第6話
翌日。リアとヴィルトは冒険者組合に顔を出していた。
資金は稼げたので金稼ぎは終わった。その為要件は資金稼ぎではない。
これから旅発つ次の街……この国──ゼーティ王国の王都への護衛依頼が無いか見に来たのだ。
無論護衛依頼など早々あるモノではない。冒険者などという身分が不確かな者に頼むよりは自ら確認した身分確かで実力の保証もある者に護衛させた方が良い。
どうせ王都に行くなら護衛依頼でも受けて旅費の足しにしよう、程度の試みである為会っても無くても構わない。
その為あれば儲けもの、程度の思いで二人は組合に入って来た。
「だからよ、それには答えられないんだわ。うちも何でも知ってる訳じゃねぇ」
入って聞こえたのは苛ついている受付の男の声だ。
はてなんだろうか、と二人が思いながら受付に進むと其処には受付の男と話している男が居た。
鋼鉄の鎧を着た人間だ。鎧の胸には羽を模したモチーフが描かれている。
この国に属する騎士団の証である。
「お、丁度いいとこに来たな。この騎士様があんたらに用があるってよ」
受付の男はリアとヴィルトを見るなりそう言い放つ。
騎士は振り返り、ヴィルトとリアを見つめる。
「なんだ?」
妙な眼をする騎士にヴィルトは怪訝な眼をする。
「貴女達が恐竜を倒したという冒険者ですね。私は都市長に仕える騎士アノックです。二人を騎士団に勧誘すべく来ました」
その言葉にリアは思ったより早かったな、と内心舌打ちする。
騎士団への勧誘──冒険者が騎士団に誘われることは実のところそう珍しくない。
一定以上の実力さえあるのならば勧誘されることはある。だが、その実力というのが問題で冒険者なんてやっている者はだいたいが弱者だ。
そもそも最初から強いのなら普通に騎士団の入団試験等を受け最初から騎士をしている。そういった実力が無い物が冒険者をやるのだ。
その勧誘に、リアはどうするか悩む。
騎士への誘いを問題なく断る言葉を考えようとし──
「断る。騎士に成る余裕は無い」
ばっさりと、ヴィルトが断ってしまった。
思わずヴィルトの顔を二度見し、やっべという顔をリアはする。
「騎士への誘いを断るというのか?」
あからさまに、騎士の機嫌が悪くなる。
「我らには目的がある。その為には騎士という一つの街で暮らす職業には成れん。冒険者として世界各地を巡るのだ」
ふふん、と何処か誇らしげにヴィルトは胸を張る。
「──そういう事です。騎士様。私たちは騎士に成る事は出来ません……丁寧にお断りさせていただきます」
ヴィルトの言葉に諦め。リアもまた断りの言葉を口にする。
「……ふん。わかった。冒険者などという浮浪者をしたのなら好きにするが良い」
騎士は身をひるがえし、冒険者組合を後にした。
「……やっちゃった」
はぁ~、とリアは大きくため息をつく。
「どうした?」
心配そうにヴィルトが尋ねるが、リアはそれに睨みで返す。
だが直ぐに相手は魔王という事を思い出し、深いため息を零す。
「何でもないわ、そう、何でもないの……」
取り合えず依頼を探そう、と二人は依頼を探す。
「うーん。無いわね」
「無いのか……」
「仕方ない。今日は準備に回しましょ」
「わかった」
そうして二人が冒険者組合の出口に足を向けた瞬間、組合の扉が大きく開けられた。
ドアが壊れてしまうのではないかという程の勢いで開けられ、組合の中に居た者全員が驚く。
「衛兵か?」
入って来たのは決まった武装をした魔族だ。
こめかみから角が生え、背中から蝙蝠の翼が生えたまごう事無き人外、魔族である。
「緊急の依頼を申し込みたい!」
息を上げながら、衛兵は受付の男に詰め寄る。
「おう。わかったから落ち着け。組合は逃げやしねぇ」
受付の男は息を上がらせる衛兵に少し驚きながら言葉をかける。
「──この街の危機だ。偽竜の群れがこの街に向かっているらしい!」
大きな声で、衛兵の男はそう言い放った。
その言葉に組合に居た人間全員が驚愕し、中には立ち上がって驚きを表す者もいる。
「偽竜?」
一人、偽竜という概念を知らないヴィルトだけが間抜けな言葉を漏らす。
「偽竜って言うのは、変異で竜に近い姿になった魔物の事よ。見た目が竜に近いだけでなく、その戦闘力も高い。けどそれの群れなんて……」
偽竜の戦闘力は高い。村程度なら滅ぼす事が出来るし、下手な街でも半壊させてしまえる。
単独でそれだけの破壊を成す事が出来る怪物が、群れを成して来ているというのは絶望の知らせに近い。
