第9話 聖女様の仕事は早い! 秒殺からのサッパリ浄化!

妙な箱から解放された教皇様たちが、地面でぐったりしてるのを尻目に、あたしは黒い靄が立ち込める土地に足を踏み入れた。空気が重くて、肌にねっとりまとわりつく感じがする。地面の色もどす黒くて、生き物の気配がない。ここが今回の浄化すべき場所らしい。


足元で、神官長が震えながら言った。


「……聖女様、この地は、古の災厄の名残が深く根差しておりまして……」


ああ、なるほど。なんか、嫌な感じは伝わってくる。


さらに奥へ進もうとした、その時だった。


ドゴォン!


地面が割れて、巨大な何かが姿を現した。


それは、漆黒の泥が寄り集まってできたような、不定形の塊だった。ところどころに鈍く光る赤い眼がいくつもあり、体からはおぞましい瘴気が滝のように流れ出ている。圧倒的な悪意の塊が、目の前に立ちはだかった。


「グルルルル……来たか……『聖なる光』……我が眠りを……妨げるか……」


低い、地の底から響くような声が、直接頭の中に流れ込んできた。不快な感覚だ。


向こうから、ねっとりとした速度で近づいてくる。遅っ!


あーもう、めんどくさい!


あたしは考えるより先に動いていた。


右手の人差し指を、怪物の額(らしき場所)に──


ツン!


と、軽く突いた。


「え?」


一瞬、怪物の動きが止まった。


そして。


ズォォォォン!!!!!


ナメクジイモムシ怪物の体が、内側から弾け飛んだ。黒い靄が霧散し、どす黒い肉片が四散する。悲鳴を上げる間もなく、完全に粉砕。


────ッ!


爆音と衝撃波が遅れてやってきた。


コンテナの近くで休んでいた教皇様たちが、衝撃で吹っ飛ばされそうになっているのが見えた。


「ひゃああっ!」「ぬわーっ!」「またか!」「物理、再来!」


悲鳴と叫び声が響く。エルグリッドとアンダイドが、地面に伏せて頭を抱えている。神官長は、あたしの足元で完全に固まっている。


怪物がいた場所には、何も残っていなかった。


「ふぅ。これでよし!」


あたしは満足げに、指先についたかもしれない汚れを払った。


「さてと、次は浄化っと!」


怪物を倒しただけじゃ、この土地の瘴気は消えないだろう。浄化が本来の目的だ。


どうやるんだっけ? 祈りとか? でも、この広さじゃ無理だ。


前に、街の病気を治した時のことを思い出した。あれ、すごい範囲に効いたよな。あれ、浄化にも使えるんじゃない?


あたしは両手を広げて、地面に向かって──


「えいっ! きれーになーれー!」


聖なる力を込めて、回復や浄化のイメージで、両手を広げた。


すると。


──バフッッッ!!!


足元から、眩いばかりの金色の光の波紋が、凄まじい勢いで広がった。


波紋が通過した場所から、ドス黒い地面の色がみるみるうちに薄れ、代わりに瑞々しい緑色の草が生え始める。枯れ木には新しい葉が芽吹き、澱んでいた空気が澄んでいく。


瞬く間に、瘴気に覆われていた荒れ地は、まるで時間が巻き戻されたかのように、生命力あふれる美しい草原へと姿を変えた。


浄化、完了!


「おおおおおおおおお!!!」


遠巻きに見ていた随行員たちから、驚きと畏敬の混じった大歓声が上がった。


教皇様が震える声で叫んだ。


「まことか! 見る間に大地が蘇ったぞ! これこそ、聖女様の御力!!」


神官長は膝から崩れ落ちて、震える声で呟いた。


「ありえぬ……これほどの……これほどの聖なる力……」


エルグリッドは、興奮冷めやらぬ様子で大剣を地面に突き立てた。


「最強! そして万能! 我らの聖女様は全てを超越しておられる!」


アンダイドは、呆然と立ち尽くし、呟いた。


「魔力……? 理論……? そんなものは……無意味だったのか……」


まあ、みんな喜んでるしいいか。あたしとしては、仕事がサクッと終わってよかった。これでこの土地は大丈夫だろう。


「よし! 一つ片付いたね! 次、どこに行けばいいの?」


あたしは、新緑の絨毯の上で呆然としている随行員たちに声をかけた。


この調子なら、浄化の旅もあっという間かもしれない。


――ただ、浄化されたばかりの土地の遥か彼方、別の方向から、かすかに、だが確かに、より強く、禍々しい気配が蠢き始めているのを、この時、あたしはまだ気づいていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る