第16話 四天王? まとめて片付けます!

聖獣の温かくて力強い背中に乗って、あたしは遥か南にある『虚無の深淵』を目指した。聖獣は足が速い。あたしが一人で歩くよりずっと速いし、段ボール特急より揺れが少ないから快適だ。背中に揺られながら、流れる景色を見てるのも悪くない。


進むにつれて、空気はどんどん冷たく、重くなっていった。空の色は常に鉛色で、地面からは不気味な黒い靄が立ち上っている。植物は一切生えておらず、あるのは歪んだ岩や、禍々しい形をした結晶体ばかりだ。これが、虚無の深淵か。見るからにヤバそうな場所だ。


聖獣が足を止め、低く唸った。どうやら、目的地に着いたらしい。目の前には、巨大な岩壁に囲まれた、擂鉢状の盆地が広がっていた。その中心から、おぞましい瘴気が噴き出している。悪の本拠地って感じがムンムンするな。


盆地の中央には、何かの建造物らしき影が見えた。そして、その前に、複数の影が立っている。


あたしと聖獣が盆地の縁に立つと、中心にいた影の一つが、ドス黒い声で響かせた。


「ほう……聖女と、その眷属か……よくぞ、この虚無の深淵まで辿り着いた……」


偉そうだな、おい。


影が、瘴気の中から姿を現した。全部で四体。それぞれが異形の姿をしている。鋭い爪を持つもの、巨大な鎌を持つもの、全身が炎に包まれているもの、そして、どす黒いローブを纏ったもの。どれもこれも、見るからに強敵って雰囲気だ。


ローブを纏った奴が、杖らしきものを掲げて言った。


「我らは、偉大なる魔王様の命を受け、この虚無の深淵を守護する者……虚無魔将、暗炎公、裂地王、そしてこの私、深淵司祭! 我ら、四天王が貴様らの相手をしてやろう!」


四天王か。いかにもって感じのネーミングだな。ゲームとか漫画でよく聞くやつだ。まあ、この世界では本物なんだろうけど。


虚無魔将とかいう、筋骨隆々の奴が、巨大な拳を地面に叩きつけた。地響きがする。


「愚かな聖女よ! 我ら四天王が揃った今、貴様などに勝ち目はない! その聖なる力を、ここで置いていけ!」


暗炎公という、全身が黒い炎に包まれた奴が、あたしを睨みつけてきた。熱気が伝わってくるようだ。


裂地王という、巨大な鎌を持った奴が、鎌を地面に突き立てた。地面にヒビが入る。


深淵司祭というローブの奴が、杖をこちらに向けた。禍々しい魔力が集まってくるのが分かる。


四天王、か。なるほど。強いんだろうな。


でもさ。やっぱり小さいんだよね……


面倒くさいんだよな、いちいち相手するの。


あたしは聖獣の背中から降りると、四天王に向かってゆっくりと歩き出した。聖獣は、あたしの隣についてくる。


「さあ、覚悟しろ、聖女! 貴様の――」


四天王の一体が、何か言おうとした、その時だった。


あたしは考えるのをやめた。


両手を広げて四天王に向ける、体中の聖なる力を、一気に、放出するイメージで――


ハァァァァァァァァァ!!!!


全身から放たれた眩いばかりの金色の光が、津波のように四天王へと押し寄せた。


光の波は、四天王を、そしてその背後にあった建造物らしき物まで、まるごと飲み込んだ。


「な、なんだこの光は!?」


「ぐああああっ!」


悲鳴が上がった。魔物たちにとって、あたしの聖なる力は毒なんだろう。


光の波が通過した後には、何も残っていなかった。四天王も、建造物らしきものも、瘴気も、何もかもが、跡形もなく消え去っていた。まるで、最初から何も存在しなかったかのように。


虚無の深淵の中心部が、一瞬で、清められた。


あたしは、軽く息を吐いた。


「ふぅ。これでよし」


聖獣が、あたしの横で、感心したような、呆れたような、複雑な顔であたしを見上げている。まあ、こいつからしても、あっけなかったんだろうな。


四天王? なんか名乗ってたけど、まとめて瞬殺だったな。あっさりしすぎ? まあ、あたしの力は規格外だから仕方ない。


でも、これで終わりじゃないだろう。ホルティアの言ってた「主」は、まだ奥にいるはずだ。四天王が守っていたくらいだから、そいつが真の目的だろう。


このあたりが浄化されたことで、辺りの空気は少しだけ軽くなった気がする。でも、さらに奥からは、もっと深く、強い闇の気配が漂ってくる。


行くぞ、真の敵のところへ。

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