推しの中の僕と僕の中の推し

隣のトロロ

第一話「ステージの奇跡。そして悪夢の始まり」

きらきらの照明、鳴り響く歓声。

俺、佐倉陸(さくら りく)は、人生で一番“尊い”瞬間を見上げていた。


「朝比奈詩音。今日も…神!!」


その日、俺の推しであるアイドルグループ「Luminous Kiss」のセンター、朝比奈詩音(あさひな しおん)は、ライブツアー千秋楽のステージに立っていた。


儚げな笑顔。伸びやかな歌声。ステップを踏むたびに揺れるシルエット。

そのどれもが、俺の脳を焼き尽くしてくる。


「もう、無理…好き…」


隣のオタ友が泣いていた。俺も泣いていた。みんな泣いてた。


だけど——その瞬間。


「…あれ?」


詩音の動きが、ふっと止まった。

脚がもつれるようにして、よろめく。


え?


バランスを崩した彼女は、そのままステージ前方へ倒れ込んで——


「詩音!!?」


俺は反射的に動いていた。

柵なんてどうでもよかった。気づけば駆け出していた。

全身で受け止めようと手を伸ばす。


そして--


ドンッ!!


俺の額に、詩音の額が激突した。


激痛と衝撃で、世界がぐにゃりと歪む。


まばゆいライトが弾けるように爆ぜて--

--俺の意識は、そこから落ちていった。


「…朝比奈さん!聞こえますか!?意識は!?大丈夫ですか!?」


目を開けると、見知らぬ天井。

スタッフらしき人が俺の顔を覗き込んでいた。


朝比奈…さん?


いや俺は陸で—


「ん…?」


スマホが差し出され、顔認証でカメラが起動する。


画面に映った顔は—


朝比奈詩音だった。


「………………は???」


騒然とする楽屋。心臓の音が爆音で鳴っている。


なんで俺が……詩音の顔してんだよ!!


一方その頃、ライブ会場の観客席では。


「あたたた……な、なにこれ……あれ……この声……?」


目を覚ました 佐倉陸(中身:朝比奈詩音)は、

自分が“推し活グッズだらけ”のオタクファッションに身を包んでいることに気づき、思わず言った。


「……え、ダサ……え、てか、なにこれ……ええ!?」


こうして、

推しとオタクの“入れ替わり”騒動が、幕を開けた——。

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