最弱テイマー、フェンリルと喋ったら世界がひっくり返りました

ぐーうー

第0話 静かなる終わり、目覚めの始まり。


雨が降っていた。


五月のくすんだ空の下、制服の袖がじっとりと濡れて、斉藤玲央は歩道橋の階段をゆっくりと下りていた。


「今日は、コンビニ寄ってから帰るか……」


誰に言うでもなくつぶやいたその声も、雨音にすぐかき消される。


家には誰もいない。

母は中学の時に病気で、父はその数年後に事故で亡くなった。

今は市営住宅の一室に、一人暮らし。

学校、バイト、帰宅、寝る――繰り返しのような日々だったけれど、玲央はそれを不幸だとは思わなかった。


……ただ、空虚ではあった。


「動物と一緒に暮らせる仕事がしたかったな……。ペット可物件、高すぎるけど」


そんなことを考えていた、その瞬間。


 

キィィィィィィィィィィィィン!


 

耳をつんざくような金属音と、強烈な光。


「――え?」


見上げた先、交差点に突っ込んでくるトラックが一台。

ブレーキ音。悲鳴。動けない身体。


次の瞬間、世界が、真っ白になった。


 


「……おお、おお。ついに目覚めたか、小さき魂よ」


 

どこか遠くから、声が響いた。


真っ白な空間。身体の感覚はない。

ただ、意識だけがぽつりと浮かんでいるような感覚。


「これは……夢か……?」


「いや。これが現実だ。そして、お前は死んだ。……だが、望むならば、新たな世界で再び生を得ることができる」


「……は?」


あまりに唐突な展開に、玲央は呆然とした。


「その世界は、魔法と剣、そして“魔獣”と呼ばれる存在に満ちた世界だ。

だが、その中でお前に与えられるのは“最弱の職業”だ。どうだ、選ぶか? 選ばぬか?」


「最弱でも……動物と話せるような世界なら、いいかもな……」


玲央の口から、そんな言葉が自然とこぼれた。

それは、彼の奥深くにあった“かすかな夢”だったのかもしれない。


「ふ……よかろう。では授けよう。“魔獣を理解する者”としての運命を――”テイマー”という名の宿命を」


次の瞬間、玲央の意識は、眩い光の渦へと吸い込まれていった。


 

こうして一人の少年は、

“レオン=グレイヴ”として、魔獣と人が争う異世界へと生まれ落ちた。


 


――そして、世界の在り方を変えることになる、“魔獣の王”の物語が、静かに始まった。

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