Trace.14 Magic Serve
„Przyszedłeś, żeby poprawić swoją grę w tenisa, czy żeby bez końca wygrywać w tenisa? Hm? Jeśli to pierwsze, to wracaj do domu.”
— Glenn Reiber —
(Osobisty trener Yoshitaka Kagemura.)
“君はテニスを上達させるために来たのか、テニスで無尽蔵に勝ち続けるために来たのかどちらかね?ん?前者なら帰りたまえ。”
— グレン・レイバー —
(影村義孝の専属コーチ)
コートの上で繰り広げられる巨人たちによる戯れが、人々の目を釘付けにし、彼らに対する畏怖の念を抱かせる。
第1セット、第2ゲーム。影村のサービスゲームが始まる。
影村は静かに淡々とラケットでボールを突きながら、ベースライン中心付近のサーブ位置へと歩いた。ジャックは幼少期の記憶をもとに、影村のサーブの動きを予測する。彼がオーソドックスに後ろ足を引き寄せて打つピンポイントスタンスと呼ばれている動きを行うと予測した。
「 Game Jack, first game. Yoshitaka to serve.」
審判役のコーディのゲームコールの後、影村はジャックを一目見る。影村はまるで新しくなった自分のサーブを見せたがる子供のように、一瞬だけ笑みを浮かべた。ジャックは影村のサービス前のルーティン動作を見て、自分の記憶している情報と違うことに目を見開いて驚く。
「......Ich zeig dir was wirklich Cooles.(おもしれえもん見せてやるよ。)」
影村はジャックを見てからコート面に向かって呟いた。影村はボールを持ち、一度だけ軽く突く。彼は、ジャックへ背中の左肩甲骨を見せる程に極端なクローズスタンス。そしてラケットヘッドを相手のコートに向けて、ボールを持った左手を添える。左足のつま先を上げ、構えを取る。
「......。(来る。“5人の天才”たちに恐怖を与え続けたサーブが。)」
桃谷は、学生時代に自分たちが攻略できなかった影村のサーブが、今目の前にいる世界トップクラスの相手に通用するのかという好奇心に駆られ拳を握る。その眼鏡の下は目を輝かせた子供のように透き通った瞳をしていた。
「......。(へぇ...これが...。)」
ジャックは影村のサーブを高校時代の全県杯決勝戦の動画で見ていた。影村の動きはゆったりと見えても、その実、体の動きに継ぎ目がないほどの精巧な「運動連鎖」と呼ばれる人体動作が起きているためとても滑らかで速かった。
影村は左手の脇を締めながらピンと伸ばした腕を斜め約80度ほどに上げて、少し前気味にトスを上げる。トスを上げた手を残すように体をそらしながら膝を曲げ、体を捻じった。柔らかい肩が生み出す広い可動域によって、ラケットを引いている肘の位置が背骨の中央にまで引き寄せられる。
「Echt jetzt...(......マジかよ。)」
ジャックは今まで見たことのない、自然でそれでいて不自然なものを見た状況となる。影村は捻じ曲げられた身体を、つま先、膝、腰の捻りを滑らかに戻し、完璧な運動連鎖で生み出した力を腕からラケットへ一気に伝える。コンチネンタルグリップのラケット面が返す瞬間、ラケット面に当たったボールは、驚異的な初速を手に入れ、ジャックのいるコート上、サービスラインのセンターへ力強く放たれた。
ジャックは無言のまま目でボールの後を追うしかなかった。相手から見た影村のサーブは、精密なほど全てが同じトスから放たれ、極端なクローズスタンスによってラケットが体に隠れ、動作が全く見えない。どのコースへどのような球種のボールが来るかが全く予測できない。そのような条件下で常時時速200キロから230キロクラスのボールが飛んでくるのだ。
「フィ...15-0《フィフティーン・ラヴ》」
影村のサーブもジャックの持っているそれと同じく特殊なもの。そしてこれもジャックと同じく、サーブを打つ際の一瞬の刹那で変化を見分けなけらばならず、気を抜けば簡単にサービスエースを量産されるものだった。