「その為。冒険者組合に緊急の依頼をしたい。受理して貰えるな?」
「受理はするが、誰も受けなくても知らねぇぞ」
冒険者の依頼は誰が受けてもいいことになっている。それは誰が受けなくてもいい、という事にもなる。
その為依頼の内容によっては誰も受けてくれない、というのはよくある事だ。
「受けざる負えんだろう。既に偽竜はこの街の近くまで来ている──逃げようにも逃げられん距離だ」
その言葉に逃げようとしていた冒険者達の顔色が悪くなる。
偽竜とは竜の名の通り飛行能力を持つ。それを相手に逃げ出すのは至難の業だ。
全員バラバラに逃げれば何人かは生き残れるかもしれない、程度の相手であり戦うの等自殺行為だ。
「どうする?」
ヴィルトは隣のリアに話しかける。
ヴィルトにとってはその偽竜とやらの実力もたかが知れている相手だ。
如何に強いという話だろうとそれは人の世界での話。魔王には遠く及ばない。
真に魔王に迫る力があるのならば既に街は壊滅していてしかるべきであり、そうなっていない以上偽竜の戦力は魔王以下が確定している。
いや、そもそもとして偽竜も魔物の一種ならば魔王の権能の前に平伏し、支配下に入る。戦うという行為が成立しない。
そして逃げ出そうとするのはもっと簡単だ。長距離空間移動術であるゲートを開けばいい。開く先は何処か遠くで構わない。
リアは考える。この依頼を受けるか否か。
受けなかったとしても問題ない。魔王の力さえあれば何があってもどうとでもなる。
問題は受けた場合だ。受ければ魔王の力で偽竜など容易く屠れるだろう。だがそうなると目立ってしまう。
ただ目立つだけならば別に良いが、ヴィルトは魔王だ。それが世間にバレればただでは済まない。
魔王を討て、という話に繋がるかもしれない。そうなると自分自身にも被害が及ぶ。
ただ神話が真実であった場合滅ぶのはこの国になるだろうが。
「……貴女はどうしたい?」
困ったリアはヴィルトに直接訪ねる事にした。
「そうだな……」
ヴィルトはじっくりと、衛兵の魔族を見つめていた。
そして何を思ったのか、ヴィルトは衛兵に近づく。
「おい」
「な、なんでしょう」
ぐいっと詰め寄られた衛兵は面だけは良い美少女を前に臆する。
「お前、どうしたい?」
「はい?」
「偽竜とやらをどうして欲しいと思っているんだ?」
「それは当然、街を守る衛兵として倒して欲しいと思っています。自分では力不足なので……」
魔族の戦闘力は高い。
強力な魔力を有し魔法を行使し、翼があるモノは空さえ自在に飛ぶ事が出来る。
何も訓練していない人間の成人男性と同じく訓練していない成人の魔族を戦わせれば必ず魔族が勝つ。
それぐらい種族として戦闘力が高いのだ。
だがそれでも、偽竜には届かない。
いや、一体ぐらいならば相手に出来るだろう。武装や訓練次第で勝てもする。だが群れとなると話は別だ。
勝てないと断言していい壁がそこにはある。
「そうか。ならば我は魔王としてお前の願いを聞いてやろう──偽竜など全て我が消し飛ばしてくれる」
「ま、王?」
ヴィルトが発した魔王と言う言葉に衛兵はきょとんと目を丸くする。
その言葉にリアは言ってしまったかこの野郎と顔を覆う。
ここに、魔王と偽竜の戦いが始まる。
■
ヴィルトとリア。そして街の冒険者達はルテンラの街の門の前に集まっていた。
普段は解放されている門は閉じられ、少しばかりの防壁として使えるようにしている。無論空を飛ぶ相手に地上の防壁を作っても意味は無いが。
この場には街の戦力が揃っている。
衛兵たち二百名。騎士百名。冒険者三百名の数だけならばこれから来る偽竜の群れを超えている。
斥候の報告では偽竜の数は百余り。戦力差は馬鹿らしい程に開いている。
中には魔族や獣人、
その先陣に、ヴィルトとリアは立っていた。
「ちょっと以外ね」
不意に。リアが口を開いた。
「何がだ?」
「貴女が偽竜を倒すと言ったことがよ。正直無視して王都に行くものだと思ってたから」
魔王とは邪知暴虐の化身である。配下の言う事など聞くわけがなく。寧ろ自身が配下に命令を下す立場にある。
「……何故勇者に負けたかずっと考えている。何故配下が裏切ったのかを考え続けている」
本来魔族も魔物も魔王の支配下にある。それから逃れる術は無い──はずだった。
だが、勇者の仲間として魔王に立ち向かった吸血鬼が居る。それが不思議でならなかった。
何をもって、魔王に反逆する道を選んだのか。何故支配に抗う事が出来たのか。
其処には。魔王では理解できない人の思いがあったのではないか──と。
「今更になって。知りたくなった。ただそれだけだ」
ヴィルトはそう言うと服を脱ぎ始める。
唐突の奇行にリアは驚き眼を点にする。
「ちょっと?!」
「流石に変身しないと面倒だからな。変身すると服が破れるから持っててくれ」
ヴィルトはリアの制止の声を無視して服を脱ぎ、ブラジャーに手をかける。
既に着け方も外し方も身に付いている。ヴィルトの胸が露わになる。
その行為に遠巻きに見ていた冒険者や騎士達がギョッとする。傍から見れば突如として服を脱ぎ始める痴女である。
靴を脱ぎ、靴下を外し、ズボンを脱いでパンツも脱ぐ。全裸の痴女がここに現れた。
「さて、やるか」
ずどん、と振動がなる。
ヴィルトの腕が一瞬で本来の姿分伸び、続いて足が蜥蜴のものに変わり身体全体が肥大化する。
全長三十メートルのルテンラの街の城壁と同等以上はある巨体。
頭部は猪の骸骨。眼孔は赤く光っている。
動体は人の物。だが腕は熊と人を融合させたような歪な形。蜥蜴の足を持ち、蜥蜴と狐の尻尾を混ぜた甲殻的な尻尾が三つ生えている。
背中──腰のあたりからは被膜の付いた腕が一対生え、肩を掴むことで翼を形成している。
魔王ヴィルト・シュヴァインの真の姿が現れた。
魔王を前に、人々は恐怖する。
突如として現れた異形の魔王を前に、衛兵や冒険者達が出来るのは腰を抜かす事だけだ。
「さて、やるか」
ヴィルトはそう呟くと翼の腕をはためかせ、空へと飛びあがる。
それだけで地上に風が吹き荒れ、立っていられる者はいなくなる。元から腰を抜かしていたのであまり関係は無いが。
ルテンラの街の城壁よりも高く飛び、空中に滞空する。
「居たな」
魔王の目に映るのは今から街を襲わんとする──あるいは通りすがりの偽竜達だ。
蜥蜴の体に腕が被膜の付いた翼に変わっているもの。蛇の胴体に翼の生えた個体。ザ・ドラゴンとでも言うべき巨大な蜥蜴に蝙蝠の翼が付いた個体など、多種多様だ。
その数は百二体。街一つ余裕で滅ぼして余りある戦力である。
偽竜は凶暴性が高い。それが人や街に近づけば襲われるのは日を見るよりも明らかだ。
ヴィルトと偽竜達の距離は数字にして一キロ程。ヴィルトの視力をもってすれば問題なく視認出来る。
「先ずは挨拶と行こうか」
ヴィルトは口を大きく開け、魔力を溜める。
暗い魔力が集まり、球体状となる。
そして解放。黒い閃光という矛盾したそれが偽竜の群れに向かって放たれた。
極太の閃光が偽竜達およそ二十五匹を巻き込み消し飛ばす。
意識外からの攻撃に偽竜達は混乱する。
すかさずヴィルトは飛翔。翼を動かし偽竜達の眼前に移動する。ヴィルトの飛行速度は最大時速マッハ二十五。初速からしてマッハ一を超えている。一キロ程度一秒も掛からず踏破出来る。
ヴィルトは目の前の偽竜を掴み、握り潰す。そして握り潰したそれを適当な偽竜に向けて放り投げる。
ヴィルトの腕力で投げられたそれは凶器となり当たった偽竜は爆散した。
「オオオ!」
ヴィルトは魔法を行使する。かつて勇者たちの前でも行使した武具製造の魔法だ。
漆黒の闇に覆われた大小様々な武器が生み出される。
それらはまるで自意識があるかのように偽竜達に襲い掛かる。
剣が。槍が。斧が。偽竜達を斬り裂いて行く。
ヴィルトは虚空に向けて手を突き出し、魔力を集中させる。其処に武器を生成する。
それは巨大な戦斧だ。両刃の武器であり、ヴィルトの身長と同等以上の柄を持つ、巨大な武器。
それをヴィルトは振り回す。
一振りで二匹の偽竜が両断され、二振りで四匹の偽竜が切断される。
正しく暴力の化身。構えも使い方もなっていない膂力に任せた武器の振るいは偽竜達を両断していく。
そして偽竜達は魔王を前に逃亡を選択する。
身を翻し、その翼を持ってして逃げ出そうとする。
「逃げるな」
それは只の声だ。魔力を載せただけの声。だがそれは偽竜に恐怖を与えるに相応しい声だ。
一瞬、全ての偽竜の動きが止まる。そしてその一瞬があれば多数の武器と戦斧を持つヴィルトにとって殲滅は容易だ。
一瞬。刹那の瞬間に全てを斬り裂く。実に八割の偽竜がこれで死んだ。
「止めだ」
ヴィルトは手を空にかざす。
暗雲が立ち込め、昼は夜へと変わる。
そして黒い雲から黒い稲妻が降り注ぎ、残った偽竜を殲滅した。
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