第13話 姫ヒロインはやっと一矢を報いる

「退屈な部屋だな」

「退屈な部屋!?」


 本当に姫川紗沙の部屋に入ることになった。

 姫川の部屋は、勉強机にベッド、大きな姿見、ドレッサーというのか鏡がついた机みたいなものが並んでいた。


 全体にピンクや白が多い。

 どこも整理整頓されていて、まるでモデルハウスのようだ。


「だ、だって、友達が急に来るかもしれないし。常に油断できないんだよ、我が家といえども」

「いえどもって。自分の部屋くらい好きに散らかしてもいいんじゃないか?」


「ダメだよ……姫だもん。脱いだ服とか飲み終わったペットボトルとか転がってたら、友達の夢を壊しちゃう」

「友達なら別にいいんじゃないか。カレシなら――ああ、いるわけないんだったか」


「いるわけない、とまでは言ってないけど」

 ジトッ、とした目で睨まれる。


「友達もみんな、あたしを姫だと思ってるんだよ。汚い部屋は解釈違いだから」

「ふーん、そういうもんか」

「そういうもんだよ――って、違う!」

「な、なんだ?」


「衛司くん、全然ドキドキしてない! 同い年の女子の部屋だよ? しかも学校一の美少女の部屋なのに、なんで!?」

「なんで……と言われても、ただの部屋だし」


「良い匂いがするー、とか下着とか落ちてないかなー、とか男子ならそういう反応をするべきじゃん!」

「確かになんか甘ったるい匂いするな。下着か……はいてる状態のパンツをもう見たし、ただの布きれが落ちててもな」

「こ、このあたしの下着がただの布切れ……!?」


 姫川はその場に崩れ落ちる。

 おお、わかりやすくショックを受けてるな。


「……衛司くん」

「ん?」

「あたし、実はおっぱい大きいんだ」

「ああ、何度か押し当てられてるからな。わかってる」

「グラビアアイドルできるくらいデカいんだよ? そんなあたしのブラを見ても――ただの布と言えるのか!」


 姫川は、部屋の隅に行ってクローゼットのドアを開けると、そこから――


「ほ、ほら! これがあたしのブラジャーだっ!」

「…………」

 白いブラジャーは、ぱっと見でもサイズがデカいのがわかる。


「おっけ、わかった。今のはジャブ。こんなもんで衛司くんがドキリンしないのはわかってる」

「ドキリン?」


「女子を十六年やってて、小六からブラ着けてるんだよ、こちとら!」

「だんだん言葉遣いが怪しくなってるぞ、姫川」


 その姫川は勢いよくイエローのセーターを脱ぎ、ブラウスの中に手を突っ込んでなにやらゴソゴソしていたかと思うと。

 ずるっ、とピンクのブラジャーがブラウスから引きずり出されてきた。


「い、今の今まで着けてたほかほかの生ブラジャーだよ!」

「ブラウス着たままブラジャーって脱げるのか。無駄に器用だな……」

「あ、ちょっと動揺してる」

「姫川の技術にだけどな……」


 というかブラウスのすぐ下にブラジャーなのか。

 他になにかインナーを着てるもんかと思ったが……まあ、姫川だしな。

 最近まであんなミニスカートの下に生パンツだった、正気を疑うマネをずっと続けてたんだしな。


「え、ダメ? これでもドッキンドッキンしない? だったらもう、ブラウスを濡らして透けさせて――」


「あのな、姫川」

「ハイ?」


「おいたわしや、姫君」

「おいたわしい!? なに、突然!?」


「そこまでしなくていい。わかった、俺の負け。俺は顔に出にくいんだ。これでもそこそこドキドキしてる。せめて、ブラジャーは元に戻してくれ」

「え、え、そうなの?」

「当たり前だろ。人をなんだと思ってるんだ?」


 これでも高一の健全な男子。

 女子の部屋で二人きり、しかも目の前でブラジャーを外されて平常心でいられるほど人間ができていない。


「そ、それなら……まあいいか。あたしの勝ちってことで」

「そうそう、俺の負けだ」


 別に勝ち負けなんてどうでもいいから、これ以上の暴走は止めたい。

 まあまあ面白かったしな。

 普通に生きてたら、目の前で女子がみずからブラジャーを見せつけてくるシーンなんて、一生巡り会えなかっただろう。


「あはは、やっと衛司くんに一矢報いてやったー。よかった、よかった」

「…………」


 姫川はなにを思ったか、ブラウスのボタンを全部外して脱ぎ始めた。


「おい……なにしてるんだ?」

「え、だからブラを着け直そうって――わっ、しまった! ナチュラルに服脱ごうとしてた! 自分の部屋だからいつもどおりに!」

「俺、わかった。姫川、おまえアホなんだな?」


 ブラウスをほとんど脱いでいて、ノーブラの胸もほぼ見えてしまっている。

 かなり際どい部分も、危うく――いや、少しだけ見えた気もする。


「俺じゃなかったら止めてなかったぞ」

「あ、ありが……とう?」

 実際、男子の99パーセントは姫川を止めずに最後まで見ていただろう。


「もう塩対応とかムチとかどうでもいいから、おまえを守ったほうがいい気がしてきた」

「守ってくれるの!?」


 姫川は、ずいっと俺に近づいてくる。

 まだブラウスの前が半分以上開いてて、ブラジャーもまだ着けてない。

 胸も谷間どころか半分見えてるんだが。


「これで安心して姫ができる……! 衛司くん、一生よろしく!」

「…………」


 俺、一生守るとは言ってないような?

 ただ、姫川紗沙が目を離すと危ない――俺が見てないと怖いのは間違いないな。

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