“
後に“Scorpion Tail”同様、テレビ、インターネット、スポーツ雑誌によって勝手に名前が与えられたそれは、影村の第2の代名詞となる。アンディ・バーグにはかなわないが、通算サービスエース数は13,115本と歴代2位の記録を誇った。
「Ha...Hahahahahaha! Krass, Yoshitaka!(やるじゃねぇか!義孝!)」
ジャックは影村のサーブを見て心から称賛し、頭上でラケットと手で拍手した。コーディは、ジャックがハリー・グラスマンの同門以外で表情豊かに試合をする姿を初めて見た。
コーディはこの日、影村を新たな脅威と感じると同時に、彼をハリーグラスマンの指導を受けた選手たり得る才能の持ち主だと認識する。
影村はこのゲーム中にジャックがサーブの仕組みを見破ると確信し、その前にポイントを量産しようと考える。影村がトスを上げる。ジャックは影村の動きを観察。影村がラケットを振り上げる瞬間、ジャックはスライスサーブがバックハンド側に来ると判断し、重心を移す。
直前、影村の目が鋭くぐるりと動き、ジャックのわずかな動きからバックハンド側への反応を読み、ボールに視線を移す。影村の肩甲骨周りが盛り上がり、体幹をひねり、ラケットを振り上げてボールにまっすぐ当てる。
ボールは時速190キロ台でジャックのフォアハンド側にバウンドし、2つ目のサービスエースを奪う。ジャックはまだ状況を理解できていない。世界中を探しても影村しか打てない後出しのサーブがジャックの頭の中を混乱させた。
「
ジャックは好奇心と強者の出現に笑みを浮かべ、影村は落ち着いて3球目のサーブ準備に入った。ジャックはラケットを回し、左右に持ち替えながら重心を動かし、レシーブの構えを取る。
影村のトスが上がり、ジャックは不敵な笑みを浮かべ、影村のサーブが打ち出されるのを待った。影村が身体のねじりを解放し時速220キロのフラットサーブを打ち出す。ジャックはその一瞬を見逃さなかった。
ジャックは自分のフォアハンド側へと打たれたボールに飛びつくようにフォアハンドのラケットスイングを合わせた。そしてジャックのラケットが影村の打ち放ったファーストサーブのボールに当たる。
「......!?(なんだこの重さは!)」
ボールが重い。
影村の身体の驚異的な柔軟性から繰り出されるフラットサーブ。影村の独特な手首や体の柔らかさから打ち出されるフラットサーブは、
ジャックは押し通すといわんばかりにそれを打ち返し、リターンエースを取った。影村の顔が驚きに固まる。桃谷も目の前の状況を見て、ジャックのとてつもない腕力に唖然とする。
“力こそパワー”
おそらくこの世界で、唯一そのワードが似合う男。ジャックはリターンエースを決めると、腕を曲げて力こぶを作り、上腕二頭筋を自慢するかのように影村へそれを見せつけた。
「
コーディの審判コールを聞いた影村は、さすがジャックと称賛するような笑みを浮かべた。ジャックは影村のプレースタイル全てが少年時代のそれとは全くの別物であることに驚いたが直ぐに持ち直した。
「......。(サーブは後ろ足を引き寄せねぇプラットフォームスタンス、フォアハンドはバカ撃ちではないコンパクトリターン型、さらに相手の思考を奪うライジング気味にラリーを展開するラリースタイル。)」
ジャックの脳内では、まるでコンピュータのように思考が働き、影村の分析が始まっている。彼は淡々と脳をフル回転させた。
「......ヒュ~。(バックハンドは両手、片手のミックス、ベースライナーではなくオールラウンダー。それに俺たちの遊びをふんだんに入れたテクニカルプレー!ハリーめ、ヨシタカをフル改造しやがって、俺たちに最高の
影村の分析を終え、ジャックの視線の向こう、影村は淡々とサーブ前のルーティンを行い、次にボールを打つ場所を見極めていた。桃谷はベンチから前のめりになって試合の状況を確認する。後に彼女は、この日の事を“激動の2年”の始まりだと、自信の回顧録に記録している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます