第12話「侵食都市──深淵への招待」

世界は、静かに壊れ始めていた。

けれど誰も、それに気づこうとはしなかった。


気づいたときにはもう──

“向こう側”に、取り込まれていた。


──朝。天鏡学館・第三区。


校舎中央、講堂前の地面に奇妙な“縦のひび”が走っていた。

生徒たちはざわつき、教員は「空間安定処理中」と曖昧な説明で取り繕う。


七瀬 梨花(りか)は、制御塔のログを見てつぶやいた。


「これ……侵食率が高すぎる。完全に計画外……」


昼、講堂内。


巡回指示を受けた暁 蓮司(あかつき れんじ)と霞(かすみ)は扉を開ける。


その瞬間──


足元に、真っ黒な亀裂が走った。

空間が裂けるようにゆがみ、重力が逆巻く。


「っ……!」「蓮司!」


二人は次元の裂け目に引きずり込まれていく。

目の前が裏返り、音が消える。


──異界。


そこは重力も時間も不安定な、記憶とコードが混ざり合う“歪んだ現実”。


蓮司の目の前に、幼い自分──そしてもう一人の“自分”が現れる。


霞もまた、過去の実験施設や幼い蓮司の姿を見る。


「これが……あなただったの?」


過去の断片が、霞に問いかける。


同じ頃。


七瀬 路(みちる)は胸を押さえて立ち止まる。


蓮司の名前を叫ぼうとした瞬間、強烈な感情が流れ込んできた。


──「……守れなかったんだ……」


蓮司の心の奥底にある“声”が、直接響いてくる。


「これ……蓮司くんの……」


ミチルの中で、確かな“共鳴”が目覚め始めていた。


教団コードノヴァ本部。


白神 紫苑(しらがみ しおん)はモニター越しに異常を見ていた。


「侵食が……速すぎる。これは……俺たちの領域じゃない」


モニターに映る、ノイズ混じりの“影”。


「誰だ……お前は……」


異界の最奥。


蓮司は、もう一人の自分と対峙する。


「なあ──これが“自由”かよ?」


返せない問いを前に、蓮司は立ち尽くす。


霞が近づき、彼の肩に手を置く。


「だったら、今度は私が──あなたを引き上げる」


(第12話・完)

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