復活の遺跡と兵装解放
なんとか遺跡の外にまで脱出したコンスタンスとクロは、ベルンたちと無事合流を果たす。
「コンスタンスさん! ごめんなさい! 大事に巻き込んでしまって!」
「いえいえ。ですけれど、わたくしはイクセルさんが心配ですわね……」
「姫様、いくら姫様が慈悲深いとはいえども、限度というものがございます!」
アンジェリカに泣き疲れてしまったのをコンスタンスが宥めつつも、クロにチクリと釘を刺されるが、それにコンスタンスは「そんな意地悪を言ってはいけませんよ、クロ」と返す。
「たしかにわたくしひとりがいれば、遺跡は起動できたでしょうし、あの中にあった大量の古代兵器の復活も成し遂げられたでしょう。ですが、現在進行形でそれらはなされておりません。なぜだかわかりますか?」
「……姫様が逃げ出せたから、ですか?」
「いいえ。わたくしもさすがに腕力では叶いませんし、わたくしの召喚術が封印されていたら脱出は不可能でした。あの遺跡でしたら、マナの制御も可能でしたでしょうが、彼はそれをしませんでした。彼は迷っているのだと思います」
「姫様姫様、それはいくらなんでも人がよ過ぎますぜ」
見かねたベルンがクロの肩を持つが、意外なことのドナシアンが「そうかもしれませんね」と同意したのだ。
「おいおい……あんたはいったいどうしてそう思って?」
「姫様ほど優しくは思ってないが……少なくともまともな人間だからこそ、他人の命や魔力を使って遺跡や古代兵器を復活させるのをよしとはできなかったんだと思うよ。ここの騎士団の団員全員分の命があれば、古代兵器全部とまではいかなくとも、遺跡復活まではできそうだからね」
「……怖いことを言うなあ……」
ドナシアンの見解にベルンがげんなりとしたときだった。
突然ポチが「グルルルルルルルルルルル……」と唸り声を上げはじめた。
「ポチ?」
「グルルルルルルル……」
「どうしましたか?」
コンスタンスが心配してポチを肩に乗せたときだった。
ズシン……ズシン……。
突然に地響きに揺れ。それに驚いて木に捕まるが。その震動の先を見て、ドナシアンは「ああ……」と声を上げた。クロは悲鳴を上げる。
「ドナシアン、もったいぶらないでおっしゃい。これはなんなんですか!?」
「うんクロエ。姫様はここの責任者を優しい方とおっしゃっていたけれど……その優しい方は、正義感と悪逆を両方兼ね備えているようだね」
「だからまどろっこしいこと言わず、はっきりと」
「部下の命を使わなくても自分の命を使えば遺跡の復活は可能と踏んだのだろう」
「はあ!? 待ってください。ここの責任者の方……魔力はないのでしょう?」
普通ならありえないことだが。だが現在進行形で、遺跡は動いている。
巨大遺跡が移動なんてしたら、たとえそこから古代兵器が出なくても、誰も攻撃できないし、そもそも逃げること以外打つ手はない。既に枯渇してしまった数多のレアメタルでつくられたものは、同じような古代兵器でない限り破壊することどころか、防衛することすらできないのだから。
コンスタンスは揺れに耐えながら、ちらりと周りを見た。
拓けた場所まで出れば、彼女も完全召喚は可能になる。
「……わかりました。あの遺跡、わたくしが止めましょう」
「ちょっと待ってください、姫様。いくら姫様が白亜の守護神を召喚できると言いましても、あれにはちょっと強いくらいしか能力が」
「兵装を解除します」
「!?」
クロとドナシアンは息を飲んだものの、ベルンとアンジェリカは意味がわからず、ふたりの顔を見ていた。
「ええっと、姫様の白亜の守護神の兵装を解除って……そんなにすごいの?」
「……本来、アルベーク王国では古代兵器を召喚する際、術式に封印を施しています」
「どうして?」
「火力が強過ぎて、現代存在する魔法では、それこそ古代から存在する魔物でもない限り対処することが困難だからです。ですが、今回は状況が違います。遺跡は巨大古代兵器の一種だとしたら、古代兵器は古代兵器でしか対抗できません。姫様は……その兵装を解除するとおっしゃっているのです」
つまりは、今までは魔力や周囲のマナの食われ具合で封印していたものを解くということだ。そんなことをすれば、コンスタンス自身への負担が大きいというのに。
そのことに「ハワワワワワ……」としているアンジェリカのほうに振り返った。
「アンジェリカさん。わたくしと一緒に来てくださいませんか?」
「はっ、はいぃ? 私は本当になんにもできないんですけど……」
「ですが、あなたはイクセルさんと曲がりなりにも夫婦。わたくしの言葉は届かなくとも、あなたの言葉ならば通じる可能性があります。なによりもクロたちには、下で他の騎士の皆さんの足止めをしていただかなければなりませんから。あの中にアンジェリカさんを置いておくことはできません」
コンスタンスの言葉に、アンジェリカは黙り込んでしまった。
彼女視点では、無理矢理神殿から連れ戻されての結婚が嫌だったから逃げ出したのに、まさかこの結婚がこんな大事になるだなんて思ってもいなかっただろう。
だが彼女の屋敷は既に近衛騎士団に乗っ取られてしまっているし、このままだと家族だってどうなるかわからない。
それならば、情に篤いコンスタンスの言葉を鵜呑みにして、自分の結婚相手の情を信じる他ないのだが。
しばらく口を塞いだあと、やがてアンジェリカは首を縦に振った。
「よろしくお願いします……私でお役に立てるかはわかりませんが」
