崩壊世界で神の武器を拾った俺は、少女と共に滅びに抗う

☆ほしい

第1話

──俺は、今日も廃墟を歩いていた。


砂埃が舞う。瓦礫に埋もれた道路。崩れたビルの間を縫うようにして、俺は進んでいく。目につくのはひび割れたコンクリート、焼け焦げた車、そして骨だけになった死体だ。生きた人間なんて、もう滅多に見かけない。


「……チッ、またか」


鉄骨が剥き出しになった建物の影から、モンスターが這い出してきた。皮膚が破れ、筋肉がむき出しになったような化け物だ。腐臭が鼻を突く。


「やれやれ、面倒だな」


腰のナイフを抜く。錆びたナイフ一本。それでも、今の俺には十分だった。モンスターが咆哮を上げて突っ込んでくる。俺は冷静に一歩踏み出し、その頭にナイフを突き立てた。


ぐしゃっ──


肉が潰れる感触。抵抗を感じる間もなく、ナイフが頭蓋を貫く。モンスターはその場に崩れた。


「弱い」


吐き捨てて、ナイフを引き抜く。血とも膿ともつかない液体が刃から滴った。


「──次」


別の方向から、また足音が聞こえる。ああ、面倒だ。数えきれないほどのモンスターが、今もこの世界にはうろついている。俺は振り返りもせずに走り出した。


「バカバカしい……!」


走りながら、呟いた。こんな世界、さっさと終わればいい。だが──俺はまだ、生きている。


廃墟の隙間を駆け抜け、影に身を潜める。モンスターたちは俺の存在を察知していない。今の俺には、気配を隠すスキルがある。いつ覚えたのか、わからない。ただ、飢えと恐怖の中で生き延びるうちに、勝手に身についていた。


「──見つけた」


ぽつりと、呟いた。


目の前に、崩れかけた聖堂があった。尖塔は折れ、壁には巨大な亀裂が走っている。それでも、なぜか引き寄せられる。胸の奥がざわついた。


「……なんだ、ここは」


俺は躊躇いながらも、聖堂へと歩みを進めた。


ドアは半分吹き飛んでいた。中に入ると、粉塵の匂いと古い木材の腐った臭いが鼻を突いた。だが、それ以上に……何か、強烈な違和感があった。


「誰か、いるのか?」


声をかける。返事はない。


「気のせいか……」


ため息をつきながら、奥へと進む。祭壇の前に、何かがあった。


それは、黒ずんだ大剣だった。


──異様な存在感を放っていた。


俺は、無意識に近づいた。手を伸ばす。触れた瞬間──


「ッ──!」


頭の中に、膨大な情報が流れ込んできた。


焼き尽くされた世界。滅びをもたらした神。人類を救うため、禁忌に手を染めた者たちの記憶。すべてが、一瞬で脳を焼いた。


「ぐ、ああああああッ!!」


膝をつき、頭を抱えた。視界がぐにゃりと歪む。吐き気と、めまい。だが、その中に──確かなものを感じた。


力だ。


「──俺に、力を……?」


誰にともなく、そう問いかけた。


返答はなかった。ただ、黒剣が、まるで呼吸するように脈打っていた。


「ふざけんなよ……」


歯を食いしばり、剣を握りしめる。


「そんなもん、──欲しいに決まってるだろ!!」


叫んだ瞬間、黒剣が爆発するように光を放った。周囲の瓦礫が吹き飛ぶ。俺の体は宙に浮いた。


──次の瞬間、意識が暗転した。


どれくらい、気を失っていたんだろう。


「……あ?」


気づけば、俺は祭壇の前に座り込んでいた。黒剣は消えていた。しかし、俺の体に、明らかに異変が起きていた。


腕に、黒い紋様が刻まれていた。触れると、微かに脈動している。


「なんだ、これ……」


違う。体の奥底から、圧倒的な力が湧き上がるのを感じる。まるで、何千、何万の兵士を従えた王にでもなったかのような、確信。


「やべぇな、これ……」


呟いた俺の声が、どこか他人事のように響いた。


その時、聖堂の外から、怒号が聞こえた。


「こっちだ! 生き残りだ!!」


「逃がすなッ!」


数人の男たちが、武器を構えて駆け込んでくる。──生きた人間だ。


だが、俺の胸には微かな違和感があった。奴らの目は、明らかに俺を“獲物”として見ていた。


「……はあ?」


俺は立ち上がった。


「人間かと思ったら、ただの野盗かよ」


気配を読むまでもない。殺気が、これでもかと漂っている。


リーダー格らしき男が、汚れたマスクを外し、にやりと笑った。


「おいおい、ビビってんのか? 大人しく差し出せよ、全部よ」


「全部って?」


俺が訊くと、男たちはゲラゲラ笑った。


「食料だよ、装備だよ、命だよ!」


「こいつ、けっこういい体してるしなあ。売り飛ばしてもいいかもな?」


俺は、ため息をついた。


「マジで、世界が終わってもクズはクズだな」


「なんだとコラァ!」


一人が怒鳴りながら、棍棒を振りかぶって突っ込んでくる。


──次の瞬間、俺はそいつの目の前にいた。


「……え?」


棍棒を振り下ろす間もなく、俺はそいつの首を掴み、持ち上げた。


「な、なに、ぐえ……っ!」


指に力を込める。ボキリ、と嫌な音がして、男はぐったりと動かなくなった。


「──次」


残りの連中が、一瞬で青ざめた顔をした。

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