第11話 キサリスいっとく?
「ちょっとシャー! ダメだよ、そんな失礼は!」
はぁ……――シャルの言葉に思わずため息をついてしまう。
シャルデラは相変わらずだった。疑うことを知らない。グランの顔をちゃんと見てみろ。本性を現して醜悪に歪んでるのに気づかないのか。
「シャル。こいつはさっきの二人組と仲間だよ」
「いま、知らないって言ったじゃない」
私が立ち上がってシャルデラの手を引こうとすると、グランが素早く席を立ち、戸口までの行く手を遮る。ああ、そう。実力行使に出る?
私は水魔法――もとい、
3年前、あの
だけど違う。この世界にはそんな魔法は存在しない。あれは
私は香辛料のひとつまみと共に、詠唱を完了する。
「ぶっ飛べ、グラン!」
シュゥゥゥゥ――火に水を掛けられたような音がして、私のキャントリップは消えていった。
(なんで!?)
詠唱を間違えたわけじゃない。詠唱を間違えればそもそも何も起こらない。ということは……
「ダメだよ、シャー! 魔法を人に向けちゃ」
シャルデラだった。シャルデラは私の
けれど
「なんだなんだ? 何の騒ぎだ」
「店の中で詠唱をしたのは誰だ!」
「お前らか、オレの店で騒いでるのは!」
かくして、私の初めての魔法の見せ場は失われ、店員に加え、オークのようなゴツイ体格の店主らしきオッサンまで引きずり出してしまったのだ。
「シャル…………」
「だ、だってシャーが、グランさんにキャントリップを使おうとするから」
困った顔をするシャル。別にシャルを困らせたかったわけじゃなくてだな……。
「なんだキャントリップか」
「キャントリップでも同じだ。オレの店で騒ぎを起こそうとしたんだ。ひと晩、牢屋で反省してこい。だれか衛士を呼んで――」
「待った! こっちにも言い分がある」
店主はギロリと私を睨む。あまりの
「言い分だと?」
「そう、言い分だ」
私は一歩も引かなかった。これまでの人生、もっと怖いのと対峙したことがある。たぶん……。
「聞かせて貰おうか、その言い分とやら」
「いいともさ。私たちのテーブルの上、私とシャルの席にあるマグの中の葡萄酒。あれにはキサリスが混ぜられてる」
キサリスってなんだ?――と店員の一人が言うと、店主が――
「キサリスってのはな、酒に混ぜると強烈な眠り薬になる薬草だ。この商売やるなら憶えとけ!」
「――嬢ちゃん、酒場でキサリスがご
そう言って店主はグランを睨む。
「僕が? まさか、僕が持ち込んだっていうのか? 調べてみてもいい。ありえない」
「もし、オレの店にそんなものを持ち込むようなら、詰所へ突き出す前にブッ殺してやる」
ヒッ――とグランが短く悲鳴を上げる。
「いや、キサリスは予め混ぜられて出された。だから、犯人は店員」
「シャー!?」
「冗談じゃねえ!」
「俺たちだっていうのか!」
「へえ、本当に入れてないって言うんだ?」
「当たり前だ!」
「入れるわけねえだろ」
「そもそもそんな薬知らねえ」
「知ってても入れるわけねえだろ」
私は店員を指さし、その指差した先をそれぞれに向けていった。向けられた店員は殴り掛からん勢いで怒り、否定していたが……。
「あいつだ。あいつが入れた」
店員のひとりを指さすと、店主の片眉がピクリと上がる。
「本当にその酒にキサリスが入ってるって言うのか? 嬢ちゃん」
店主が声のトーンを落とし、神妙な面持ちで聞いてくる。
(これは……この店主、意外と信用できるな)
「ああ」
「シャー、本当なの!?」
「本当だよ。だからシャル、次からはもっと私を信用して欲しい」
(面倒くさいのは嫌いだ)
私はテーブルの上のマグを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます