第4話 あたし、ちょっと手加減覚えようか?

数時間後。王都は朝からざわざわしていた。


原因はもちろん、でっかい聖女——つまりあたしが、城下町をぶらぶら歩いてるせい。すでに到着時のパニックは収まってて、道端から控えめに手を振ってくれる人もちらほらいる。子どもなんかは普通に「わー! おおきい!」って言ってくる。うん、素直でよろしい。


そんな中、さっきちょっと転んだ子が泣いてたので、軽い気持ちで言ってみた。


「……けが、治るといいねー。えい、回復まほー」


冗談半分で両手を合わせて、回復っぽいジェスチャーをした。


そしたら——


バフッッ!!!


空気が震え、街全体に金色の波紋が広がった。


瞬間、あたしの耳にざわざわと奇妙なざわめきが飛び込んできた。なんだろ?と思って見回すと……


「おばあちゃんの腰が……真っ直ぐに!?」


「俺の手が、生えてる……!? あれ、俺、昨日まで右腕なかったのに!?」


「なんだか、息がしやすい……! わたし、肺病が治ったのかも……!」


何これ。


やば。


あたし、なんかとんでもないことやっちゃったっぽい。


回復魔法って、こんな感じだったっけ!? ていうか範囲広すぎでしょ!? えっ、街まるごと!?


わけがわからないまま立ち尽くしてたら、数分後にはもう、歓声の波が押し寄せてきた。


「聖女さまー!」


「ありがたやー!」


「バンザーーイ!!」


そのうち足元に集まってきて踏み潰しそうだったので、慌てて城壁に座って人垣を避ける。もう、あぶないよ自分がたちが小さいと理解してほしいわ。


「いやほんとに、こんな大規模にするつもりじゃなかったんだって……」


でももう誰も聞いちゃいない。神殿の鐘が勝手に鳴りだして、即席で「聖女大感謝祭」みたいなノリになってる。パン屋のおばさんがパンを振る舞いはじめ、楽器隊が来て太鼓を叩き始め、あたしは何もしないまま一躍・超・英雄になっていた。


なんかもう、今さら止まらないな、これ。


あたしはひとつ、深呼吸してから言ってみた。


「……ねえ、みんな。ところでなんだけど」


ざわめきが一瞬、静まる。


「どこに泊まったらいいかな? 寝るとこないんだよねー」


……。


…………。


……しーん。


それまでの大歓声が、潮が引くように静まり返る。


笑顔だった人たちの口元がひきつり、みんな、視線をそらしはじめた。


あれ? なんで? どうした?


「いや、ほら。家とか宿とか、小さいから……」


「ベッドも無理だろうし……」


「いや、うちの屋根に手ついてたしな……」


「うちの蔵、服の裾が引っかかってちょっと壊れたし……いや、いや、感謝してますよ!? めちゃくちゃしてますけども!」


言葉にならない声があちこちから上がる。


うん。わかってた。けど、こうして面と向かって黙られると、結構くるな。


最終的に、王様が現れてこう言った。


「と、とりあえず……聖女様には塔に仮設の居室を用意しましょう!」


あたしは、そのとき確信した。


——この街、しばらくあたしのサイズに困り続けるんだなって。

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