「いいえ、充分です。クロ、ベルン、ドナ。騎士の皆様の足止めをどうぞよろしくお願いします……あまり長引かせて、勝手に宣戦布告したと見なされたら困りますわね。速攻で蹴りを付けてきますから。参りましょ、アンジェリカさん、ポチ」
「は、はいっ!」
「クワァァァァァ……」
ふたりはスカートを翻して走り出し、ポチはふたりを先導するように飛び交った。
残されたクロとベルン、ドナシアンは振り返った。遺跡から脱出するように言われた近衛兵たちが、押し寄せてくる。
「姫様たちの作戦、上手く行くと思うかい?」
ベルンは仕方なく腰に提げた剣を引き抜きながら尋ねる。それに短刀を取り出したクロが「フンッ」と鼻息を立てた。
「私は姫様をお守りするのみです」
「そうかい……で、おたくは?」
キャラ被りしているようで微妙にしてないドナシアンに尋ねると、ドナシアンは竪琴からワイヤーを引き抜きながら朗らかに答えた。
「姫様が自分たちが止めても言うことは聞いてくれないだろうね。それに、ここで遺跡が暴れて、領民が大量に死なれても目覚めが悪い」
「そっちは理解できる……なら、姫様の御心を守るためにも戦おうや」
「当然です」
「当然、だね」
三者三様、息を整えて、こちらに押し寄せてきた近衛騎士団の迎撃態勢を整えた。
****
森が少し拓けた場所。おそらくは遺跡発掘の際の拠点として使われてたからだろう。
そこでコンスタンスはアンジェリカに振り返る。
「それでは、術式を解除致しますから、少々お待ちくださいませ。遺跡の動きだけ見ていただけますか?」
「は、はい……なんか本当に遺跡は動いてますけど、スピード自体は早くないようですね?」
「おそらくは、起動自体は成功しても、思い通りに動かすほどのコントロールができないのだと思います。あれは魔法と同じくマナの操作が必要ですから」
「そう、なんですね……」
アンジェリカがそわそわしながら遺跡に視線を移している中、コンスタンスは手に力を込めた。魔方陣が閃く。
「スタンダップ、白亜の守護神! 兵装……解除」
たったひと言である。しかし、その言葉に練り込まれたマナこそが、古代兵器にかけられた縛りを解除する。
魔方陣から召喚された、つるりと光る雄々しい巨体。その巨体には、大きなランスが備えられていた。それは王立騎士団の装備にも見える……否。かつての古代兵器に付けられていた装甲こそが、騎士団編成時につくられた武装のモデルなのだ。
コンスタンスはアンジェリカと共に、白亜の守護神の肩に乗ると、動きはじめる。ポチはその隣をすごい勢いで飛びはじめた。そのスピード感に、アンジェリカは悲鳴を上げる。
「ハワワワワワワワ……コンスタンスさん! このスピードで、遺跡を破壊するおつもりですか!?」
「完全破壊はしませんが、
「困りますよぉ……」
アンジェリカは白亜の守護神に捕まりながら、前方を見つめた。
遺跡はあまりに大きく、どこが
やがて遺跡からなにかが伸びてきた。大砲ではない。捕縛用のアームだ。それが白亜の守護神目がけて飛んできたのに、コンスタンスは冷静に指示を取る。
「ポチ、牽制で空気砲」
「クワアアアアアアア!!」
ポチがファイヤーブレスの代わりに噴き出した空気砲により、アームの起動がねじ曲がる。それを白亜の守護神が手にしていたランスをギュルギュルと音を立てて粉砕した……ランスはドリル状になっており、それによりたちどころに破壊を行うのだ。
「古代兵器つくった人はなに考えてるんですかあ……どうしてランスにドリルついているんですかあ……」
思わずアンジェリカが涙目になって訴えると、コンスタンスは風で髪を靡かせつつ、小首を傾げた。
「わたくしにはよくわかりませんが……召喚術を教えてくださった師匠がおっしゃっていましたわ。『浪漫に勝る武装はあるまい』と」
「ドリルが浪漫ってなんなんですかああああ!!」
アンジェリカが悲鳴を上げずにはいられなかった。
****
コンスタンスが連れてこられた魔力吸収装置の上。そこにイクセルがいた。
部下が全員逃がし、自身の生命力を流す。正式な魔道士のようにマナを錬る力もなければ、魔力もない。だから命を使って遺跡を起動させるしかなかった。
遺跡を動かす。体全てが遺跡になったような衝動を覚えるものの、目がない、耳がないという体は不安定な上、皮膚感覚で標的を探すとなったら至難の技だったが、これについては武道を嗜んできた勘が働いた。
外は喧噪と混乱に溢れかえっている中、一カ所神々しいマナが満ちているのに気付く。
白亜の守護神が、ランスを携えて飛んでいたのだ。そしてその上。
魔力の塊である次期妃に……忘れもしなかった初恋の少女が乗っていたのだ。
「どうして……」
しゃべればしゃべるほどに、息切れを起こす。命をどんどん遺跡に吸われていっているのだ。
「どうして、彼女を巻き込んだ……!」
国よりも誇りよりも正義感よりも選んだ、たったひとりの大切な人だった。
相手が忘れていても、自分さえ覚えていればそれでよかった。
だというのに、あの次期妃は己の正義のために、彼女を巻き込んだ。
「……許さん」
怒りは、もっとも激しい力だ。
しかし怒りは怒るほどに消耗が激しくなり、命を塵ひとつ残さずに燃やし尽くしてしまう諸刃の剣。今イクセルは、その諸刃の剣を引き抜こうとしていた──。
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