第10話

廃墟の街を歩きながら、俺はミアに注意を促した。


「足音、もっと殺せ。蹴り上げるんじゃなく、地面をなぞるようにだ」


「こ、こう?」


ミアがぎこちなく歩き直す。まだ音は目立つが、最初よりマシだ。


「悪くねぇ」


「ほんとに?」


「嘘ついても意味ねぇだろ」


「……うん!」


ミアの顔に小さな笑みが浮かぶ。


俺たちは慎重に進みながら、瓦礫に埋もれたコンビニ跡を目指した。


「この辺、まだ漁られてないかもしれねぇ」


「期待、できる?」


「わからん。ただ、ここいらじゃマシな方だ」


「うん!」


ビルの陰を抜け、朽ち果てたコンビニの前に立つ。


ドアは吹き飛んでいて、中は暗かった。


「俺が先に入る。ミアは外で見張れ」


「わかった!」


ミアを入り口に残し、俺はナイフを片手に中へ入った。


鼻を突く異臭。だが、食えるもんがあるかもしれねぇ。


「……」


棚はほぼ空だった。だが、レジ奥に小さな金庫が転がっている。


「なんだこれ」


近づいて確認する。


鍵は壊れていた。中には、乾燥肉のパックと、水のペットボトルが数本。


「──大当たりだな」


にやりと笑った瞬間──


背後から、獣臭が漂った。


「っ──!」


反射的に身を翻す。


そこにいたのは、モンスターだった。


肩幅より広い顎、鋭い爪、血走った目。


「──ちっ!」


躊躇なく飛び退き、ナイフを構えた。


「リクト!!」


入り口からミアの悲鳴が聞こえた。


「外にいろ!」


怒鳴り返し、モンスターと対峙する。


奴は唸り声を上げながら、床を抉って迫ってきた。


「上等だ!」


地を蹴る。


正面からの突撃なんざ、真正面で叩き潰してやる。


「うおおおおっ!」


ナイフを振りかざし、モンスターの目を狙う。


だが──


「ぐっ!」


モンスターの前足が意外と素早く、ナイフを弾かれた。


「っだろ!」


体勢を崩しながらも、すぐに反撃に移る。


床を転がって間合いを取り、ペットボトルを拾い上げる。


「武器なんて、なんでもいい!」


叫びながら、ペットボトルをモンスターに投げつけた。


直撃。


「──ッガ!」


一瞬たじろぐモンスター。


その隙を逃さず飛び込む。


「ここだぁっ!!」


ナイフをモンスターの下顎に突き立てる。


肉を裂く感触。血が噴き出した。


「まだだ!」


ナイフを押し込み、喉元をえぐる。


モンスターが悲鳴を上げ、暴れまわる。


「ぐらついたな──!」


奴の巨体をかわしながら、さらに脇腹を切り裂いた。


「おらぁっ!」


トドメに、後頭部にナイフを突き立てる。


ぐしゃり。


モンスターは、地面に崩れ落ちた。


「──っは、っはぁ……」


血に塗れたナイフを見下ろし、荒い呼吸を整える。


「リクト!」


ミアが駆け寄ってきた。


「無事、か?」


「平気だ。けど、お前──言ったろ」


「外にいろ、だよね……」


うつむくミアに、ため息をつく。


「ま、今回は助かった。次は気をつけろ」


「うん!」


ミアは強く頷いた。


「──さて」


倒れたモンスターを一瞥し、拾った乾燥肉と水をまとめた。


「物資ゲットだ」


「よかった……!」


「喜ぶのは後だ。まだこんなもん、焼け石に水だ」


「……うん!」


俺はペットボトルを片手に、コンビニを後にした。


外の空気は腐臭まじりだったが、まだマシだった。


「行くぞ、ミア」


「はい!」


小さな足音が、俺の背中を追いかけてきた。

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