魔法バカは恋を知らない!

音心みら👒

第1話 魔法バカ〈前編〉

 フッフッフ……。いきなりだが!

 私は今! ラブコメをしている!!


 おっほん、取り乱してしまいました。

 ここはミストラ学園。

 入学の時に難しい話をいっぱいされたけど……よく覚えていません!

 簡単に言うならば……魔法のプロフェッショナルが集う、なんかスゴイ学校。

 国の中心部にある、とっても大きな学校です!

 教師・生徒ともにとても教養のある人ばかりで、卒業生には今でも活躍する魔術師がたくさんいる。

 私はフラーゴア・ノクターン。

 ミストラ学園二年部に所属している女子生徒です!


 まぁ、今日の今日まではフツーの、友達と仲良く、勉強も……みたいな学校生活を送っていた……。

 だがしかし! 

 今日……男子に呼び出された……!

 そして、早速!!!!

 その呼び出し先の魔法科学室のドアの前にいる……。

 放課後! 呼び出し! 青春のイベント!

 ラブコメの世界でしか見たこと無い!


 ガラガラ……。


 少し緊張した演技とモジモジ感を出しながら、「失礼しまーす」と小さな声で言い、教室に入る。

 沢山の薬品が並んでるけど、私にはサッパリ。

 そんな教室の一角のすこし雰囲気が違うプライベート部分にいる一人の少年は、制服を着崩して少しだらしないような雰囲気を纏っている。放課後の学校にはぴったりの雰囲気だ。


「本日は一体どのようなご用件で……?」


 私は何を言っているのだろうか。

 緊張して意味のわからないことを口走ってしまった。


 彼の名前はペーラ・アステリオ。

 だ。

 そう! 私は、彼と私しかいない、つまり二人きりの魔法科学室に呼び出されたのだ!

 私は今! ラブコメをしている!!

 いやいやいやいや! 幼馴染の男の子に、二人きりの教室に呼び出されたんだよ!

 これはもう……そういうやつじゃん……?


「今日はフラーに少し話したいことがあって」


 キターーーーーーーー!


「は、話って……?」


 まだこの物語始まったばかりなのに早速ハッピーエンドを迎えるのか!?

 私はソワソワする胸を落ち着かせながら尋ねる。


「その……」


 ソワソワソワソワ……。


「その……」


 ソワソワソワソワ……。


「……そのペンダントについて少し分かったことがあってさ」


 ん…………。

 ん…………?

 へ? どゆこと?

 そのペンダントについて……。

 そのペンダントについて……。

 そのペンダントについて……。


 頭の中で何度もリフレインするペーラくんの言葉。


「ぺ、ペンダントってこの……?」


 私は胸に下げたひし形のペンダントを持ち上げてみせる。


「そう。一年前くらい、この学園に入学してからずっと研究してきて、やっと幾つかさ」

「解明できたと……」


 ガクン……。


 なんだよ……。

 私は膝から崩れ落ちる。心の中で。


「どうした?」

「…………」


 落ち込んだ様子の私の顔を、覗き込むかのように話しかけるペーラくん。

 なんだよマジでぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ!

 え、フツーそんな言い方する!?

 誰だってあんな事言われたら勘違いしちゃうでしょ!?

 二人きりの教室に! 呼び出しておいて!? 告白じゃないの!?

 私の覚悟は何だったの!?


「え、怒ってる?」

「怒ってる」

「え、マジ?」

「マジ」


 思いっきり不機嫌な顔をペーラくんに向ける。

 それはもう睨むような勢いで。

 彼が入学から研究をしていたのは知っていた。

 魔法のこと、そして私のペンダントのこと。


「この魔法バカが……」

「え、酷くない? 唐突に悪口突きつけられたんだが」


 こいつさては垂らしか? 垂らしなのか……?


「ねぇ、ペーラくんって恋愛モノの漫画とか見るの?」


 全力の怪しむ目。もちろん怒ってる感を出すのも忘れない。


「えー、そんな恋愛だなんて。非科学的な物に興味なんて無いよ」


 此奴を魔法バカと以外にどう表そうか。本気で考えてみる。

 …………無理だ。


「ていうかそもそも恋愛って非科学的なの? 三大欲求だぞ。あんた男だろ」

「ふっ、そんなことを言ってると世間様から叩かれるぞ。それに、それとこれでは話が別だ」


 自分が一枚上手だろ、とでも言いたげに、椅子に座っている私を見下ろす。

 畜生が…………!

 しかも、言ってることが理に適ってるってわけじゃ無いぞ……?

 ドヤ顔ウザいなぁ。


「青春ごっこになんて興味ないんだ。研究に勤しむことこそが、将来役に……」

「それはただ単にモテないだけだろ」

「うぐっ……!」


 ペーラくんが言い終わる前に被せて突っ込む。

 こればっかりは私の勝ちだ。かなり効いている。


 でも、この魔法バカに呼び出されて、少しだけトキメキかけていた自分も悔しい。

 健気で品行方正、清廉潔白、聖人君子なこの私を舞い上がらせやがって……!

 この魔法バカが……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る