第39話

「来るぞ……あれ、間違いなくヤバいやつだ!」


俺は即座に構えた。演算核から出現した機体──〈レヴナント・ゼロ〉。全身が黒曜石のような滑らかな装甲に包まれていて、関節部が異様に細い。だがその動きは、無駄がなく、凄まじく精密だ。


「データ反応、異常域……!演算能力、並列複層式……五階層……!?そんな……!」


「ミア、焦るな!こいつは……今までの四体とは次元が違う。人工知能じゃない……たぶん、意思持ってるぞ!」


「つまり、対人戦と同じってことか!」


「そーいうこと!」


カイが叫んだ直後、〈レヴナント・ゼロ〉が指を鳴らした。


瞬間、空間そのものが歪んだ。


「《領域展開》だと!?」


「わっ……視界が、歪んでる!?」


まるで万華鏡の中に放り込まれたように、部屋全体が分裂したような視覚情報に塗り替えられる。だが俺の〈空間知覚〉が教えてくれる。空間そのものは固定されてる。これは視覚と聴覚を直接撹乱してくるタイプの術式だ。


「幻覚じゃない。情報汚染……でも、重層構造だ。複数の幻視を同時に重ねてる!」


「くそっ、厄介だな……でも!」


「突破口はあるよね、リクト」


「あるさ!」


俺は自分のスキルツリーの中でも最も制御が難しい部類──


「《干渉術式・絶対補正》!」


〈レヴナント・ゼロ〉が生み出した錯視構造を、脳内演算で無理やり上書きする。


「見えた!」


視界が開けたその一瞬を逃さず、俺は駆け出した。〈レヴナント・ゼロ〉もまた、こちらの意図を即座に察知したのか、指先から淡い青白い光の粒子を展開し始める。


「重力制御かよっ……!」


「ミア、支援頼む!」


「任せて、《精密狙撃・逆位相》!」


ミアの射撃が重力場のバランスを一瞬崩す。その隙に俺は急加速、目にも留まらぬ速さで距離を詰めて斬撃を叩き込んだ。


だが──


「通じない……!?」


斬撃が確かに胴体をとらえたはずだった。なのに、感触がない。まるで空気を切ったように手応えが消失した。


「《位相転移》持ってる!物理干渉、無効化されてるっぽい!」


「じゃあどうすんだよ!攻撃できねぇぞ!」


「逆に考えるんだよ。位相転移ってことは、干渉できる空間を選んでる。なら……強制的に連結させりゃいい!」


俺は咄嗟に指を弾いた。


「《拘束術式・固定座標》!」


瞬間、空間の一点に固定術式を生成。〈レヴナント・ゼロ〉の右肩が座標に引き込まれるように揺れた。


「そこだカイ!」


「《雷撃穿刺・極点》!」


カイの槍が、裂け目に突き刺さる。重力が一気にねじ曲がり、衝撃で〈レヴナント・ゼロ〉の動きが数フレーム、完全に止まった。


「《裂断術式・連鎖》!」


止まったその刹那に、俺は全力で複数の斬撃を叩き込む。演算核の周囲に生じるエネルギー干渉帯。視覚的には見えない。だが、確かにそこにある。


「まだ、だ!」


〈レヴナント・ゼロ〉の胸部が開いた。内蔵された複数の小型無人兵器が、一斉に展開される。


「また新手かよっ……!」


「ミア、周囲制圧!」


「了解、《収束拡散》っ!」


ミアの射撃が炸裂し、無人機が煙と共に砕け散っていく。その間に〈レヴナント・ゼロ〉の胸部装甲が、赤く脈動を始める。


「これ、演算核が──自己崩壊準備……!?」


「こいつ、自爆する気か……!」


「まだ……終わらせねぇ!!」

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