第21話

「――面白いじゃねぇか!」


拳と脚がぶつかり合った一瞬の衝撃で、生徒会室の空気が一変した。


アクアの目が獣みたいにギラついてる。よし、こいつは“拳で語る”が通じるタイプだ!


「まさか受け止められるとは……少し見直したわ、カイリ」


「そっちこそ、軽やかなくせに芯のあるキックだったぜ! だが、俺の筋肉はまだ加速する!」


「加速って何……?」


ユキが会議室の端で、ミルフィと一緒に絶句していた。


「カイ様ぁ、初対面の相手に突撃するのは外交的失敗ですぅ!」


「これが俺流の“第一印象”だ!」


「最悪ですぅ!!」


アクアがくるっとステップを踏んで、再び間合いを取る。


「じゃ、いっちょ続きやろっか?」


「おう、望むところだ!」


「やるなと言ってるだろうが!」


ユキの叫びがもはや半ば諦めのトーンになっていたが、二人のテンションは下がらない。


――と、その瞬間。


「やめろ。ここは戦場ではない」


ビシィッという一言が空間を凍らせた。


生徒会長・御剣イザヨイが立ち上がった。


「アクア、そこまでにしておけ」


「えー、もうちょっとやりたかったのにー」


アクアが名残惜しそうに脚を下ろす。俺ももう一発撃ちたかった。相性が良い相手と拳を交わせるチャンスなんてそうそうないのに!


「お前もだ、カイリ」


イザヨイが俺を射抜くような眼差しで見つめる。


「一つ確認させてもらおう。君は――この学園に何を求めている?」


「おう、簡単なことだ!」


俺は迷いなく答えた。


「筋肉と! 友情と! あと、敵が出てきたらぶん殴る!」


「アウトですぅぅぅぅぅ!!」


ミルフィがすっ飛んできて俺の口を塞いだ。


「完全にアウトですぅ! 正体バレますぅぅ!」


「俺は嘘をつかない主義なんだよ!」


「いいから少しは建前ってものを覚えてください!」


イザヨイはその様子を冷めた目で見ていたが、ふっと小さく笑った。


「面白い。……だが、素直すぎるな。危なっかしい」


「だからこそ補佐役がついてるんです、はいはい、僕ですね」


ユキが片手を上げて名乗る。


「なるほど。君たち二人――いや、三人だな。今後、生徒会の監視下で活動してもらう」


「監視!?」


「当たり前だ。学園に突如現れた転入生、異様な戦闘技術、そして謎の所属情報――君たちがどこから来た何者か、我々が掴んでいない以上、放置するわけにはいかない」


「おお、警戒されてる! ワクワクすんな!」


「まったく、反応が逆だろ!」


ユキが頭を抱える中、イザヨイは淡々と続けた。


「これから毎日、放課後に“生徒会査問会”へ参加してもらう」


「査問!? って何するんだ?」


「質問に答え、時には体力テスト。必要とあれば異能検査も行う」


「えっ、筋肉検査は?」


「ない」


「非ッ常ッに遺憾だッ!!」


「うるさい黙れ」


イザヨイの一喝が、雷撃よりも効いた。


「とはいえ、君の力は確かだった。アクアが本気を出すのは珍しい」


「そうか! つまり認めてくれたんだな!」


「認めたのは一部だけだ。問題行動は依然多い」


「ふっ、筋肉と一緒だな。多少の問題はついて回る!」


「フォローになってませんぅ……」


ミルフィが真顔で俺の胸を小突いた。


とにかく、初日の潜入任務はここで一旦の節目を迎えた。


「……カイリ、ユウ。任務という以上、無駄に騒ぐな」


「騒いでません」


「騒いでないですぅぅって言えるわけないですぅ!」


「ふたりとも騒ぎじゃねぇ、これはただのエンタメだ!」


「エンタメじゃない!!」


ユキとミルフィのツッコミがハモった。


よし、良いチームになってきた!


これからの学園潜入任務――もっと面白くなりそうだぜ!

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