第14話 新たな出会い

 ギルド内がまるで市場のような騒がしさに包まれていた。否、それ以上かもしれない。魔力測定が終わった直後から、ギルドの空気は一変した。各パーティーが新人冒険者のスカウト合戦に躍起になっていたのだ。特に目を引くのはリオンへの注目度の高さだった。

「リオンって名前だったよな!ぜひうちのパーティーに!」

「いやいや!ぜひウチの主戦力になってくれ!」

「うちに来れば、上位大陸への移住も夢ではないぞ!」

 リオンの名が呼ばれるたびに、どこか誇らしくもあり、胃の奥がきゅっと痛む。リオンはまさに「新人」という言葉が失礼に感じるほどの逸材だった。訓練学校でも群を抜いたセンスと実力、そしてあの魔力数値。放っておく方がおかしい。全てが兼ね備えられた彼は、今やパーティー争奪戦の中心にいた。

 次いで人気なのがカイルだった。いまだヒーラー不在で魔物討伐に挑んでいるような無謀なパーティーもあるらしく、そんな連中にとっては“命綱を手に入れる”チャンス。そりゃあ、理が非でも獲得したいだろう。

 そしてマリー。魔術系統スキルに特化しており、それでいて身体強化系統スキル、武術系統スキルも備えている万能型。文句のつけどころがない。加えてその容姿だ。赤髪のポニーテールに整った顔立ち、涼しげな目元にスッと通った鼻筋。冷静沈着なその佇まいに、多くの男どもが惹かれていた。

「強くて綺麗とか……完璧すぎるだろ!」

「ぜひうちの……いや、僕の隣に!」

 スカウトの名を借りた求婚の嵐に、マリーは完全に無表情だったが、眉間のしわの深さからストレスは計り知れない。……後が怖そう。

 こうして、3人はギルド内の熱気の中心にいる。これは、受付のお姉さんに聞いた話だが、実はこのギルドでは、ジャビス出身の冒険者は「優秀」という評判がすでに定着しているらしい。それには理由がある。ジャビス周辺の森には魔物が多く生息しており、それに対応するため、ギルドと学校が協力体制を敷いていた。現役冒険者が教師として派遣され、魔物の対処と並行して訓練学校で教鞭をとる。その結果、生徒たちは“現場で通用する技術”を学び、鍛えられていく。だからこそ、ジャビス出身の新人が現れると、どのパーティーも一目置くらしい。

 そんなギルド内の喧騒を、俺は壁際の椅子に座りながら、黙って見つめていた。

「……暇だ」

 心の底から漏れた独り言。実際、俺の周りには誰もいない。スカウト? あるわけがない。むしろ、俺の周囲にはぽっかりと空間ができている。人が避けているのが、目に見えて分かる。

「おい、あれ見たか?魔力色が透明、だってよ」

「ふーん、得体の知れない新人ねぇ……まあ、あれじゃスカウトされなくて当然か」

「透明なんて、文献にもないって話じゃねーか?なんか気味悪いよな」

「あいつマジで人間か?存在感が無いって意味だったりしてなっ!」

 俺の耳は良すぎるんだよ、こういう時に限って。

(なんなんだよ。なんで俺だけ…未知の魔力色?そんなこと言われても知らねーよ)

 沈黙と距離感で拒絶される。自分の存在が酷く希薄になっていく感覚。

(俺の努力は……何だったんだ?)

 心の奥に渦巻く、やり場のない怒りと悔しさ。誰にもぶつけられない感情が頭の中でさ迷っている。ここにいても辛いだけだから、もう帰ろうかな。冒険者用の宿があるみたいだし、ギルドマスターとの面談までそこで待機していよう。そう考えていたそのときだった。

「……ねぇ、君。セナ君っていったっけ?うちのパーティーに入らない?」

 後ろから、ふいに声がかかり、振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、腰の高さまで伸ばした薄桜色の髪が似合う女性。可憐な外見とは裏腹に、瞳には冒険者としての自信と覚悟を感じるほど力強い意志が宿っている。身長は俺と同じくらいで、歳は20代前半だろうか。俺を包み込むような暖かい眼差しを向けている。

「私はララ。Aランク冒険者パーティー“アドマイヤ”の一員よ。もしよかったら、君にうちの仲間になってほしいの」

 ……思考が、数秒止まった。

「……え?」

 我ながら間抜けな返答だった。だって、信じられるか?だって、俺だぞ?今さっきまで得たいの知れないだの、不気味だの、本当に人間か?だの、散々なことを言われていたこの俺を?

 周囲がざわめきだす。

「おい、あれってララじゃないか? アドマイヤのララ!」

「うそだろ、あの“無色”をスカウトするのか……?」

「どういう趣味してるんだよ、アドマイヤは……」

 声の主たちは、驚愕よりも困惑を強く滲ませていた。

 ララ。Aランク冒険者。周りの反応から察するに、“アドマイヤ”はかなり実力派のパーティーなんだろう。そんな実力者が、なぜ俺に声をかけてくる?

「俺なんかで……いいんですか?自分から言うのもなんですが、色々と問題がありますが…」

 思わず口から出ていた。するとララは、ほんの少しだけ、表情を柔らかくした。

「うん、私も昔、君と同じことを経験したの。似たような目にあって、孤独を味わって……でも、仲間と出会って変わったの。今度は私が、君の運命を変えたいって思った」

 (同情……か)

 普段ならこんな卑屈なことは思わないはずなんだが、今日ばかりは心が荒んでいるみたいだ。せっかく声をかけてくれたが、この人は俺を必要としているわけではないんだろう。丁重にお断りをするため、言葉を選んでいると、

 「ただし、ひとつだけ条件があるわ」

 ララの声色が少しだけ引き締まる。

 「私たちの目標を聞いて、それでも共に達成させる覚悟があるか?よ」

 「どんな目標なんですか?」

 断ろうと思っていたが、ララのあまりの迫力に、思わず聞き返してしまった。

「私たちは、『神獣ボルテシアに会うこと』を目標にしているの。そのために上位大陸を目指す。無謀と言われる夢よ。……それでも、一緒に目指す覚悟があるなら、仲間として迎えたい」

 ララの話を聞いた瞬間、俺の心が鷲掴みにされた感覚だった。それは、小さな村の子どもだった頃に見た夢。誰に笑われても、忘れずに抱き続けてきた俺の“原点”。今も変わらない。変えない。

「……馬鹿げてると思うかもしれないけど、私たちは――」

「馬鹿げているものか!俺はそのために冒険者になったんだ!!」

 ララの言葉を途中で遮り、今まで蓄積してきた葛藤を吹き飛ばす思いで叫んでいた。驚いたように目を見開いた彼女の顔が、ほんの一瞬だけ、驚愕から歓喜に変わる。周囲がざわついた。不審者に思われたかもしれない。けれど、俺は一切気にしなかった。これが俺だ。夢を笑われても、突き進むと決めた俺の姿だ。

 ララはふっと微笑んで頷く。

「そっか、ならもう何も言わないわ。ようこそ、セナ君。アドマイヤへ」

 あの暖かい眼差しが、再び俺を包んだ。

 心の奥底で、ずっと欲しかった“出会い”が、ようやく訪れた気がした。ララたちは俺を必要としているわけではないだって?そうではない。俺がこの人たちを必要としているんだ。

 心の中は今までで一番晴れやかだった。こうして、俺はアドマイヤに加入することとなった。

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