いけないふたり。〜短期離職と不登校〜
燈外町 猶
第1話・好きな人の家ならいける。(前編)
『調子悪いみたいね』
働いていた頃ならば昼休みの時間帯、母親からそんなラインが突然送られてきて流石に焦った。
しかしそれから『
『何かあったの?』
体裁を保つためにしばらく時間を空けてから返信することも考えたが、そんな場合でもない。
『最近あんまり学校行けてないみたいなのよ』
楓が? という疑問と共に、彼女が集団から外れて一人佇む姿がフラッシュバックした。
クラスメイトとうまくいかないなんて全く信じられない、というのは嘘になる。
『そっか』
7歳も離れているとはいえ、長い時間を共に過ごした幼馴染の事態というのに、どこか他人事にしようとする自分に悪感情が生まれた。
だって。私に何ができる。
調子が悪いのは私も一緒だ。ずっと調子が悪い。大学を中退して、適当に就職して、すぐにやめてしまって、転々として、転々として……これを調子が悪いと言わずとしてどうする。
社会から見れば、私はずっと調子の悪い人なんだ。
そんな私に……何ができる。
『私達としてはさ、無理に学校行かなくてもいいって思ってる』
私達というのは、私の母と、楓の母・
『でもさ、少しでもいいから、外に出て欲しいんだよね』
そのレベルだったのか。学校に行けないじゃなくて、外に出られないなんて。
目に映る全てを許すように、いつも小さく柔らかく微笑んでいたか彼女は今、どんな表情で部屋の中にいるのだろう。
『それでね、どこか行きたいところない? って何回か聞いてたらね、行きたいところはないけど、
!? なんだそれ。なんで急に私の名前が……というか、そうか、だから私に連絡をしてきたのか……。
『どう? 最近は。ちょっと前まで土日も仕事で忙しいって言ってたでしょ?』
少し、考える。
私だってもちろん楓の力になりたい。だけど……私は今絶賛無職だ。親にもまだ仕事を辞めたことを伝えていない不誠実な人間だ。そんな人間が……いやいやいやいや、不誠実って何? 私には私の理由や事情があって退職をした。
受け取り手にだっていろいろ思うところがあるだろうけれど、私だっていろいろある。それを後ろめたく思ってどうする。仕方がないことなんだ。
『土日なら大丈夫。私も楓に会いたいって伝えておいて』
『はいよー。紫穂も無理しないでね』
『ありがとう』
無理しないでね、か。私がもっと無理をできる人間だったら、この人生をもっと胸張って生きていけたのかな。
×
当日。もともと部屋に物をあまり置かない性格もあって、掃除は結構簡単終わった。
どこかに迎えに行こうかと打診したが、家まで直接来るという。駅からは一直線だから迷うことはないと思うけれど、まぁまぁ歩くから少し心配だ。
「っ」
適当なショート動画を流し見していると、待ち合わせ時間ぴったりにインターホンが鳴った。
「いらっしゃい。鍵開けてるから入ってきなー」
「あっ、うん」
モニター越しに言ったあと、オートロックのドアを開ける。私の部屋は8階だけど、エレベーター運が良ければ1分もかからずに来られるだろう。
年末年始の帰省で会っていたから、半年ぶりくらいか。見た目はそれほど変わってなかったなーなんて思いながら玄関で待っていると、ドアノブがおずおずと動き出す。
「久しぶり……でもないか。いらっしゃい」
「紫穂ちゃん……」
「楓……? っ」
私を見るや否や途端に瞳を潤ませ、楓は私を抱きしめた。というか、抱きついてきた。久々に感じた人の体温で少し怯む。
今は昔ほど背に差がないから、鼻先に彼女のつむじが来た。ヘアオイルの良い香りがする。
「よしよし」
ここは気が済むまで胸を貸してあげようと思った。さらさらの髪を梳かすように撫でながら、あやすように背中で優しくリズムをとる。
「紫穂ちゃん……紫穂ちゃん……!」
私に込められる力がどんどん強くなる。こんな楓を見るのは初めてだった。
そもそも、彼女の泣き顔を見るの自体、初めてかもしれない……いや、ちょ、なに私、なんで私まで泣きそうになってんの……? 頼むから我慢して……! 年上の威厳とか余裕とかが一瞬で無くなって頼りがいなくなっちゃうじゃん……!
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