魔導具屋の裏の顔〜コミュ力0の俺、冒険者を辞めたので、ダンジョンの管理人をしているんだが、文句ある?
水定ゆう
プロローグ
第1話 冒険者、終わりました
昔から、冒険者になりたかった。
様々なダンジョンに行って、魔物を狩って、財宝を手に入れて、冒険譚を作りたかった。
そんな夢を抱いて、俺は小さい頃から技もスキルも磨いて来た。
そのおかげで、俺は十五歳で冒険者になった。
最初は大変だったけど、それでも楽しかった。
何よりも、生きているって感じがして、日に日に強くなっている実感があった。
俺の性格のせいか、仲間はできなかった。
少し話す程度で、ダンジョンでパーティーを組んだことは一度も無い。
即席のパーティーに混ざることがある、それが関の山で、実質俺は一人で強くなって来た。
それだけ実力があった。冒険者ギルドもからも認められた。
それでも高みは本当に高すぎて、俺には手が届かなかった。
けれど諦める気はなかった。俺はもっと上を目指すために、この国でも最難関を誇る巨大なダンジョン、メメントモリにやって来たんだ。
「はぁはぁはぁはぁ……」
俺は息を荒くしていた。
肩を上下に上げ下げすると、立ち眩んでしまった。
顔を拭いたいけれど、そんな暇は何処にもない。
俺は圧倒的に追い詰められていて、もはや死の瀬戸際が近い。
「油断したつもりはないんだが……」
メメントモリは超巨大なダンジョンだ。
ここ最近発見されたダンジョンで、謎に国やギルドが管理していない。
あくまでも一人の“魔女”が管理をしている。もはや私有のダンジョンで、それを一般公開されていた。
俺がこのダンジョンに来た理由。そんなの決まっている。
未だかつて、このダンジョンを踏破したことがあるのは、管理者である魔女ただ一人。
冒険譚を綴るには充分過ぎる場所で、俺は強くなるためにここに来た。
けれど見通しが甘かったかもしれない。
ダンジョンに潜って早一ヶ月近い。
不思議なダンジョンで、俺は多分下層に居るのだろうが、どれくらいの位置なのかサッパリ分からなかった。
「それでこんな魔物に出くわすなんてな。ツイてない」
昔から運は良い方でも悪い方でも無かった。
けれどメメントモリにやって来ると、あまりの環境に絶句した。
次第に迷ってしまうと、ただ下層に下りて来た。
そこで出遭ってしまったのが、今目の前に居る道の魔物だ。
「ギュギャァ?」
現れた魔物は、今まで見たことも聞いたこともない。
それもその筈、不思議な見た目をしていた。
まず二足歩行で、少し猫背の体系をしている。
肌の色は迷彩柄の深緑色で、やけに腕が発達していた。
特に爪が長く、かなり鋭い。引っ掛かれれば、簡単に肉が避ける。
おまけに顔が何よりも不気味で気持ち悪い。
白い歯が何本も生え揃っていて、噛み付かれてもお終い。
目が見えているのか、見えていないのか、それさえ分からない謎の魔物に、俺は出遭ってしまい、かなり危機的な状況に追い込まれていた。
「舐められてるな。全く……なっ!」
完全に俺は舐められていた。
身長がほとんど同じくらいなせいか、冒険者に小バカにされているよう。
別に気にはしないけれど、ここまで負けたくはないと、俺は前に出た。
「狩らせて貰うぞ!」
俺は手にした不思議な武器を振りかざす。
ジャマダハルと言って、剣の刃に対し、垂直な持ち手が付いている。
何とも変わった武器だとは思うけれど、俺はソレを二本手にし、手数で攻め立てる。
それが昔からの俺の
「はっ、はっ、それっ!」
俺は素早く距離を詰めた。
ジャマダハルの三連コンボを叩き込む。
腹に叩き付け、腕を落とし、首を切り落とす。
いつもの流れを守っては見たが、この魔物には通用しない。
「くっ、ダメか」
「ギュルンギャァ!」
魔物は俺の攻撃なんてものともしなかった。おまけにこの距離で見ると、かなりグロテスクだ。
まるでトカゲの様で、俺はトカゲ型魔物と呼称することにした。
トカゲ型魔物は俺の攻撃を捌き切ると、まるで楽しむような愉悦混じりの笑いを浮かべた。
「舐められてるな」
完全に舐められていた。楽しまれていた。
こっちは息を切らしながら、本気で戦っているのに。
少しだけムカ付くと、俺は奥の手を出す。
「だったら、スキルを使うだけだ」
俺はここまでスキルを温存してきた。
別に温存する必要は無いけれど、スキルを使うと隙になる。
おまけに体力や精神力を酷使するから、あまり使いたくないのが本音だ。
けれど、今は違う。使わないとマズい。
「纏え、【
俺はスキルを発動した。
すると影が蠢き出し、何故か三次元に現れる。
そのまま俺の体や手にしたジャマダハルに纏わり付く。
「ギュルギャァ!?」
「は、速い!?」
何か察したらしく、魔物は即座に攻撃を仕掛けた。
鋭い爪を突き出すと、俺の胸を貫こうとする。
けれど甘い。俺は見えている。
伊達に冒険者をやって来たわけじゃない。
これまでの三年間。俺は決して無駄にはせず、一人で戦って来たやり方を見せる。
「クッ。この程度で……負けるか」
「ギュギャァ?」
「あっ……」
声が出なくなった。俺は膝から崩れ落ちる。
ふと胸を見てみるが、攻撃はシッカリと受け止めていた。
けれど致命傷は胸ではなく、俺の”首筋”だった。
「……(パタリ!)」
俺の体は動かなくなった。
大量の血液が地面に垂れ流される。
赤い絨毯になると、如何足搔いても立ち上がれそうにない。
もはや頸動脈を潰され、心臓も脳も活動を停止する。
(なにが起きたんだ。俺は……死ぬのか?)
それでも意識だけが一人で語った。
何故か素直になると、状況を理解する。
もちろん受け入れたくはない。けれどそれが全てになる。
俺はもうじき死ぬ。魔物に殺された。冒険者らしい死に様だ。
(ああ、そうか。ここで俺は……クソッ、クソックソックソッ……俺はまだ、死にたくない……こんな所で、死ねない……んだ)
俺は自分が情けなくて、悔しくて、忌み嫌った。
呪いのように項垂れると、心が粉々になりそうだ。
それでも何もすることはできない。意識だけが取り残されると、俺の体はピクリともせず、完全に即死だった。
俺の冒険者生活は、こうして幕を閉じた。
えらく呆気ない幕引きに、誰の記憶にも残らない。
これが冒険者の運命。常に生と死は隣り合わせで、俺はその瀬戸際で選択肢を間違えた。
一人で冒険者を続けてきた、コミュ力の低い憐れな最期だった。
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本作品は、小説家になろう様・アルファポリス様にて投稿しております。
「生贄弟子」と世界観を共有しています。
グダる話ですが、こんな無愛想だけど良い人ってキャラを書いてみたくて、おどろおどろしい冒険者の現実を描きました。
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