第43話
「うおおおおおっしゃああああああっ!! 肉ォォォォォ!! 肉ッ!!」
俺は全力疾走で街の裏通りを駆け抜けながら、全身から沸き立つ勝利のエネルギーを叫びに変えていた。ステーキ券十枚――! この世界の通貨より価値ある筋肉紙幣を得た俺は、今、無敵ッ!!
「カイ様ぁぁぁっ!? なにしてるんですか!? もう任務終わってますぅっ!!」
「肉の在り処に向かって突き進んでるだけだ!!」
「落ち着いてくださいですぅっ! それ、警備員さんに追われてる構図ですぅぅぅっ!」
まあたしかに、道端の自販機が俺の通過と同時に揺れて悲鳴上げてるが、通報するほどじゃねぇだろ!? 筋肉エネルギーに巻き込まれただけだし!
「次の任務報酬、期待しとけよぉっ! あれくらい余裕だ!」
「いや、今から肉に変えに行く報酬の話してる時点で色々おかしいですぅっ!!」
ミルフィがブンブン回ってる横で、ユキが地面に座り込んでた。ちょっと疲れてるっぽいな。
「……やっぱり、すごいですよね。カイさんって」
「そりゃあな! 異世界で山崩したり火山止めたりしてるからな!」
「火山!? 止める!? どうやってですかぁっ!?」
「拳で!!」
「出たぁぁぁっ!? 筋肉物理ぃぃぃぃっ!!」
俺のテンションが限界突破しかけたそのとき、通信端末が鳴った。
ピピッ!
《──緊急通報。発信元:港湾第七ドック。異能反応、レベルB以上。怪異存在、接触確認。支援要請──》
「んん? 今度は港かッ!」
「ま、またっ!? 休む間もなく!?」
「筋肉に休日はないッ!! 働く筋肉に感謝しろって誰かが言ってた!」
「そんな名言ありませんですぅぅぅ!!」
でも確かに、港湾ドックってのは重要だ。物流拠点でもあるし、たまに海系アベレーターが湧くって話も聞いてる。
「ってことは、水辺バトルか……!」
「うわっ、カイさんの目がギラついてきた……!」
「水辺のバトルといえば、異世界の水龍と裸で相撲取ったの思い出すな!」
「その異世界経験、無理ですぅ!! 文化的に無理ですぅ!!」
港湾第七ドックは、街の南端、工業地区を抜けた先だ。トレーラーや荷下ろし用の巨大クレーンが並んでて、潮の香りと油のにおいが混ざる、男の浪漫が詰まった場所。
でも今回は、ロマンじゃなくてバトルの気配が漂ってた。
「確かにいるな……この気配ッ! 風に混じった異能臭……戦場のかほりッ!!」
「そんな詩的な表現で現実逃避しないでくださいっ!」
「現実を拳で上書きするために、俺はここに来たんだッ!!」
ユキとミルフィが着地するのと同時に、俺は湾岸エリアに飛び込む。
そして見えた――
「うわっ!? なにあれ!? でっかいクレーンの骨組みに絡みついてる……触手!? いや、網!? ワカメ!? ワカメ系!?!?」
「正体不明ですぅぅぅ!! でも、アベレーター反応は確実ですぅぅぅっ!!」
クレーンの支柱に絡みついた異形の黒い塊、それがビリビリと異能波を放ちながら蠢いていた。
そして、その中から――ニョロォ……と伸びてきた!
「き、来たあああああっ!! 超ワカメの洗礼ぃぃぃっ!!」
「違いますぅぅぅぅっ! それ《オイル=アベレーター》ですぅ! 物質浸食型の変異種ですぅぅぅっ!!」
「ってことは……油!! 海のオイル怪異かッ!!」
「合ってるけど解釈が体育会系すぎるぅぅぅっ!!」
ユキがすぐに氷の槍を生成し、投げつけた!
シュパッ!!
でも、命中と同時に槍がズルゥっと溶けて消えた。
「無理ぃぃぃっ!? 浸食、早すぎっ!! 物理も魔法も吸われますっ!!」
「だったら――答えはこれしかねぇ!!」
俺の拳が燃え上がる!
「筋肉スピリット・ドライヴ・ブーストッ!!」
バシュッ!
跳躍一閃、俺はクレーンの骨組みへ直接突撃ッ!!
「異能を吸うなら吸ってみろ! 俺の筋肉魔力はダイナマイトだッ!!」
「おおおおっ!? 真正面からぶち抜く気ですかぁぁぁぁっ!!?」
油の本体がうねって、俺に向かって波のように襲いかかってくる!
でも――遅いッ!!
「筋肉スパイラル・パンチィィィィィィィッ!!」
ズガァァァァァァン!!
拳が風を割り、油の塊を真っ二つにかき分けた!
「よっしゃあああっ! 特濃オイル、分解成功ッ!!」
「うわあああ!? クレーンの構造まで衝撃でズレてますぅぅぅっ!!」
「ドローン要請、急いでくださいぃぃっ!!」
「待て、ミルフィッ! まだ終わっちゃいねぇ!!」
再び現れたオイルアベレーターの本体、港の水面からゆらりと浮かび上がってきた。
触手状のそれは、ドロリと海水を引きずりながら形を変えていく。
「変形……本体、巨大船モード!? いや違う、漁船を乗っ取ってるのか!?」
「カイ様っ! あれ、完全融合型ですぅっ! 船そのものを媒体にしてますぅぅぅっ!!」
「つまり……船ごとぶん殴ればいいんだなッ!!」
「違いますぅぅぅぅっ!! それは国家規模で怒られますぅぅぅぅぅ!!」
ユキの叫びが港にこだまするが、俺の筋肉は――もう後戻りできねぇ!
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