第9話「揺らぐ絆──霧神、再起動す」

想いが通じることは、奇跡じゃない。

でも──すれ違うのは、一瞬だ。


僕たちの絆は、脆いのか。

それとも……まだ、強くなれるのか。


──天鏡学館・朝。


暁 蓮司(あかつき れんじ)は、教室の席に座りながら、

無意識に拳を握りしめていた。


胸の奥が、ざわざわと波打つ。

けれどそれは、自分の感情ではないような気がしていた。


(誰かの怒り……誰かの焦り……)


周囲の雑音が、頭の中で増幅して響いてくる。


“共鳴”が進行している。

それは、融合段階に入りつつある証──

蓮司のコードが、他人の感情波を受信しはじめていた。


「……っ」


机の端がわずかに歪んだ。

周囲の生徒が小さくざわめく。


霞(かすみ)がすぐに視線を向けてきた。


だが、蓮司は目を逸らした。


放課後、訓練場。


「今日は、やめておいたほうがいい」


訓練を始めようとする蓮司に、霞は静かに言った。


「融合段階が進行してる。今のあなたは、危険すぎる」


「……またそれかよ」


蓮司の声には、焦りと苛立ちが滲んでいた。


「俺のこと、もう信じられないのか?」


霞はわずかに目を伏せた。


「信じてる。でも、だからこそ……距離を置きたい」


それは優しさか、恐れか。

どちらにも聞こえたし、どちらでもなかった。


蓮司は、静かにその場を離れた。


その夜。


七瀬 梨花(ななせ りか)は、研究用端末を操作していた。


閲覧制限を突破し、過去の適性コード記録にアクセスする。


そこにあったのは──


《対象記録:白神 紫苑(しらがみ しおん)》

元Ωコード適性者

状況:脱走・裏組織構築


「……彼も、“選ばれた器”だったのね」


だが、紫苑は従わなかった。

選ばれるのではなく、“選び直す”道を選んだ。


(彼の狙いは……?)


梨花は、端末を閉じた。


一方そのころ。

七瀬 路(みちる)は、自室で眠っていた。


その夢の中──

蓮司が、暗い空間で叫んでいる。


「離れろ……俺に、近づくな……!」


全身から黒い重力が噴き出している。


ミチルは、蓮司の手を取ろうと叫ぶ。


「蓮司くんっ!」


目を覚ましたとき、心臓は激しく鳴り、汗で額が濡れていた。


(……あれ、なんだったの?)


自覚はない。

だが確かに、ミチルの中でコードが“芽吹き始めて”いた。


翌朝、学館内。


蓮司はふと、鏡に映る自分が“わずかに遅れて動いた”のを見た。


(……今の……)


誰かが、自分を観察している。

そんな気配が、静かに背後を這っている気がした。


霞との距離。

暴れ始める力。

選ばれる器としての宿命。


全部が、少しずつ、狂い始めている。


その夜。

学館の教官会議室。


重い扉が静かに開いた。


霧神 零(きりがみ れい)が、数日ぶりに姿を現した。


会議室の教官たちがざわめく。


「霧神教官……! 戻られていたとは……」


彼は、誰にも返事をしないまま前へ進み、

スクリーンに投影されたコードノヴァの記録に目を落とした。


「“管理”が必要なのは、コードじゃない」


その声は冷たく、よく通った。


「……この世界そのものだ」


沈黙が、空間を支配した。


霧神の瞳の奥にあるもの──それは、正義か、狂気か。


(第9話・完)


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