
それに魔眼が機能しなくなったと知ればエミエラなら婚約者なんて選びたい放題になるはずだ。
「俺を見た状態で束縛の魔眼を解くところから始めよう」
「過去に何度も試しました」
「でも、今のエミエラならきっと大丈夫、魔力感知は俺が知ってる誰よりも上手だしね」
あれから魔力感知や操作の練度をあげた俺だから分かる。
多分束縛の魔眼はある程度の魔力操作ができる相手なら簡単に解ける。
この締め付けられる感覚も魔力によって締め付けられているだけで別に邪悪なものじゃないのだ。
今の俺なら
「あがっ、っ!」
「カイル様!?」
「大丈夫、大丈夫だからしっかり見て!」
急に締め付けがキツくなったんですけど!?
エミエラさん!? もしかして俺で遊んでる??
今にも泣きそうなエミエラにこんな事は言えないが多少スパルタでも魔眼を操れるようになってもらわないと。
エミエラの集中がピークに達した時に俺が魔眼を破ることが出来れば、出来ないという固定概念が消えてくれるのではないだろうか?
「で、出来たの……」
「エミエラおめでとう、この通り俺は動けるぞ」
一日目にしては充分の成果なのではないだろうか。
希望があれば人は頑張ることが出来るのだ、今日は1度エミエラを家に帰らせてまた明日来てもらおう。
「カイル様、ありがとうございました、明日からも付き合ってもらってもよろしいのですか?」
「もちろん、暇だしね!」
さて、エミエラも帰ったしもう少し魔眼の勉強でもしようか……
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